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「シャレイア語」ってどんなもの?

Ziphil 「8、3、4……」という数字の並び、どこかで見覚えありませんか?

――もしかして、魔方陣……??

▲魔方陣:縦・横・斜めの列の数字の合計が同じ(この図なら「15」)になるパズル

Ziphil そうです! こっそり仕掛けを入れたら面白いかなと思って。

▲嬉しそうに「魔方陣」の画面を見せてくれた

――すごい……。いやまさに、自分の世界を作ってるという感じですね。

Ziphil ちなみにロゴマークにもちょっと意味があって、ジグソーパズルがモチーフです。単語が組み合わさって、パズルのピースがはまるように1つの文になるさまを表現しました。テーマカラーの水色とオレンジは、それぞれ「論理性」と「創造のワクワク感」をイメージしています。

▲シャレイア語のロゴ

単語はどうやって作るのか

――「自己表現の手段としての言語」という意味が、だんだんわかってきました。

Ziphil 要は「形のない感情を、形あるものにする」営みなので、ある種の芸術かもしれませんね。たとえば、「この気持ち、ひとことで表現したいな」と思ったので、「xalérシャレール」という感情を表す言葉を造語しちゃいました。

xalér:悲しい気分のとき、曲の歌詞などに感情移入して、ちょっと気持ちが楽になること。

――「xalér」というと、Ziphilさんのお名前「Shaleiras※5」にも通じる単語ですよね。

※5)「xalér」に名字を表す接尾辞(-as)をつけ、英語風の綴りにしたもの。

Ziphil はい。私と、縁のある5名ほどの方は「シャレイア語の名前」を持っていまして。

▲シャレイア語名「Ziphil Shaleiras」

Ziphil 私の場合は下の名前が「Ziphil」、名字が「Shaleiras」です。よく聞かれるんですが、実は「Ziphil」はシャレイア語とは特に関係なくつけたものです。

――シャレイア語名、「二つ名」みたいでカッコいいですね! ほかの単語はどのように作っているんでしょうか。

Ziphil たとえば、「空から降ってくる雪」と、「積もった後の雪」には別の単語を割り当てています。綺麗な結晶と、地面にある白いふわふわのアレは、全く違うものだと思いませんか?

シャレイア語辞書で「雪」を引くと、複数の単語がヒットする

Ziphil あと、漢字の「猫」とひらがなの「ねこ」は別物です

――猫とねこ? どうしてですか?

Ziphil 動物の猫(monaf)自体も好きなんですが、「ねこ」という概念……かわいい雰囲気はもっと好きだから、別の単語(nekos)を考えました(笑)。

――なるほど、「ねこ」という概念は確かに存在する気がします。

Ziphil 逆に、「茹でる」と「炊く」は同じだったりします。「これ、動作としては一緒では?」と思って。

――そう思うと「炊く」って、米文化の土地ならではの面白い動詞ですよね。ほかにもシャレイア語辞書をいろいろ調べてみると……あれ、「かわいい」って単語が7種類ある!?

▲多すぎて表示しきれない「かわいい

Ziphil バレちゃったな(笑)。こういう微妙なニュアンスの違いには共感してくれる人も、そうでない人もいると思うんですが、それも含めて自分らしさが出ているかなと。

こうした単語は日常生活のなかの気づきから生まれていて、朝、会社まで歩きながら「この2つの概念、日本語だと同じ表現だけど、別の単語があってもいいんじゃない?」と考える癖がついています。

――本当に思いのままに世界を作れてしまうんですね。もし私が人工言語を作るとしたら、お蕎麦が好きなので「ざるそば」「かけそば」は絶対別の言葉にします。

「日本語はすごい。真似できない」

――それにしても英語に苦手意識がある状態から、自力で言語を作るまでになったのはすごいですね。

Ziphil 今だって、いろんな言語をペラペラ喋れるわけではないんです。ただ「人工言語」という完成形を作り上げるには、第1段階として英語や既存の言語全般への理解を深める必要があって、ある時から「英語って意外に単純な文構造じゃない?」とすんなり受け入れられるようになりました。

