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ピザにグラタン、チーズフォンデュ……とろとろにとろけたチーズが入った料理はたまらなくおいしいですよね。そんなチーズ料理を家でも食べたいと思い先日チーズを購入したのですが、なんとチーズがとろけない……! よくよくパッケージを見ると、とろけないタイプのチーズだったのです。無念。

同じチーズなのに、とろけるチーズととろけないチーズは何が違うのでしょうか? その違いがわかれば、間違えて購入したとろけないチーズを自力でとろけさせることはできるのでしょうか

さっそくですが結論です

▲どどん!

私が購入したのは、「プロセスチーズ」という種類のチーズでした。乳を固めて発酵熟成させた「ナチュラルチーズ」に対し、「プロセスチーズ」はナチュラルチーズを粉砕して乳化剤などを加え乳化させ、加熱して溶かし、再度成形したものです。プロセスチーズのなかでも、とろけるものととろけないものがあります。

▲プロセスチーズの作り方

結論から言うと、とろけないプロセスチーズをとろけさせるのはかなり難しいです。その理由は、製造工程で使われている乳化剤の違いにあります。この乳化剤がチーズに含まれる「たんぱく質」に作用することで、とろけやすさに違いが生まれています。

これはチーズがとろけているとき、分子レベルでは何が起こっているのかを知ると、より詳しく理解することができます。

チーズがとろける鍵は「たんぱく質」!

チーズの原材料である乳には、チーズがとろける鍵となる「カゼイン」というたんぱく質が含まれています。乳の中でカゼインはカゼインネットワークという網目状の繋がりを形成します。このような網の中には、脂肪球と呼ばれる脂肪の粒があります。

▲チーズはなぜとろける?

チーズが糸を引くようにとろけるのは、このカゼインネットワークが力を加えた方向に流動しやすくなっているからです。乳からチーズを作る工程ではネットワークのつながりをゆるめる処理がされており、食事前に加熱すると脂肪球が溶け出し、網目の中に隙間ができるようになっています。これにより、チーズが力を加えた方向に伸びるようになるのです。

一方で、ネットワークが切れてしまうととろける性質はなくなってしまいます。

とろけるチーズととろけないチーズの違い

そこで問題となるのが、プロセスチーズの製造工程で使われる乳化剤です。乳化剤にはカゼイン同士の結合を弱める(ほぐす)はたらきがあります。とろけるチーズの場合は、カゼインをほぐす機能が弱い乳化剤が使用されているため、カゼインはつながったままです。

一方で、とろけないチーズには上記の機能が強い乳化剤が使用されているため、ネットワークが切れてバラバラになってしまい、加熱してもとろけないのです。

▲とろけないチーズはこうなっている

つまり製造工程で使用する乳化剤の機能の強さが、加熱したときにとろけるか・とろけないかを左右しているのです!

とろけないチーズをとろけさせることは可能?

とろけないタイプのプロセスチーズは、そもそも製造工程でカゼインネットワークがほぐれていることがわかりました。すなわち、私が間違えて購入したとろけないチーズをとろけさせることは不可能ということです。悲しくも、私の野望は儚く散ってしまいました……。

しかし! 私は考えました!

チーズがとろける仕組みを分子レベルで考えたのであれば、とろけるタイプのプロセスチーズをより一層とろけさせることは可能なのではないでしょうか!?

つまり、とろけるチーズのカゼインネットワークをさらにゆるめることができれば、夢の「とろけるチーズ三昧ライフ」が送れるはずです!

とろけるチーズをさらにとろけさせよう大作戦!

カゼインネットワークをゆるめるために参考にしたのは、とろけるチーズの製造工程と脂肪の性質です。キーワードは「酸性」と「脂溶性」です。

【作戦1】酸性にしてネットワークのつながりをゆるくする作戦

カゼインの集まりをつないでいるのは、リン酸カルシウムという物質です。リン酸カルシウムは酸性になると水に溶け出す性質があります。

実際にナチュラルチーズの製造工程では、酸性の乳酸菌が使用されており、カゼインネットワークのつながりをゆるくするはたらきをしています。さらに酸性を加えれば、ネットワークをもっとゆるくできるのではないかという予想です。

▲カゼインネットワークの結合がゆるくなる仕組み(雪印メグミルク「チーズがとろける秘密」をもとに作成)

【作戦2】油を追加して脂肪球を溶かし出す作戦

加熱したときにチーズがとろけるのは、カゼインネットワークの中にある脂肪球が熱で溶け出すからです。しかし、脂肪は熱だけで溶けるわけではありません。脂肪には、水には溶けず、油には溶けるという脂溶性の性質があります。

つまり、油を加えれば、溶け切っていない脂肪がさらに溶けるのではないかという作戦です!

酸性かつ油といえば、勘がいいみなさんなら既に気づいているかもしれませんが、アレがあります。

……そう、マヨネーズです!!

▲救世主がこんなに身近にいたとは!

マヨネーズには油や酢が含まれています。今回の検証にぴったりな調味料がこんな身近にあったとは! とろけるチーズにマヨネーズを加えると、もっととろけさせることができるはず。早速検証です!

とろけるチーズにマヨネーズを合わせると……?

今回の検証では、市販のとろけるタイプのプロセスチーズを使用します。マヨネーズとの接触面積を大きくするため、細かく刻んでマヨネーズと和えたものをパンに乗せ、トースターで焼いていきます。

結果は……

▲これがマヨネーズなし

▲これがマヨネーズあり。めちゃくちゃのびた!

マヨネーズなしに比べ、約3倍ほど長く糸を引きました! 確認のためこれ以外にも2回ほど挑戦したのですが、どれもマヨネーズを加えた方がチーズの糸がかなり長くなりました。

今回はスライスチーズを1/2枚しか使わなかったのですが、もっとチーズとマヨネーズの量を増やすと、よりとろけるチーズを楽しめそうです。何より、マヨネーズとチーズというおいしすぎる組み合わせがチーズをとろけさせるための合理的なものだったということに驚きです!

奥深いチーズの世界

何気なく日常で楽しんでいるとろけるチーズも、その仕組みに着目するととても複雑で奥が深いものでした。

残念ですがとろけないチーズをとろけさせることはできないので、ご自宅では今回紹介した方法である、とろけるチーズを一層とろけさせる方法を試してみてください!


【今日の一問】

執筆協力:千春

参考文献

・雪印メグミルク「チーズがとろける秘密
・株式会社ヨシダコーポレーション「チーズの学校
・石井哲也「カゼインミセルの構造および性質に関する最近の研究動向」 など

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この記事を書いた人

皐月

筑波大学で国際関係学を専攻しています。皆様の心に残る楽しい学びをお届けできれば幸いです。よろしくお願いします!

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