おっす、おらコジマ。
『ドラゴンボール』では、孫悟空をはじめとするサイヤ人は戦闘力が高い「超(スーパー)サイヤ人」に変身する。
超サイヤ人になったサイヤ人は、髪が金色に輝いて逆立ち、瞳の色まで青く変化する。もちろん変わるのは見た目だけではなく、平常時とは比べ物にならない圧倒的な戦闘力を発揮できるようになる。その強大な力は、変身と同時に空に暗雲を立ち込め、雷を鳴らすほど……。
いくら超サイヤ人といえど、ひとりの人間が天候を操ることなんてできるのだろうか。簡単に計算してみると、4000日分のカロリーを消費すればできる、かもしれない……。
雷雲=積乱雲
雷がゴロゴロ鳴るような黒い雲のことを、気象用語で「積乱雲」という。いわゆる「入道雲」だ。
積乱雲の特徴は、強い上昇気流によって鉛直方向に発達すること。速いものでは30分程の短時間で発達して雨を降らせる。また、雲の内部では大気が激しく対流するため、水滴や氷の粒が盛んに擦れあって静電気を起こし、雷が起こりやすくもなる。
超サイヤ人に変身したときに起こる不穏な気象現象は積乱雲だと考えていいだろう。では、どうして積乱雲が発生するのか。
地表を温めれば積乱雲ができる?
積乱雲が発生しやすい条件は主に次の3つ。
1.上空に寒気が入っている
2.地表付近の空気が湿っている
3.上昇気流が起きやすい
これが揃うと、湿った空気が上空に運ばれ、寒気によって冷えた水蒸気が水や氷となって雲になる。
3の「上昇気流が起きやすい」に当てはまる環境の例としては「地表付近の空気が暖かい」ことが挙げられる。暖かい空気は軽いため、浮き上がって上昇気流となりやすい。
これを踏まえて考えると、超サイヤ人のパワーで周囲の空気が熱せられ、湿気が十分に供給されれば、積乱雲が発生するという可能性も十分に考えられる。
熱力学で計算してみる
では、どれだけのエネルギーがあれば積乱雲が発生するのか簡単に見積もってみよう。超サイヤ人を中心とする半径100mの半球内にある空気を、20℃から40℃まで上げるために必要な熱量を求めてみる。
半球の体積は209万m3。これだけの空気を20℃上げるための熱量を求めたいが、気体は温度が上がると圧力や体積が大きく変化するため、固体と比べると少しややこしい。
今回は「1モルの気体を1℃上げるのに必要な熱量」(モル比熱)を用いて考える。しかし、このモル比熱は定圧変化と定積変化で異なるのだ(モルは物質量の単位で、約6.02×1023個の分子のまとまりを1モルと数える)。
今回のケースは、圧力を変えずに空気を温める定圧変化に当たるので、定圧モル比熱を用いる。定圧モル比熱は気体分子の種類によって異なるが、空気はそのほとんどが二原子分子(窒素と酸素)であり、定圧モル比熱は(7/2)×R(Rは気体定数)で表せることが知られている。
これで情報が揃ったので、先程計算した体積分の空気に含まれる物質量を求めれば、20℃上げるのに必要な熱量が求められる(仮定として、空気は理想気体であり、周囲の大気圧は1気圧=1010hPaであるとする)。
物質量をnとすれば、理想気体の状態方程式からn=(PV)/(RT)。これを用いると必要な熱量は、(定圧モル比熱)×(モル数n)×(温度幅⊿T)=(7/2)×R×n×⊿T=(7/2)×(PV⊿T)/Tとなる。
- 1hPa=100Pa
- 温度は絶対温度(単位K)で扱い、摂氏t℃は絶対温度で(t+273)K
であるから、P=101,000Pa、V=2,090,000m3、⊿T=20K、T=293K。
これを代入した計算結果は50.4GJ(ギガジュール)。
数字が大きすぎて何もわからない……。カロリー換算すると12.0Gcal(ギガカロリー)。平均的な成人男性が1日に消費するカロリーが3000〜4000kcalだから、その3000〜4000日分のエネルギーを発していることに……。
「ふつうの人間なら」ありえない量のカロリーを消費しないとこんなことは起こらないが、「伝説の」超サイヤ人ならもしかしたら……。
規格外の戦士たちがぶつかり合うからこそ『ドラゴンボール』は面白いのだ。