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QuizKnockメンバーが卒業旅行の思い出を語る「卒業旅行、ここ行った!」、今回はが担当します。

発掘調査は旅である

実のところ、僕はこれまでの大学生活で、純粋な観光目的の旅行に行ったことはほとんどない。その代わり、所属している考古学研究室の発掘調査によく参加した。その回数は、研究室に配属されてから20回以上に及ぶ。

発掘調査では、自分たちで掘り出した遺構や遺物にじかに触れながら、現場作業のやり方を覚える。毎年各地の遺跡を訪れ、ときには1週間以上も現場にかかりきりになって生の知識と経験を身につけるのだ。

また個人的には、発掘現場だけでなく、遺跡のある町に根付く文化や自然に触れることも楽しみのひとつだ。発掘調査は僕にとって、自分の世界を広げるための旅ともいえるものである。

世界遺産・徳之島へ!

その中でも特に思い出深いのが、世界遺産にも登録されている鹿児島県の離島・徳之島での発掘調査だ。

日本の考古学において、徳之島を含む奄美や沖縄の島々は特殊な場所だ。本土の土壌の多くは酸性を示すため、地中で動物の骨がほとんど溶けてしまうが、アルカリ性の石灰岩で形成されている地形が多い南西諸島では、骨が溶けずに長く地中に残る。そのため、遺跡からは有機質の遺物が豊富に出土するのだ。

そうした魅力に加え、本土とは異なる文化圏の遺跡に触れることができる(しかも発掘調査の旅費は大学側が出してくれる!)ということもあり、大学3年生から毎年訪れてきた。

以来4年にわたり僕は徳之島に通い続け、ついに今年(2026年)の調査は学生生活最後の発掘調査になった。今回は、そんな僕の島での思い出をたどっていきたい。

島へ行くのも大仕事

大学のある仙台から徳之島までは、直線距離にしておよそ1600km。飛行機で乗り継ぐと6時間ほどかかる。

▲晴れていると屋久島も見える

到着するといつも感じるのが温度差だ。この時期の徳之島は、最高気温が最高気温は20度を超える日も多く、着てきた上着が途端に荷物に変わる。

▲島の空の玄関口・徳之島子宝空港

そして日も長い。この時期の日没時間は、仙台がおよそ17時30分、徳之島ではおよそ18時30分で、ほぼ1時間の差がある。総じて、東北から来た人間の季節感覚からすれば3月の徳之島はほとんど初夏だ。

▲美しい島の夕暮れ

遺跡のこと

遺跡があるのは、ガジュマルの根が絡みつく鍾乳洞の中だ。これまでに、貝塚時代前期の土器や石器、骨や貝殻などの動物遺体、装飾品などが断続的に出土している。

▲ふもとから遺跡のある崖を見上げる

貝塚時代:本土とは文化圏が異なる南西諸島で用いられる時代区分。貝塚時代前期は、おおよそ本土における縄文時代に相当する。

当時の人々は、鍾乳洞の中に拠点を築き、狩猟によって食料を獲得しながら生活していたと考えられている。遺跡の中にはいくつかの調査区が設定され、僕たちはそこを掘り進めながら遺物を回収していく。鍾乳洞の中は電波が通らないため、自然とスマホ離れの状態になりながら作業を進めていた。

▲遺跡からの眺望。近所からはウシの鳴き声も聞こえる。奥に見えるのは東シナ海

ちなみに、石灰岩は島の地形にも影響を与えている。山地から流れ込む川や、海から押し寄せる波に浸食されて作られた渓谷や崖は絶景だ。

食べるのも観光(と仕事)のうち

旅行の目玉に食事をあげる人は多いだろう。発掘調査のために島に滞在する僕にとっても、食事は数ある楽しみのひとつである。地域の食文化に触れる体験は大事だし、毎日の現場作業で体を動かすので栄養補給も重要になってくる。

朝食で僕がよく食べていたのが、地元のコンビニで売っているばくだんおむすびだ。

▲手のひらと比べると、大きさがよく分かる

これを2個食べておけば、昼食までは腹が持つ。現場までの移動時間を食事にあてられるのも嬉しい。黒豚入りなど、鹿児島らしいものもあった。

▲効率的な朝食の図

昼は現場で幕の内弁当を食べる。揚げ物にはソース、ではなく甘い醤油が添えられていた。何気ない食事の中にも、普段自分が食べているものとは違う文化を感じられる。

▲九州ではお馴染みの味付け

夜は宿舎近くのレストランで郷土料理を食べた。メイン料理はもちろん、パパイヤの醤油漬けたんかん(奄美地方特産の柑橘類)など、地元ならではの付け合わせや味付けも魅力的だった。

