こんにちは、ライターの川副です。
みなさんは「バカガイ」という貝を知っていますか? 日本中の海に生息する二枚貝で、漢字でもずばり「馬鹿貝」と書きます。
▲かわいそう
諸説ありますが、「バカガイ」という名前は、殻を空けて中の身をだらしなく出している様子から付けられたといわれています。
その馬鹿にされっぷりはすさまじく、かつてはこんな俳句まで詠まれたほどです。
海底で暮らしているだけでここまで言われることある......? いくらなんでも気の毒です。
ただ昔の人もそう思ったのか、食用になるバカガイのむき身は古くから、こんな別名でも呼ばれてきました。
▲わびさびを感じる
名前が変わっただけで、不思議と上品な香りが漂ってきます。高級料亭のメニューに並んでいても一切違和感がありません。
バカガイは、「青柳」という小洒落た名前をもらったことで、長い間日本人に愛されてきたのです。
バカガイの他にも、名前のせいで報われない扱いを受けているものがまだまだあるに違いありません。そんなまだ見ぬ子羊たちにも、彼らにふさわしい名前を与えて救済を施していきましょう。
ナマケモノ
まずはかわいそうな名前の代名詞「ナマケモノ」です。
▲そこまで言わなくてもいいじゃない
彼らは動きがのんびりとしているばかりに、人間から「怠け者」などというストレートな罵倒を受けてきました。
しかし侮るなかれ。彼らには、人間風情では到底マネできない凄まじい力がいくつも備わっているのです。
SDGsもびっくり
まず何よりも、ナマケモノは冬眠しない哺乳類の中で一番省エネな動物です。
ナマケモノが1日に食べる食事は、なんと葉っぱ数枚ほど。
彼らが1日に消費するカロリーはおよそ110キロカロリーで、身近なもので例えると6枚切りのパン約0.7枚分にあたります。
一般的な成人男性の基礎代謝がおよそ1500キロカロリーとされているので、ナマケモノは成人男性が1日何もしなくても消費するカロリーで約13日も生きていられることになります。持続可能性......!
▲なんと人間の燃費の悪いこと
仙人か何かかな
またナマケモノは、哺乳類なのに「変温動物」であるという珍しい特性も持っています。
「変温動物」とは、周囲の温度に合わせて自らの体温も変える動物のこと。哺乳類のほとんどは体温を一定に保つ「恒温動物」に分類されるため、ナマケモノのこのような特徴は極めて異例です。
その生き方はまさに行雲流水。ナマケモノは、まるで仙人のように周囲の環境に身を任せて生き抜いてきたのです。
食事のスケールが森
さらにさらに、ナマケモノは自らの体で一つの生態系を生み出しているとんでもない生物でもあります。
実はナマケモノの体毛には、小さな蛾の一種が住んでいます。
彼らはナマケモノのフンを食料にし、代わりにナマケモノの体に生えた苔に栄養を与えて暮らしています。そうして育ったコケをナマケモノが食べ、またフンをします。
このように、コケ、蛾、ナマケモノの間では一つのサイクルが成り立っています。いわばナマケモノは、自分の体だけで生態系を築く「小さなジャングル」であるということができるのです。
▲ナマケモノトライアングル
命名
これだけ特徴てんこ盛りな超生物が「ナマケモノ」なんて名前でいいわけがありません。
以降彼のことはこう呼ぶべきです。
▲急にすごいスピードで動き出しそう
なんだかものすごい力を秘めていることだけは鬱陶しいほど伝わってきます。これでもう誰も彼のことを「怠け者」なんて罵ることはないでしょう。
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