こんにちは、ソフロレリアです。
10月7日、ノーベル化学賞の受賞者が発表されました。受賞したのはアメリカ出身のジェニファー・ダウドナ氏とフランス出身のエマニュエル・シャルパンティエ氏。受賞理由は「ゲノム編集手法の開発」です。
誤解を恐れずものすごく大雑把に言うと、ゲノム編集とは遺伝子を壊すための手法。ゲノムは、ある生物が持つ、DNAが担うすべての遺伝情報を意味する言葉です。遺伝子はこのゲノムの中に含まれています。
今回受賞した2人が開発したCRISPR/Cas9というシステムを使えば、このゲノム編集を従来の方法よりも劇的に簡単に行うことができます。
遺伝子の機能を調べる研究では、その遺伝子を壊したときにどのような影響が出るのかを見ることが多いのですが、CRISPR/Cas9の登場によりこうした研究に大きな加速がもたらされたのです。
さて、ノーベル賞を取るほどの研究ということで、何やら難しくてついていけないし、自分には関係ないかな……、などと思ってはいないでしょうか。
たしかに、原理を理解するには様々な勉強が必要です。しかし、ゲノム編集の技術がもたらすもの自体は、近い将来……いや既にあなたの生活に深く根差しているのです。
実は身近なゲノム編集、この機会に要点だけでも押さえていきましょう。
※この記事では植物における現象をベースに話を進めていきます。
遺伝子操作技術「ゲノム編集」
従来の遺伝子組換え:外から遺伝子を組み込む
遺伝子を操作する技術、と聞いて真っ先にイメージするのは「遺伝子組換え」という言葉ではないでしょうか。これは、ある生物から特定の遺伝子を取り出し、別の生物のゲノムに挿入する技術です。
本来持っていなかった、病気への耐性や、多くの実をならす特性のような有用な形質を付与することができます。また、元々持っていた遺伝子を分断するように外来遺伝子が挿入されれば、その遺伝子を破壊することもできます。
ある遺伝子が別の生物のゲノムに組み込まれて機能する。偶然にも元々そこに遺伝子があれば、その遺伝子は機能を失ってしまう。
ゲノム編集:タンパク質のハサミでDNAを切る
本題の「ゲノム編集」も、最も手軽なやり方の場合、最初に行うのは遺伝子組換えです。
ゲノム編集に必要なタンパク質などを作るための遺伝子(ここでは簡単に、編集カセットと言うことにします)を編集対象生物のゲノムに組み込んでやると、生物側の細胞の力で編集カセットが働きます。これにより作り出されたタンパク質などは、生物のDNAを切断。切断されたDNAは元の状態に修復されるのですが、このときたまにエラーが生じ、元々の遺伝子としての機能を失ってしまうのです。病気に弱くなる遺伝子や、実の数を抑制するような遺伝子を壊せば、結果として先に挙げた遺伝子組換えの例と同じような効果が得られます。
DNAを切断した際、切れた箇所に別の遺伝子を組み込むこともできるのですが、話を単純にするため、今回はDNAの修復エラーによる遺伝子破壊こそがゲノム編集で起きていることと考えます。
編集カセットからDNAを切るハサミのような役割のタンパク質などが作られ、DNAが切断される。
このやり方に限って見れば、遺伝子組換えをした上でDNAが切断されるのを待つゲノム編集は、手間が多いようにも思えます。どのような点で優れた手法なのでしょうか。
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