ゴーヤチャンプルー 徳之島では、ソテツの実を使った「なり味噌」で味付けされている
海鮮丼 たんかん(右上の柑橘類)やパパイヤの醤油漬け(中央の茶色い漬物)もついている
油そうめん そうめんで作った塩焼きそばといった感じ。あっさりしていておいしい
鶏刺し 鹿児島名物の鶏の刺身。徳之島では、ヤギ肉を使ったヤギ刺しも食べられる

徳之島では、名産の黒糖を使った嗜好品も多く売られている。僕も調査期間中に、ピーナッツに黒糖をかけたサタマメ黒糖焼酎をよくいただいた。

おなじみサーターアンダギー 地元ではサタテンプラと呼ばれる
黒糖焼酎 芋や麦の焼酎よりもクセが少ないと評判。写真の『里の曙』は、強いお酒が苦手な僕でも飲みやすい
サタマメ 徳之島土産の定番。黒糖焼酎のつまみにも合う

島の生き物たち

徳之島といえば、世界自然遺産である「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」を構成する島の1つとして知られている。

暖かな3月の徳之島では、既に多くの生き物が活発に活動しており、特に自然の中で行う発掘調査では、そうした生き物も多く見かける。

▲島の固有種・オビトカゲモドキ ピンクと白の帯模様が美しい。夜になると帯は全て白く変化する

昆虫では、これまで図鑑でしか見たことがなかった南国のチョウを数多く見ることができたのが印象深い。また、現場帰りには宿舎近くの海岸に向かい、本土では見られない生き物を探して散歩した。

リュウキュウアサギマダラ
リュウキュウヒメジャノメ
アオタテハモドキ
チョウを狙う筆者 近づきすぎると逃げてしまうので、撮影も一苦労だ
ウデフリクモヒトデ 岩の隙間から腕を広げて揺れている姿がよく見られる
シャコガイ 石灰岩を溶かして穴を作り、潜り込んでいる
オオイカリナマコ 長ーい体が特徴。体表に骨片があり、触ると吸い付くように引っかかる
スナヅル 海岸で他の植物に寄生して生えるツル性植物。オレンジ色の見た目が奇抜である。なんと、クスノキ科である

「観光じゃない旅」で気付いたこと

1つの遺跡に通い、発掘に取り組む日々は決して派手ではない。だが、地域の環境や歴史に迫る発掘調査だからこそ、鋭くなる感覚や持てる視点があったのは確かな事実だ。ひとところに長く滞在したおかげで、普通の旅行では行くことのできない場所に行き、見られないものを見た経験は、大きな財産になった。

大学を離れてしまう僕だが、むしろ旅はこれからが本番だ。ひとまず次の旅の目標は、大学の手を借りず、自力で徳之島へ向かうこととしたい。きっと、まだ気付いていない発見にたくさん出会えるはずだ。

▲雨が降った日の現場帰り。虹が出ていた

フォトギャラリー

ここでは、本文で載せきれなかった島の風景の一部をお届けする。

島北部にそびえる寝姿山 妊娠中の女性が横たわる姿に見えることからこの愛称がつけられた
島を訪れるアスリートたち 徳之島はスポーツ合宿地としても人気である
パパイヤの木 島の至る所に生えており、醤油漬けなどの料理に使われている
UCCの自動販売機 徳之島をはじめ、奄美・沖縄エリアで展開されている。僕はさんぴん茶を買った
石敢當(いしがんとう) 家の壁に取り付け、魔物が入ってくるのを防ぐ
戸森の線刻画 岩に船や弓矢の絵が彫られている。近世に彫られた可能性があるが、詳しい時期や彫られた目的はまだ明らかになっていない
島のほぼ北端にある展望台 手前のトンバラ岩はダイビングスポットとして知られる。水平線上には、奄美大島に隣接する与路島、請島、加計呂麻島が見える
海中洞窟・ウンブキ 陸上にあった鍾乳洞が海中に沈んだもので、地下で海と繋がっていると考えられているが、詳細な地形は不明である

次回の「卒業旅行、ここ行った!」もぜひお楽しみに!

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この記事を書いた人

東北大学大学院文学研究科・修士2年の楠です。 サークルでクイズをやったり、小説を書いたりしています。専門は考古学(主に平安時代の土師器)で、長期休み中は発掘調査であちこちに行っています。 「日常がクイズになり、クイズが日常になる」記事を書けるよう精進します。ご期待下さい!

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