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こんにちは、朱野です。大学院でファッションの研究をしています。

わたしは、QuizKnockのYouTube動画でずっと気になっていることがあります。それは伊沢拓司の胸に光るKITHの文字

視聴者のみなさんも気になったことがありませんか?

▲伊沢拓司の胸に光るKITHの文字

KITHはアメリカのスニーカーバイヤーがニューヨークで設立したストリート系ファッションブランド。2011年の誕生以来、有名ブランドとのコラボレーション商品を度々発表し、若者を中心にカルト的な人気を誇っています。

わたしはQuizKnockの動画を見る度に気になっていました。テレビではスーツ姿が多い伊沢さんは、どうしてYouTubeではストリート系ブランドの服を着ているのだろう? と。

今回は、そんなわたしの長年の疑問である伊沢拓司がKITHを着る理由を、ファッションと社会学の理論を用いて考察していきます。

伊沢拓司は戦略的にKITHを着ている? 

テレビとYouTubeでは服装だけでなく、振る舞い方も違います。このことを考慮すると、伊沢さんは戦略的にKITHを着ていると考えることができそうです。

わたしが考える、KITHを着ることによる伊沢さんの露出戦略は、以下の3つです。

戦略1:テレビとYouTubeで自分を演じ分けている

テレビではきちんとした印象のスーツやジャケットを、YouTubeでは派手なストリートブランドの服を着るーー。

雰囲気の違う服装によって、伊沢さんはテレビとYouTubeでキャラクターを演じ分けていると考えられます。

また服装を着替えることで、伊沢さん自身が「テレビの伊沢拓司」と「YouTubeの伊沢拓司」という意識のスイッチを切り替えている可能性もあります。つまりKITHの服は、場面に合わせて違う自分を演出するための衣装のひとつなのです。

▲フォーマルな伊沢さん(ノーネクタイ)

戦略2:テレビとYouTubeの視聴者の違いに合わせている

万人に受け入れられるフォーマルな格好とカジュアルで個性的な格好を使い分けることで、視聴者の年代が幅広いテレビでは真面目な好青年、視聴者層が若いYouTubeでは親しみやすいお兄さんというように、イメージを意図的に操作することができます。

あるいはQuizKnockファンがメイン視聴者のYouTubeでは、服装を通して自分の個性を表現していると考えることもできます。

▲好青年(左)と表現したい個性的な自分(?)(右)

他者からの目を意識して服装を変えているというのが、この戦略2です。

戦略3:KITHのブランドイメージを自分に投影している

KITHという特定のブランドを着ることは、ブランドに備わる意味や価値を重視した選択とも考えられます。特に伊沢さんはブランド名のロゴの入った服もよく着ているので、ニューヨーク発のおしゃれなストリートブランドというKITHのブランドイメージが、伊沢さんの演出したい自分のイメージと一致しているのかもしれません。

つまり伊沢さんはYouTubeでKITHを着ることによって、テレビの真面目で落ち着いた印象と異なる、にぎやかでおしゃれで親しみやすいお兄さんを演じているのです。

▲にぎやかでおしゃれで親しみやすいお兄さん

ここで紹介した戦略は、次の社会学の理論によって裏付けられます。

ファッションによる戦略の裏付けを紹介!

服を使ってなりたい自分を演じる

異なる服装を通して異なる自分を演出するのが戦略1でした。視聴者のみなさんもテレビでの好青年ぶりとYouTubeでの破天荒ぶり(?)、伊沢さんの雰囲気やキャラクターの違いを感じたことがあるのではないでしょうか。

アメリカの社会学者アーヴィング・ゴフマンは、こうした個人の装いと振る舞いの関係を、演劇と結びつけて説明し、次のように考えました。

社会とは舞台であり、その中にいる個人は役者、他者は観客、衣服は役者が役を演じるための衣装である。

つまり、わたしたちは服を着替えたり身だしなみを整えたりすることで、自分の印象を操作し、それぞれのコミュニティ(=舞台)にふさわしい役を演じ分けているというのです。このとき外見を通して他者に伝えられる情報は、年齢・職業・ジェンダー・社会的地位・経済状況からそのときの感情・ムードまで、多岐に渡ります。

