1689年。俳人・松尾芭蕉は、こんな句を詠みました。
2021年。ライター・大野水季は、こんなことを考えました。
……よし! そうと決まれば検証だ! 計算だ!
最上川の体積を見積もる
熊本県の
そんな最上川を作るには、当然、大量の水が必要になってくる。どれくらいの量が必要になるのか計算していこう。
とはいえ、正確に見積もるのは至難の業。ここでは簡単に考えるため、川幅と川の深さが一定の割合で大きくなっていくと仮定する。さらに、支流やダムを無視してしまう。
こうすると、最上川全体は三角錐として表すことができる。河口の幅が380m、水深が5m。全長は229kmだから……
必要な水の量は、73000000000リットル!(0が9個)。もう少しわかりやすく書くと730億リットルとなる。
よくあるたとえを使うとするなら、東京ドームに水をいっぱいに入れたときがだいたい12億リットル。つまり、東京ドームおよそ60杯分の水を集めると最上川が作れることがわかった。ちなみに、雨粒だとざっと2000兆粒になる計算である。
五月雨を集める
集めなければいけない量はわかった。次は実際に五月雨を集める手はずを整えていこう。
というか、そもそも「五月雨」ってなんなんだ。助けてくれ気象庁。
さみだれ 梅雨期の雨(旧暦五月の雨、「五月雨」と書く)。
ふむ。五月雨の「五月」は旧暦の5月なんですね。旧暦と現在の暦は1ヶ月ほどずれているので、6月頃に降る雨、すなわち梅雨のことと。なるほど。
つまり、6月頃に降る雨をどうにかして集めれば、「五月雨を集めた」と言えそうな感じ。
……にしても、雨ってどうやって集めればいいんだろう? バケツ? ペットボトル? ブルーシート? ちょっとバーチャル編集部と相談してきますね。
説明しよう!
バーチャル編集部とは、こういう思考実験モノをやるときに登場する架空の機関だ! 当然実在なんてしないぞ!
「こんなことしたい」という無茶ぶりに応えて実験用地の確保・便利な道具の提供・関係各所との調整などなどを行ってくれる、理系ライターの強い味方だ! いつもありがとうございます!
へい編集部? 五月雨を集めて最上川作りたいんだけど。どうやって集めればいいかな? 土地とか必要だよね。なるべく最上川の上流あたりで……そう、米沢とか……え? 用意してくれる? やった! 容器は? それもできる? じゃあお任せします!
~数日後~
バーチャル編集部から連絡がありました。最上川の水源近く、米沢の山奥に「五月雨集めマス」を設置してくれたそうです。そういう仮定のもと、話を進めます。
動物たちに申し訳ないので、専有面積は控えめに10m×10mの100平方メートル。これの蓋を6月の間だけ開けておけば五月雨が集められるぞ。
このマス1cm分の高さで水量は1000リットルになるので、730億リットルを集めるために必要な高さは……730キロメートル。国際宇宙ステーション(400km)より高いところまで達しちゃうけれど、そこは地面を掘ってなんとかすることにしよう。
米沢市の6月の降水量の平年値は114.0mmだから、えーと。マスの中の水がこの高さに達するまでには640万年もかかってしまう計算になる。
最古の人類とされるサヘラントロプス・チャデンシスがだいたい700万年前くらい。人類が誕生してからここまで進化するまでと同じくらいの時間がかかってしまう。
……だめだこりゃ!
今日のまとめ
広い土地を確保できない場合、「五月雨を集めて最上川を作る」のはあきらめるべき。
大自然の力ってすごい。