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単語を1000個作ったのに、全部消した

――いくら趣味とはいえ、ここまで苦労することも多かったのでは?

Ziphil 2回ほど、それまで作った単語を全部リセットしました。1回目は始めて1か月くらいのとき。最初はノウハウも何も知らないまま作っていたので、文法に齟齬が生じてきちゃったりして。「再チャレンジすればもっとうまくできそうだな」ということで、500語くらい消しました

▲(あっけらかんと)「500語くらい消しました」

Ziphil 2回目は、芸術としての言語に方針転換したタイミング。人工言語を知るきっかけだったのもあって、もともとはRPGの世界観に合わせたオリジナル言語を作っていたんです。でも、これだとゲームの世界にありそうな単語しか作れないという縛りがあって。

――自分が創作しているのに、「自分の世界」にできないジレンマがあったんですね。

Ziphil 「このままだと続けるのがしんどいな……なら、自己表現としてやれば楽しいかな」と思って、路線を変えました。このときは1100語くらいのリセットで、惜しい気持ちもあったんですが(笑)。

やっぱり、自分が納得できないものは作りたくないじゃないですか

▲「納得できないものは、作りたくない」

Ziphil そこからは自分らしい造語を続けられていて、先日3000語を超えたところです。ここまでくるとリセットしづらいので、たぶんもうやりません。

人工言語に飽きたら、することがない

――これまで10年以上続けてきて、飽きたり、嫌になったりすることはないんですか?

Ziphil うーん、ないですね。もちろん、つまずくことはあるんですが……人工言語に飽きたら、もうすることがないんですよね(笑)

▲「やめたいと思ったことはないですね」

Ziphil 万が一やめることがあったら、趣味のプログラミングに取り組む気がします。ただそのプログラミングにしても、今は人工言語の辞書ソフトを作るために遊んでいるので、結局人工言語に関わることなんですよね。

――「ライフワーク」という言葉がぴったりですね。

Ziphil 今の時点で、言語としての完成形の80〜90%くらいまではできてるんですが、100%にするまでには小さなプロセスが大量にあるはずで。なので、まだまだ道のりは長いですね。

▲「シャレイア語の完成はまだまだ先」

――ちょっと意地悪な質問ですが、人はいずれ死ぬじゃないですか。そうなったら、単語がアップデートされないまま……。

Ziphil はい。作品としてそこで終わり、完成と言わざるを得ないですね。そうして古代の遺物みたいになって、1000年後とかの人にシャレイア語が発見されたら面白いかも(笑)。「なんだこの言語は!?」って。

「言語の面白さ」を伝えるために

――「言語学オリンピック」で人工言語が取り上げられるのは異例のことだと聞きました。

Ziphil なかなか人工言語の面白さを人に伝えるのが難しいこともあって、出題してもらえた(2021年 第3問)のは非常に嬉しかったですね。「たくさんの人が自分の作った言語に触れて、真剣に向き合ってくれているんだ」と思えました。

――QuizKnockの動画でも、メンバーが言語学オリンピックの問題に挑戦しました。

Ziphil 動画に出てきた問題では、日本語の「〜している」に「実は2つの意味がある」という曖昧さを、シャレイア語を通して伝えています。

▲「〜している」には複数の意味がある(13:50〜)

Ziphil 「確かに!」と共感してもらえたら嬉しいですし、シャレイア語に限らず言語は面白いものだと伝えられる良い機会になったので、本当にありがたいなと感じています。

▲「言語」の面白さをもっと伝えたい

――今のところ、シャレイア語を使える人はどれくらいいるんでしょうか?

Ziphil 高精度で読み書きができる人は2〜3人、「辞書があれば何となく読める」まで広げるともう少し増えると思います。これだけでも、かなりありがたいことです。

――普通はその人が作っておしまい、になりそうですものね。

Ziphil もっと広めていく方法としては、コンテンツ作りを考えています。『不思議の国のアリス』の翻訳は既にやりましたね。あとは、シャレイア語が登場するゲームを作るとか。

Ziphil 何らかの作品の形にできれば、多くの人が親しみやすいはず……とは思うんですが、残念ながら私は小説や音楽のプロではないので。これは得意な人に手伝ってもらいたい気持ちもあります。

いつか、自分の言語で会話してみたい

――もっと話者が増えたら、どんなことをやってみたいですか?

Ziphil 実際のところ、シャレイア語だけで会話が可能なのかは確かめてみたいですね。会話のなかで初めて気づく問題点もあるはずなので、使い手は多ければ多いほど助かります。

▲いつか、シャレイア語だけで会話してみたい

――Ziphilさんの設計した理論通りなら、きっと通じるはずですよね。

Ziphil とはいえ、不自由なく喋れるようになるのはしばらく先かなと。今ある3000語だと「書きたいのに単語がない」状況に陥りがちで、1万語は要りそうだなという感覚です。

――10年で3000ということは、1万まではあと3、40年……

Ziphil 今のペースで増え続けるとは限りませんし、だいぶ遠い気がしてます。造語実況中に「今作ってるその単語、こんな意味にしたら良いんじゃない?」と助言してもらえるのは本当にありがたくて、おかげでいくらかスピードは上がっていそうですが、最終的に単語を決めるのは私なので。人任せにしたら……

――Ziphilさんの言語ではなくなってしまう

Ziphil そうです(笑)。まずは自分の満足いく作品(言語)を作り上げて、結果的にコミュニケーションが取れたら万々歳! という感じですかね。

▲造語ライブは毎週土曜日・22時頃から配信中

――未来のシャレイア語話者の皆さんに向けて、メッセージをお願いします。

Ziphil ぜひ一度、造語実況にお越しください! 「この単語、辞書に載ってない」「こんな単語作ってほしい」などなど、コメントお待ちしています。

――遊びに行きます! 今日はどうもありがとうございました。

▲配信、楽しいですよ!


インタビューを通じて人工言語の面白さはもちろん、「降る雪と積もった雪は別物」といった、Ziphil自身の「ものの見方」にも惹かれる場面が何度もありました。

これから「シャレイア語」はどんな発展を遂げるのか……まだ見ぬ完成形に向けて、Ziphilは今日も新たな言葉、新しいシステムに思いをめぐらせているはず。数十年後、シャレイア語で言葉を交わす人々が現れる日を想像しながら、言語作りの歩みに注目していきたいですね。

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この記事を書いた人

カタヤマ

QuizKnock編集部で記事作りのお手伝いをしています。好きなお菓子は阿闍梨餅。作家性と普遍性の両立している文章が好きです。

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