どうも、シャカ夫です。
夏も真っ盛りの今日この頃、皆さんはいかがお過ごしでしょうか。最近、私は次のようなことばかり考えて生活しています。
そうです、暑いんです。日本の夏の暑さはもはや異常です。外出すらままなりません。
風鈴、打ち水、氷枕……私も色々な方法で涼を取ろうと試みましたが、どれも有効打にはなりませんでした。焼け石に水とはまさにこのことです。
そこで私は、涼しさを感じるための最終手段に行き着きました。それが……
そうです、怖い話を聞けば心の底から涼しくなれるので、物理的な温度上昇は屁でもありません。
ですが、怪談なんてそうそう集められるものではありません。そこで、私はこう考えました。
様々なプロフェッショナルが集うQuizKnockメンバーなら、それぞれの専門分野ならではの「怖い話」を知っているのでは?
そんなこんなで、涼しさとディープな知識に飢えたQuizKnockメンバーが集結したのです。
「真夏のインテリ怪談会」
心ゆくまでお楽しみください……。
今回の参加メンバー
田村正資:哲学で博士号を取得している碩学。ホラーは苦手。東大出身。
中川朝子:医学生兼作家という多彩な才能を発揮するWebライター。ホラーは大好き。国公立大医学部在学中。
志賀玲太:芸術を学び、短歌をたしなむ超文化人。ホラーは苦手。東京藝大出身。
シャカ夫:今回の企画者で、暑さに弱い。毒をもっている生物とホラーに目がない。京大出身。
今回はメンバーの怖い話を最大限に堪能するために、和室のスタジオをレンタルしました。
いい雰囲気だね。広さもちょうどいい。
富士山が赤いのもいい味出してるなぁ。
これは……ロウソク型の照明?
▲火に触れることができる
ええ、炎のところを押すとつきます。
オシャレなのか無粋なのかわからないアイテムですね……。
▲いつにないムードにワクワクする一同
ここだったら、存分に怖い話が楽しめますね!
涼を取るためだけにこれだけの準備を整えてる時点でもう怖いんだけどね。
この空気でトップバッターをやるの、かなり緊張するな……。
1人目:田村正資
最初に怪談を披露するのは、哲学を専攻していた田村さん。さっきは緊張していると言っていましたが、みなぎる熱意が目に表れていますね。これは期待できそうです。
披露!
もう、本物の怪談師のたたずまいですね。
え~、本日の前座を務めさせていただきます、田村と申します…………みたいな感じで合ってる?(ささやき声)
合ってます、バッチリです!!(ささやき声)
(ありがとう……!)
え~、私はですね、大学の方で哲学の研究をやっておりました。
哲学っていうものをざっくり説明すると、他の学問で体系的に扱われていない物事を厳密に考えてみよう、といった学問なわけです。
▲田村さんのしゃべりのうまさに引き込まれていく面々
他の学問と同様に、哲学でも論文を執筆します。
論文……我々にはなじみ深いですね。
私と志賀さんは書いたことがあって、中川さんもいずれ書くことになるでしょうからね。
研究や論文執筆といいますのは、今まで研究を進めてきた先人たちの成果に、自分の考えなどをほんの少しだけ付け加えさせていただく、そういった営みなわけです。
とても良い表現ですね……!
そして、先人たちの研究を踏まえて論文を書く際に重要なのは、引用です。
引用:自分の論を補強・説明するために、他人や先人の文章を抜き出して用いること。
▲田村さんの話に徐々に熱が入る
誰が何についてどんな議論をして、まだどんな議論の余地があるのか……そういったことを引用をたどって知るわけです。まさに、先人の研究者たちとの対話ですよね。
なので、引用はちゃんと他の人がたどることができるように書かなければいけないわけです。
今のところ、学問についてのめちゃくちゃタメになる解説ですね。
いつから怖くなるんだ……?
▲この雰囲気で話してるのに、まだ怖いことが起こっていない
私は学生時代、メルロ゠ポンティという哲学者の研究をしていました。
▲メルロ゠ポンティ via Wikimedia Commons PerigGouanvic CC BY 3.0
モーリス・メルロ゠ポンティ:独自の現象学を展開したフランスの哲学者。著書に『行動の構造』『知覚の現象学』など。
哲学者に関する研究というのは、「こういう本でメルロ゠ポンティがこう言っているけど、それは実はこういう解釈ができるんじゃないか」と、そういったことを議論していきます。
なので、私もフランス語の原版を手に取りながら、先輩や先人たちが残した論文の引用を読み解いていくわけです。
徹底してますね、さすがです。
でもね……
どうにも様子がおかしい……。
え、このタイミングでおかしいところ出てきます!?
哲学の研究過程の話しかしてませんよね?
何があったんですか……?
私は、先人の研究者たちが読んだものと同じ本にある同じ場所を指さしながら、「ここの文はこう」という風に時を超えて議論している形なわけです。
だから同じ内容を指している場合、先人たちと私が引用しているページ番号は、一致していないとおかしいわけです。
まさか……
ええ、そうです……
引用したページ番号が一致しないんです。
▲一気に血の気が引く研究経験者たち
怖い怖い怖い!!
重大な「何か」が起こっている……?
自分のミスだったとしてもドキッとしますね。
でも、ミスじゃないんです。何回確認しても、先の研究者と私の引用ページは一致しない……。明らかにずれています。
皿屋敷みたいになってきた……!
▲どこか遠い目をする田村さん
私は思いました。
「私は今、学問の危機に立ち会ってるんじゃないか……!?」
「連綿と続く学問の歴史が、ちょうど私のところで途絶えてしまったんじゃないか……!?」
切実すぎる……。
ここまでくると、私の「知覚」が組織的に全て狂っていないと説明がつかないんです。
おかしい……おかしい……ただ、何度確かめても……
ページ番号は、ずれたままだった……。
(ゴクリ……)
と、いう話でございました……。
▲おじぎで締めようとする田村さん
……えっえっえっ? これで終わり!?
何も解決してませんよ!?
後味が悪すぎる……。
それはどういう感情の顔?
種明かし
以上が事の顛末なんですが、簡単に種明かしをしますと……
ようは、出版社が全部悪かったってことです!
▲「あ~、そういうことね!」
「版」や「刷」が変わってたってことですか?
その通り! 昔からある本では、新しい訳が出たり、新たに前書きがくっついたりしてページ数が変わる場合があるんです。
なので、変更があったときにはその旨を周知するべきとされています。
特に学術書では重要ですよね。
それなのに、私が読んだ本の出版社は、何の予告もなくページ付けやレイアウトを変更していたんです。
最悪だ……。
なので私は、その本のAmazonレビューをのぞきに行きまして……。
同じ被害を受けた同志を探しに行ってる……!
そしたら、レビューにこう書かれていたんですよ。
「Shame on 〇〇!(【出版社名】よ、恥を知れ!)」ってね。
ちゃんとブチ切れておられる。
研究者の魂の怒りですね……!
フランス語版Amazonなのに英語が出てしまうほどの怒り。
▲「おあとがよろしいようで……」
二段オチとはテクニカルなことを……。
という感じでした。あ~、緊張した~!
結果
田村さんの話し方も相まって、ちゃんと背筋が凍りました。
論文を書いたことがある身からすると、恐怖でしかない……。
哲学者が研究で大事にしている考え方も垣間見れて、楽しかったです!
論文を執筆する者ならではの苦悩を怪談に落とし込んだ田村さん。トップバッターとして存分に会場を盛り上げてくれました。
次は私の番ですね。田村さんのお話もすごかったですが、私の怪談もリアリティでは負けてません!
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