伊沢さんも服装を変えることで、テレビとYouTubeというふたつの舞台でそれぞれにふさわしい自分の役を演じていると考えられます。これが戦略1の裏付けです。

外見は外の世界と交流するためのツール

朝起きて着替えるという単純な行為の中でも、わたしたちはいくつもの選択と決定をしています。また、わたしたちは、自分の装いだけでなく他人に対しても、服装や外見を通して相手を理解しようとすると考えられています。

これは、人間は外の世界に対して積極的に働きかける主体的な存在である、というシンボリック相互作用論の考え方です。

ここまで読んでくださった方の中には「わたしは別にファッションに興味ないし、目についた服を適当に着てるだけ」「他人を外見で判断しちゃいけないし」と思った方もいらっしゃるかもしれません。しかしそんな方も就活では、リクルートスーツに身を包み、身なりをきちんと整えて企業面接に挑むのではないでしょうか。

▲リクルートスーツ(?)に身を包んで面接に挑む人たち(イメージ)

面接官に誤った印象を与えないために、あるいは他の就活生から浮かないように装う行為も、「わたしたちは他人にどう思われるかを意識しながら自分の行動を決定している」というシンボリック相互作用論の考え方に当てはまります。

つまり人々は他者の目を意識しながら自分の服装を選んでいる、これが異なる視聴者層を意識して服装を変える戦略2に繋がります。

KITHというブランドを選ぶこと

では、伊沢さんはどうしてKITHという特定のブランドを選ぶのでしょうか。フランスの社会学者ジャン・ボードリヤールの理論を基に考えてみます。

ボードリヤールは、大衆消費社会の状況について、次のように考えました。

ファッションなどの消費はモノそれ自体の必要として機能するのではなく、それが意味する価値に対する必要として機能する

つまり、ある洋服の価値とはその機能性や品質によって決められるのではなく、その洋服に備わる意味によって決められるということです。

具体例として、KITHと同様にカルト的人気を誇るスケーターブランドで、ヒカキンさんの爆買い動画も有名なSupremeについて考えてみましょう。

▲この有名なロゴは誰もが一度は見たことがあるはず

上のロゴは、そのアイテムがSupremeの商品であることを示すだけでなく、

  • Supremeを買える経済力がある
  • スケーターカルチャーに精通している
  • Supremeの客層である「クールな」コミュニティに属している

というように、持ち主に関する様々な情報を伝えています。

つまりボードリヤールによると、SupremeのTシャツの価値とは、その着心地や耐久性ではなく胸元についた赤の長方形にあり、ロゴが伝える意味に価値を感じて人々はSupremeを購入しているのです。

伊沢さんも、一目でKITHだとわかるロゴの目立つ服をよく着ていることから、KITHというブランドが持つ、ニューヨーク発祥のおしゃれなストリートブランドとしての価値を意識している可能性があります。これがブランドのイメージを自分のイメージに反映させようという戦略3の背後にある理論です。

伊沢拓司がKITHを着る理由

ここまで、社会学の理論を用いながら伊沢さんがKITHを着る理由を考察してみました。

YouTubeではストリートブランドのカジュアルな服を着ることで、テレビの真面目で落ち着いた好青年のイメージを覆し、にぎやかで親しみやすくおしゃれな印象を視聴者に与えようとしているのではないでしょうか。つまり伊沢さんは戦略的にKITHを着ているといえます。

社会学というとどこか仰々しく聞こえますが、実は「服を選んで着る」という個人的で日常的な行為にも深く関係しています。今回ご紹介した理論を通して、みなさんも自身の日頃の装いを見つめ直してみると面白いかもしれません。

次回、KITHを着る真の理由を伊沢さん本人に直撃します。

今回わたしが立てた仮説は、はたして伊沢さんの意図と一致しているのでしょうか。どうぞお楽しみに。

参考文献

  • アニェス・ロカモラ&アケネ・スメリク編、蘆田裕史監訳(2018)『ファッションと哲学』フィルムアート社。
  • Goffman, E. (1990 [1959]) The Presentation of Self in Everyday Life. London: Penguin.
  • ジャン・ボードリヤール 、今村仁司ほか訳(1982)『記号の経済学批判』法政大学出版局。

【後編はこちら】

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この記事を書いた人

朱野

ロンドン芸術大学での修士課程を終え、Master of Artsになりました。日本ではまだ馴染みの薄いファッションの学術研究の面白さを、みなさんとシェアできれば嬉しいです。ちなみにロンドンにも美味しい食べ物たくさんあります。

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