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物理学徒あるある「まずは宇宙に憧れる」

――物理にはざっくり分けて2つの分野がありますよね。宇宙や素粒子について研究する宇宙素核系と、物質について研究する物性系があります。物性物理を選んだのはどうしてですか?

須貝 それは完全に環境だと思います。まず「物理学徒あるある」なんですけど、必ず大学2年生で宇宙に憧れます。これは絶対そう!

▲物理学徒あるある「大学2年で宇宙に憧れがち」

須貝 大学2年生で物理学を勉強している人が宇宙に憧れないのはありえない。僕もそうでした。それで、そのまま宇宙への憧れを持ち続けた人が、宇宙物理をやる。

――な、なるほど確かに……※3。環境によって物性を選んだというのはどういうことでしょうか。

須貝 原因はさまざまあるんですけど、僕の場合はまず、進振り※4理学部の物理学科に落ちました

※3)聞き手の野口はまさに宇宙への憧れで宇宙物理を専攻していた。図星でたじろいでいる。
※4)進振り:進学選択のこと。東大に入学すると2年間教養学部に所属して幅広い学問を学び、2年生が終わる前に3年生から進学する学部学科を選ぶ。過去には「進学振り分け」という名称が使われていたため、「進振り」という略称が定着している。

――須貝さんも落ちると聞くとレベルの高さを感じますね。

須貝 物理学科って人気なんですよね。1年生の後期に「物理学科に行きたいな」って思ったけど、英語とかドイツ語の負債みたいなものがどうしても返しきれなくって。

理学部の他に物理を勉強できるところとなると、基本的に工学部の物理工学っていう選択肢がメジャーです。

――他の大学でも、物理といえば理学部系の学科か工学部系の学科が多い気がします。

須貝 でも当時、教養学部に「基礎科学科」っていう学科があったんですよね。教養学部にある理系学科で、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典先生もそこ出身なんですけど。

その基礎科学科が新しく「統合自然科学科」に改組しますというタイミングで、「それもまた良かろう」と思ったんですよね。なんなら統合自然科学科の1期生になれるし。そっちもおもしろそうだなと思って、最終的には統合自然科学科に進むことにしました。

――なるほど、だから教養学部なんですね。

須貝 そう、なので学位も博士(学術)です。学位って専攻をカッコ書きにするんですが、僕は理学や工学ではなく、学術。

ちなみに、博士号取得者のことを広く「Ph.D.」って呼ぶんですが、「Philosopher of Doctor」(学術博士、哲学博士)の略なんですよね。理学とか工学の人もPh.D.っていいますけど、「俺が本物のPh.D.だ! だってPhilosopherの学位を持っているんだぞ!」っていうのが総合文化研究科のあるある「Ph.D.ギャグ」です(笑)

▲博士(学術)しか使えない「Ph.D.ギャグ」が存在する

なぜ物性物理を選んだのか

須貝 そこからなぜ物性物理を選んだかの話なんですけど、統合自然科学科に所属している物理の先生たちの専門から考えると、実質選ぶなら「素粒子か物性物理」みたいな感じだったんですよ。宇宙物理の先生は少なかった。

――かなり極端な選択肢だったんですね。

須貝 そうそう。あと学部の2年後半から3年前半にかけて、僕がすごく統計力学※5にハマって。物性物理が専門の田崎晴明先生が書いた本※6で統計力学が大好きになって、「物性もいいよな〜」ってなんとなく思っていました。

※5)統計力学:分子などのミクロの物質の動きから、マクロな物理現象を説明する学問。空気の温度や圧力などを説明する熱力学に深く関係している。
※6)新物理学シリーズの『統計力学Ⅰ/Ⅱ』(培風館刊)。物理学徒はだいたいお世話になる「黄色い本」(実際は白の方が面積が大きい)。

須貝 そんなときに一番心に残っているのが、深津すすむ先生という物性の先生で。僕は1年生のときに深津先生の授業を受けてたんですけど、一番前の席で前のめりで授業を受けてたら僕のことを覚えてくださってたんです。ある日、エレベーターホールでばったり深津先生に会って、「うち(統合自然科学科)に来たんですねぇ」って。「はい、来ました」みたいな。

須貝 そこで先生に「何に興味がありますか」みたいなことを聞かれて、「僕宇宙とか素粒子とか結構興味あるんですよね」って言ったら、「物理学者はね、みんなそうなんですよ〜」って言われて。

――さっきの話だ!

須貝 そうそう、でも深津先生はそこで終わらない。「でもね、気付くんですよ。物質も宇宙だって気付くんですよねぇ」って言ってエレベーターに乗っていかれたんです。

▲大きな問いを抱いた須貝氏

――物質も宇宙!

須貝 先生の真意はわからないけど、宇宙物理でも統計力学をたくさん使ってシミュレーションをすることもありますし、そういう研究を見ると物性で電子の状態を統計力学でシミュレートするのと似てるような気もするなぁと思いますし。物性も宇宙くらい複雑な学問だし。

でもあの先生はおもしろかったな。あのやりとりだけはほんまに忘れられない。「物質も宇宙なんですよ〜気付きますよ〜」って(笑)

――おしゃれな勧誘ですね(笑)

須貝 そういう環境で勉強していくなかで、物質に起こる物理現象とかにも興味を持っていきましたね。

例えば、水が氷になったり、水蒸気になったりする「相転移」っていう物理現象がおもしろくて。磁石もライターとかガスバーナーであぶったりすると、あるときから磁石じゃなくなるんですよね。研究していた超伝導も物質を冷やしていくと突然電気抵抗がなくなるっていう相転移の現象なんです。

▲須貝さんが研究していた超伝導も相転移現象のひとつ

――物質独特の不思議な現象ですね。

須貝 突然バツンと状態が変わるみたいな、そんな劇的なことって普通ないじゃないですか。

そういう不思議で劇的なことが起こる相転移っていう現象に興味を持って、それが統計力学で説明できることを知って、物性物理に決めたっていうのが大きいですかね。


今回はなぜ須貝さんが物性物理を専攻するに至ったかについて詳しく聞いていきました。物理に限らず、化学や数学への関心から、物理学者の情熱に心を打たれ、おもしろい先生たちとの出会いによって物性物理の世界に導かれた須貝さん。次回は須貝さんが美しいと思う物理現象などを聞いていく予定です。

▲須貝駿貴、ふくらP、鶴崎修功の「物理大好き軍団」が物理について語る動画もどうぞ!

【前編はこちら】

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この記事を書いた人

野口 みな子

QuizKnock編集部で記事の編集をしながら、記事も書きます。記事を通して「知る楽しさ」の入り口を広げていきたいです。インターネットや動物、ポップカルチャーが大好き。大学時代は宇宙物理学を専攻していましたが、星座に詳しくないのが悩みです。名古屋大学の大学院理学研究科卒。

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