紹介した日本を代表するベストセラー。いずれも発行規模は違いますが、あてはめた計算式はどれも同じ。
「定価 × 発行部数 × 印税率」です。
定価 × 発行部数
印税の計算をするにあたって、動いたお金のどの割合が作者のものになるか(これが印税率、後述します)という以前に、「どのくらいのお金が動いたか」を計算する必要があります。
「定価」はもちろん私たちが買う時に払う「1冊いくら」という代金のこと。
多くの出版社では、この「定価」に「発行部数」を掛け算することによって動いた額を決めています。「発行部数」はざっくり言えば「印刷した部数」のことです。
ここで見落としがちなのは、私たちが買った数である「売上部数」ではないということ。
出版社と作者の契約は「○○万部刷り、刷った分だけ印税が出ます」といったように決まり、印税は本が買われるかどうかに影響されません。私たちが書店に並んだ本を見ている時点で、作者に入る印税は確定しているのです。
これがタイトルの「村上春樹は発売前に稼いだ」のカラクリ。
「作者にお金が入るように」と思って買うのは、その本の印税が変わらないという短期的な面では無意味です。しかし、ある作品がよく売れたならば、その作者の次の作品は初めからより多く印刷される可能性があるので、長い目で見れば有効です。
印税率
「定価×発行部数」に、さらに「印税率」を掛けると印税の額が決まります。
一般的な印税率は10%といわれていて、人気作家はこれより少し高く、新人作家は少し低めです。
ここまでを踏まえて『騎士団長殺し』の例で計算すると、定価は1800円、発行部数は130万部、村上春樹は押しも押されぬ人気作家ですから12%として、印税はおよそ2億8000万円と出ます。
電子書籍での例外など
電子書籍では印刷費をはじめとする経費がかかりませんし、大手出版社を通さず自分で配信サイトへ持ち込めば、編集や校正の費用も引かれませんので、印税は紙の本より高くなります。
一般的な出版社では15~20%のようですが、公式の情報はないため推測の域を出ません。
この点で破格なのが「Amazon Kindle」。印税率35%(Amazon側に有利な他の条件を呑むと70%のプランも選択できる)という報道が、業界に衝撃を与えました。
印税率を見ると作者にたくさん入りそうな電子書籍。しかし、果たしてそうでしょうか。
電子書籍は印刷をしません。なので、印税の計算の際は「発行部数」ではなく、「売上部数」で計算されることに気を付けなければなりません。紙の本を出版社に持ち込めば、新人作家であっても少なくとも印刷した分だけ印税が入りますが、電子書籍は売れなければ印税もありません。 つまり、そう美味しい話ばかりではなく、売れなかったら電子書籍のほうがかえって儲からない場合もある、ということです。
まとめ
紹介してきたのは、印税の仕組みのうちの代表的な例であって、作者や出版社によって契約のかたちは異なります。また、印税からさらに所得税が引かれるケースもあります。
たとえば、『火花』を書いた又吉さんは「吉本興業」という事務所に所属するタレントですから、前ページのクイズに出題した「4億円」のうちの一定割合は事務所に入っている模様です。
とはいえ、莫大な額であることには変わらないもの。他に気になるベストセラーがあれば、ざっくり印税を計算してみてください。
ちなみに、黒柳徹子さんは、700万部以上を売り上げた『窓ぎわのトットちゃん』などの書籍からの印税を寄付に充てていますが、果たしてどのくらいの額に上るでしょうか……?