私はオオカミが好きだ。生涯の最終目標はオオカミになること。オオカミの群れで、その一員として暮らしたい。どうも、永岡です。
そんな私は陽が沈みだしてから活動のピークを迎える。今日も夜中にたくさん原稿の進捗を生む算段だ。
不意に外へと目をやる。微かな窓明かりと凛とした満月の光。オオカミに憧れる身としては、やはりこんな夜は遠吠えしたくなる。その昔もよく、街灯も人気もない真っ暗闇の帰り道で遠吠えをしていたものだ。
ベランダに出る。静寂。生温い空気を吸い込み、喉を震わそうとした刹那、獣としてではなく人間としての自分の意識が舞い戻り、ふとこんな疑問を浮かべたのだった。
「人狼が満月の夜に変身するのって、なんで?」
このモヤモヤを抱えたままオオカミにはなれまい。早速「人狼が満月の夜に変身する」逸話について調べてみた。どうやら「満月で変身する」というイメージが広まったきっかけと考えられるのは20世紀以降の映画産業とされているらしい。
目次
◎映画産業における人狼
・映画で広まった「満月で変身する人狼」
・満月で変身する、最初の描写を探す
◎世界にあまねく人狼伝承
・そもそも「人狼」って何者?
・古の人狼はどうやって変身したか
映画で広まった「満月で変身する人狼」
「ヒトがオオカミになる」といえば、皆さんの頭に思い浮かぶのはやはり、今や正体隠匿型ゲームの代名詞となった「人狼ゲーム」だろうか。
しかし、少し歴史をさかのぼると、ハリウッドに数多あるホラー・パニック映画において人狼は、フランケンシュタインやドラキュラなどと並び、ポピュラーな題材として扱われていた。
とりあえず、手当たり次第人狼映画を観あさってみよう! このとき、「オオカミへの変身の描写」に注目して観てみることに。ちなみに私はホラーが苦手だ。だがオオカミになるためなら致し方ない。
どの作品も変身に満月が関わっていると言えそうだが、仕様は作品によって微妙に異なることがわかる。
満月で変身する、最初の描写を探す
1913年、世界初の人狼映画『The Werewolf』が公開された。フィルムが現存する最古のものとしては『
人狼映画の傑作として現代に根づく人狼観を確立したのはジョージ・ワグナー監督の映画『狼男』(1941)とのこと。主人公のラリー・タルボットは狼男に胸を噛まれたことによって自身も狼男となり、夜な夜な変身しては人間を襲うというホラー映画だ。主人公を演じるロン・チェイニー・ジュニアにはインパクトのある特殊メイクが施されている。
この『狼男』を満を持して観てみよう。
しかし実際に観てみると、作中では「満月で変身する」という描写が出てこない。町人が口ずさむ人狼にまつわる詩には「トリカブトの咲く月夜に狼にならんことを」とあり、むしろトリカブトが変身のトリガーとなっている描写すらある。
さらに調べてみると、この作品には続編があるらしい。どうやら、よりリアリティのある狼男への変身を描こうと、ハリウッドでの「人狼熱」は加速していったようだ。同キャストで制作された続編『フランケンシュタインと狼男』(1943)を観てみよう。
……満月によって変身する描写が存在する! 何より狼男本人が「満月の夜に変身する」と言っている! 言質を取った! 心なしか前作で登場した詩の文言も変わっている気がする。
どうやら作品を重ねていくうちに設定の変更がなされ、満月がトリガーとなって変身するという演出が主流となり、定着していったと考えられそうだ。「人狼が満月で変身する設定」が広まる分岐点が、まさしくここにあると考えられる。
※ところで先にあげた『倫敦の人狼』(1935年)など、『狼男』(1941)よりも古いものは試聴できるサービスやビデオが見つかりませんでした。試聴する手段がある方はどんな変身シーンだったか情報をお寄せください。お待ちしています。
次ページ:そもそも「人狼」って何者?