▲「英語って意外に単純かも?」と気づいた

――会話のためというよりは、システムの部分を吸収したくていろんな言語に挑戦したんですね。

Ziphil コミュニケーション上の微妙なニュアンスは、どれだけ勉強してもなかなかネイティブのレベルには追いつけない。でも「〇〇語にはこんな特徴があって、この要素は言語制作に活かせる」というシステム面は経験を積めばわかってくるものなので、割と広く知ってるつもりですね。

今はフランス語・ロシア語は辞書があれば何となく読めて、ラテン語・古典ギリシャ語にも興味があります。西洋の古典語には語形を複雑に変えるシステムがあって、パズルを解いているような面白さがあるんです。読んでいて飽きないですね。

▲「ラテン語、古典ギリシャ語はパズルみたいなんです」

――人工言語の制作者から見て、日本語はどんな言語だと思いますか?

Ziphil 日本語ってなかなか真似できないなと思っていて(笑)。たとえば「やま」「かわ」と「山河さんが」のような、和語と漢語※6の二重構造がある。同じ内容でも、和語で言うと柔らかなイメージ、漢語を増やすとちょっとフォーマルな感じになりますよね。

※6)和語:古くから日本で使われてきた言葉。漢語:もともと中国で使われ、日本に取り入れられた語彙

Ziphil この二重構造って、かなりすごいんですよ。歴史の積み重ねで変化していった言語だからこそ、これだけ複雑な仕組みが生まれたんだと思います。

言語を作る上での「こだわり」

――先ほどシャレイア語は「ある種の芸術」という話がありましたが、「言語学オリンピック」で取り上げられるほど体系化されている言語でもあります。制作する上で意識していたことはありますか?

Ziphil 特にこだわったポイントは2つあって、1つは単語の意味をしっかり決めることですね。もし「食べる」と「飲む」が指す範囲の境界が曖昧な世界があったら、たぶんそこの住人たちは「これからごはんを……何て言うんだっけ?」といつも言葉に詰まってしまいますよね。

▲「単語が指す範囲」にこだわっている

Ziphil 「自分の表現したい世界」をきちんと成立させるためにも、1個1個の単語が「何を指しているのか」を厳密に定めて、辞書に載せることを徹底しています。もう1つのこだわりは、文法をシンプルにすることです。

――QuizKnockの動画でシャレイア語が紹介された際も、ふくらP・須貝がすぐに規則を見抜いていました。

▲文法をすぐに解き明かしたふくらP(「【စိန်ခေါ်မှု】言語学オリンピックの問題って暗号解読じゃない?」より)

Ziphil 「一応伝わるけど、この表現はちょっと不自然だよね」というような、暗黙のルールをできるだけなくしたいんです。理論さえわかれば、誰でもシャレイア語を使えるように

――単語の作り方は何となく想像できるんですが、「文法を作る」って一体どんな作業なんですか?

Ziphil いろんな自然言語を参考に、自分好みの文法に近づけていくイメージです。わかりやすいのは語順。英語のSVO(主語・動詞・目的語)みたいな話ですね。

いろいろ試すうちに動詞が先頭にあるのが綺麗だと感じたので、シャレイア語は英語とは違うシステムにしました。

▲参考:シャレイア語の語順。「動詞が先頭」なのはアラビア語と同じ

Ziphil その後は日本語のような助詞のシステムを取り入れたりして、だんだん文法を固めていきます。単語の拡張は後からでもできるので、おそらく先に文法が形になるんですが、それも突き詰めようと思えば際限がない。一生終わりません(笑)。

単語を1000個作ったのに、全部消した

――ここまで作り上げるには、苦労もあったのでは?

Ziphil 実は2回ほど、それまで作った単語を全部リセットしています

――えっ!?

次ページ:作った単語を「全消し」人工言語に飽きたら「することがない」スゴすぎるZiphilのこだわり

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この記事を書いた人

カタヤマ

QuizKnock編集部で記事作りのお手伝いをしています。好きなお菓子は阿闍梨餅。作家性と普遍性の両立している文章が好きです。

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