クイズ番組を見るのはお好きですか? クイズ番組との関わり方には、「番組のためにクイズを作る」「クイズに答える」「画面越しにクイズを見る」など、さまざまな形がありますよね。
しかし、そんな人たちとはまったく違う、新しいクイズへの関わり方ーー「学問としてクイズを研究する」人がいます。それが、今回お話を伺った
▲白砂大さん
クイズを科学的に研究するってどういうこと? クイズを研究するとどんな良いことがあるの? 白砂さんに話を聞いていくと、クイズの世界がもっと楽しくなる未来が見えてきました。「クイズを研究する」という楽しみ方を、一緒にのぞいてみましょう。
追手門学院大学心理学部心理学科特任助教。第30回高校生クイズではベスト8の成績を残している。
今回の聞き手。白砂さんは大学の先輩にあたり、現在同じクイズサークルに所属している。
目次
◎ 『高校生クイズ』が人生を変えた 田村正資との思い出も
◎ 研究で示した「クイズ王はAIよりすごい」
◎ クイズを「ブームから文化にしたい」
『高校生クイズ』が人生を変えた
――「クイズを研究する」ってどういうこと? ということを伺う前に、白砂さんがクイズや認知科学とどんなふうに関わってきたかをお聞きしたいです。まず、白砂さんがクイズと出会ったのはいつですか?
白砂さん クイズは高校から始めました。高校でどの部活に入ろうかなと思っていたところに、クイズ研究会が即興でクイズ大会をやっているのをみて、なんだか面白そうだなと思って参加してみました。でもその時は正直、「クイズは別に良いかな」と思っていたんです。
――あれ、そうだったんですか。それはどうしてですか?
白砂さん それとは別に、興味がある委員会があったからです。でも、その委員会の見学に行ってみたら、なんとクイズ研究会の見学の時に見た先輩たちがいたんです。クイズ研究会と委員会で、メンバーがかなりかぶっていたようで。僕の名前や顔も覚えられていて、「これは逃げられない」と思って、クイズ研究会に入ることを決めました。
――「逃げられない」ですか(笑)。白砂さんは『高校生クイズ』にも出ていらっしゃいましたよね。
白砂さん 2010年の第30回大会に出ましたね。めちゃめちゃ楽しかった。地方予選を勝ち抜いて全国大会に進むことができて、仲間も増えました。参加したことで、「この世界にいたいな、みんなもいるし」と思えるまでになりました。高校生クイズは、自分の中ではすごく大きな出来事ですね。
――第30回大会といえば、田村さんも全国大会に出ていますよね。
白砂さん そうですね。
▲高校生クイズの裏側で撮影した1枚。白砂さんはベスト8、田村は優勝の成績を残した
白砂さん クイズは高校3年間でやりきった思いがあり、大学では続けなくてもいいかなと思っていたんですが……。大学でクイズ研究会の見学に行ったら、そこにいた先輩が僕のことを知っていて。結局、大学でも4年間ずっと所属していましたね。
――人の繋がりでクイズを続けることになったんですね。
白砂さん クイズで得た人との繋がりはほかにもあります。僕、大学入試のときに東日本大震災が起こって仙台で被災したんです。家に帰れなくなってしまったんですが、そのとき偶然にも、僕と同じ第30回の高校生クイズの全国大会に出場した人がいて、僕に気づいて声をかけてくれたんです。おかげで暗い気持ちにならずに過ごせた。クイズをやっていたからこそ命を救われたなと思っています。そんな巡り合わせがあったから、クイズに関わっていって、何かしらの形で恩返しをするのが、僕の使命かなと思ったことがありますね。
人間は「わからないけど」「正しそうな」選択ができる
――続いて、白砂さんの研究分野についても伺いたいです。そもそも白砂さんが研究されている「認知科学」とはどんな分野なのでしょうか?
白砂さん その質問に対する答えは本当に十人十色なんですが、僕が一言でいうなら「人の知覚、行動、判断の仕組みについて調べる学問」ですね。最近注目の人工知能(AI)とも関わりの深い分野で、中でも僕がやっているのは「人の知性」などについての研究です。
――確かに、AI関連の話題で耳にする機会も多い気がします。その認知科学とは、どのようなきっかけで出会ったんでしょうか?
白砂さん 大学2年の終わりから3年にかけての頃ですね。僕は千葉大学の行動科学科というところにいたんですが。
▲“行動科学科”を選んだのは「名前が探偵っぽくてかっこいい!」からだそう。
白砂さん 友達に誘われて大学で「認知心理学」という授業を受けていたら、最後の授業で面白そうな言葉と出会ったんです。「ヒューリスティック」というんですが。
――初めて聞く言葉です……! 説明していただいてもいいでしょうか。
白砂さん ヒューリスティックというのは、短い時間、少ない労力で行う、経験則的な判断行為のことです。ヒューリスティックは、これまでにいくつもの種類が提唱されていますが、ここでは僕の研究に関係している例を挙げます。
たとえば、選択肢が2つあって、片方を何となく知っていて、もう片方を知らないとき、知っている方を選ぼうとする。あるいは、どちらも知っている場合は、よりなじみ深い方を選びます。
▲私たちは何気ない場面でヒューリスティックを使っている
白砂さん この判断は必ずしも正しい答えとは限らないのですが、ある程度は「正解」とされるものに近い選択をすることができます。人間は、このヒューリスティックを上手に使って、難しい問題にも対処しているんです。
――なるほど。経験に基づく選択って、意外に当てになるものなんですね。
白砂さん そうですね。本当はちょっと違う分野に興味があったりもしたんですが、結果的に認知科学を専門に扱う研究室に配属されて、そこでヒューリスティックについての研究をしました。さらには大学院の入試問題にもたまたまヒューリスティックが出たおかげで合格し……気づけば、このテーマが僕の研究の軸になっていました。
――そうだったんですね……! でもここまで巡り合わせが重なると、白砂さんは運命に導かれて研究の道に進んでいるようにも思えます。
▲今年の国際学会に参加した時の写真
クイズと認知科学は「相性がいい」
白砂さん 学部からずっと人のヒューリスティック使用について研究をしてきました。やがてこのヒューリスティックが、「もしかすると早押しクイズと相性がいいのでは?」と思ったところから、今の研究が始まりました。
――ヒューリスティックと早押しクイズ……どういう点が相性がいいんでしょうか?
白砂さん キーワードはずばり「不確実性」です。この「不確実性」を突き詰めて考えると、「人間のクイズ王はAIよりもすごい」というデータにも行き着いたんです。
――「人間のクイズ王はAIより強い」、ですか。どういうことでしょう?