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名前の候補が多すぎる

そもそも、動物のキリンの存在自体は江戸時代の時点ですでに日本に伝わっていました。

しかしそのキリンが聖獣の「麒麟」と同じ生き物か、違う生き物かについては学者によって見解が異なっていました。

とはいえ日本にキリン本体が伝来していなかったので名前はしばらく固定化されず、名前の表記も現在と同じ「キリン」、「長頚鹿(中国語から)」、「豹駝(学名を和訳したもので、ヒョウとラクダの意)」など複数あって安定しませんでした(なんなら英語をそのまま読んだ「ジラフ」「ギラへ」などになる可能性もありました)。

このように様々な表記が存在する中で「キリン」の呼び方が日本で定着したのはなぜなのか? それには大きく2つの出来事が関係しています。

1つ目は、動物学者・博物学者の田中たなか芳男よしおにより明治6年に発行された資料『獣類一覧』の中で複数ある候補の中から「キリン」の呼称が選ばれて紹介されたことです。彼はアメリカから日本にキリンの剥製を持ち帰った人物でもあり、その際にも「キリン」の呼称を用いていました。

この『獣類一覧』は小学校の教科書にも掲載され、「キリン」の呼称が定着することに寄与しました。

そして2つ目の出来事は、上野動物園にこの動物を呼び込んだ際に当時の責任者の石川いしかわ千代ちよまつが「キリン」という名前を使ったことです。

しかし、実は石川千代松はこの呼称ではなく「ジラフ」が正式な呼称だと考えていたのです。それなのになぜ「キリン」の呼称を用いたのでしょうか?

高いけど買っちゃえ! 上野動物園のキリン

それでは上野動物園にキリンを誘致したときの逸話をご紹介しましょう。

当時の上野動物園の責任者であった石川千代松は、ドイツの動物商から手紙を受け取りました。その内容は

2頭のジラフ(キリン)を購入しないか?

というもの。

しかしそこで提示された値段はなんと輸送費込みの合計で約1万6000円。一瞬安い? と思ったかもしれませんが、現在と当時で円の価値は異なり、当時の動物園の年間での動物購入予算は約2000円でした。つまり、年間予算の約8倍の値段がジラフに付けられていたのです。これには石川氏も困りました。

とはいえ、ドイツの動物商は

他にも売り手あるから早く決断しないと他に売っちゃうよー

とも言っていましたから、悩んだ挙句、翌日に

買います!

と言ってしまいます(向こうもやり手の商人ですね……)。

こうしてキリンが到着することになったわけですが、もちろん問題となったのは予算です。

うっかり正式な予算の手続きを経ずにキリンの購入を決めてしまいましたから、当時の宮内省や財政当局にキリンについての説明をしなければなりませんでした。

おい、あの買い物どういうことだ! 高すぎるだろ!
いやぁ、すぐ買わないとダメって言われたので……動物園にも必要だと思いますし……
たかが動物だろ! そんな価値があるのか!?
えーと……そうなんです! 実はこの動物、キリンという名前なんです! 聖獣と同じ! 縁起いいでしょ!?
む!? そ、それは確かに……

とこのように(上記の会話はあくまでイメージではありますが)、彼は役人に伝わりやすくするためにジラフを聖獣の麒麟と結びつけて紹介したといわれています。

とはいえ、石川は著書でも

これはジラフという動物で、キリンという呼び方は正しくないかもしれません

と書いているくらいこの動物の呼び名は「麒麟」ではなく「ジラフ」の方が正しいと思っていました。しかし、当時は日露戦争で大国ロシアに勝利した直後。そのため、聖獣である「麒麟」の名前を冠した動物が来日することは大変縁起が良いことであるとも考え、この名前で呼ぶこと自体は「まあいいだろう!」と思っていたようです。

そんなこんなでこの動物が「キリン」であるとして上野動物園に展示され、入場料も引き上げられましたが、この年の上野動物園は大盛況

なんと入場料が上がったにもかかわらず初めて入場者が100万人を超え、キリンの維持費などでさらにお金がかかってもなお年間の収支は黒字となりました。

こうして上野動物園には多くの人が訪れ、「キリン」の名前は実物とともに広く様々な人が目にすることになったのです。

まとめ

ジラフに「キリン」という名前が付けられた理由、そしてその呼び名が日本で定着した経緯について解説してきました!

この名前になるまでに紆余曲折あり、人間のいろんな思惑が関係していたんですね……。

今度みなさんが動物園でキリンを見た際には、鄭和さんや石川千代松さんのことを思い出すかもしれませんね。

それでは最後に1問クイズです!

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この記事を書いた人

桑名 良治

筑波大学2年の桑名です。神話や日本語、群雄割拠の時代などが好きです。日本語検定1級。

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