こんにちは! 神話・説話が大好きな桑名です。
みなさん、「キリン」はご存じですか? 黄色と茶色の模様がある、首の長ーいあの動物。動物園などで実際に見たことがある人も多いかと思います。主な生息地はアフリカですね。

そういえば、「きりん」と呼ばれる存在は他にもいます。キリンビールのロゴなどに描かれているあの「
今日はロゴの日、ということで本麒麟のロゴについてご紹介🍺
— キリンビール / KIRIN BEER (@Kirin_Brewery) June 5, 2024
本麒麟に大きくデザインされている聖獣のロゴ。
実は少しずつレイアウトが変化しているんです✨
どこが変化しているか、わかりますか?🍻#ロゴの日 pic.twitter.com/nehD2lwzt4
聖獣の麒麟は中国の伝説に登場する空想上の生き物で、聖人が出現して良い政治が行われるときにその姿を現すといわれています。
それにしても、これら2つの生き物は見た目も、なんなら生息地も全く違いますよね? なのにどうして両方とも同じ「きりん」という名前がついているのでしょうか?
実はこれは偶然ではなく、ある勘違いや、人間らしいトラブルが関係していたのです……。
というわけで今回は、キリンの名前を巡る歴史について話していきたいと思います。
ぜひ最後まで読んでいってください!
(どちらも漢字では「麒麟」と書くのですが、ここからは便宜上、動物の方を「キリン」、聖獣の方を「麒麟」と表記します)
今回のテーマ
* * *
事の発端は聞き間違い
ほとんど共通点が無さそうなキリンと麒麟が、なぜ同じ名で呼ばれているのか? その起源は、キリンが初めて中国に伝来したときのエピソードに遡ります。
キリンが初めて中国に来たのは、15世紀・明王朝の永楽帝の時代。
この頃、彼は世界各地に朝貢を促すために
そしてその中の一人、

そしてアフリカに着いた鄭和はそこで初めて首の長い、変な模様の巨大な動物を目にし、現地人にその動物について尋ねました。
そう、彼は現地語の「ゲリ」と「キリン」の発音がとても似ていたため、聞き間違えてしまったのです。
とはいえ、彼も「さすがに伝承と違いすぎない?」と思っていたはずでした。なぜならこの頃信じられていた「麒麟」のイメージって大体以下の図のようなものだったので……。

うーん、どう見ても違いますが、「聖人による政治が行われる際に現れる」という伝説の「麒麟」は皇帝にとって縁起物も縁起物。こんな格好のゴマすり材料を逃すわけにはいきません。そうして鄭和は
と、テンション爆上げで中国に持ち帰り、この動物は「麒麟」として永楽帝に献上されることになりました。
ただでさえ永楽帝は前の皇帝から帝位を簒奪して即位したという負い目がありましたから、麒麟が現れたという出来事はことさら喜んでくれるはずと思ったのではないでしょうか。
そして実際、この時代では皇帝に仕える大臣たちが次々に詩を詠んでキリンを讃え、宮廷画家も記念として絵を描き残していたことがわかっています。

本当に聞き間違いだったのか、前述の通りゴマすりの要素が強かったのかは諸説ありますが、概ねこのような経緯で英語の「ジラフ」に当たるこの動物と「キリン」が結び付けられるようになったと言われています。なるほど、一件落着!
……と、そう思ったみなさんに、今中国でキリンがなんと呼ばれているかをお教えしましょう。
あれ、キリンの中国名って「麒麟」じゃないの?
現在のキリンの中国名は、「長頸鹿(チャンチンルー)」といいます。
……えっ、「麒麟」じゃないの?
そう、実はジラフに対して「麒麟」の呼称が使われたのは明の時代だけです。
後の時代に「さすがに伝承と違いすぎない?」と言われ、名前が「長頸鹿(首の長い鹿)」になりました。
実は中国では、以前にもベトナムから「麒麟である」として動物が献上されたことがあります。その際にも「これはさすがに伝承と違いすぎる」と言われて「麒麟」の名は認められず「異獣」と呼ばれました(ちなみに、このとき献上された動物はサイであったそうです)。
なので今回のジラフも以前の例と同じく麒麟ではない、と判断されたということですね。
ではなぜ日本では依然として「キリン」という呼び方を使っているのでしょうか?
日本にキリンが初めて来たのは明治40年(1907年)です。明朝は1644年に滅んでいますから、260年以上前に中国での名称は「長頸鹿」となっています。英語名も「giraffe(ジラフ)」なので「キリン」要素は一切ありません。
それなのに中国ですらもう使っていない「キリン」という呼び方を日本でいまだに使っている理由はなんなのでしょうか?
それには意外な経緯があったのです。
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