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クイズと認知科学の共通点は「不確実性」

白砂さん 早押しクイズは、ゲームの状況によっては大きなリスクを負って押さないといけない時があります。つまり、まだ答えが思い浮かんでいなくても、勝つために(なんとか答えをひねり出せることを信じて)思い切ってボタンを押さなきゃいけない場面があるんです。問題をどこまで聞けば「答えがわかりそうか」を、周りの得点状況や自分の誤答の猶予も考慮しながら判断して、「それっぽい」ところでボタンを押す
これって、さっき説明したヒューリスティックの「経験則的に選択する」というプロセスそのものだと思いませんか?

早押しクイズの大会では、「〇回誤答すると失格」というルールが採用されることが多い。

――確かに、たとえばQuizKnockの動画でも「いつボタンを押すか」の駆け引きはよく起きている気がします。そのときそのときで変わる「一番いい選択」には、ヒューリスティックが関わっているんですね。

▲リスクがあっても、早く押さないと勝てない! ということはよくある

白砂さん そんなクイズプレイヤーのすごさを検証したくて、早押しクイズの問題をAI(ChatGPT)に解かせてみたことがあります。AIが「ここまで聞けばわかる」と判断したところと、同じ問題で人間が押したケースを見てみると、実は人間の方がよほど早く判断ができたりするんです。人間のクイズ王は、AIよりもすごいんですよ

▲人間のクイズプレイヤーは「秋雨前線」を聞いただけで正解。この問題ではAIより圧倒的に早く押している

――本当だ。AIはちょっと慎重といいますか、情報が全部出揃ってから答えている感じがします。早押しクイズの大会でこれくらい慎重だと負けちゃいますね

白砂さん まとめると、クイズも認知科学も「不確実性」がキーワードなんです。どちらも、情報が不十分ななかで、人がどのように振る舞い、判断を行っているかが大きなカギですよね。
そんなわけで、早押しクイズを研究すれば人の知性に迫れる、言ってみれば「クイズ王の脳をのぞける」と思って、今の研究をやっています。

――だんだんわかってきた気がします。クイズって人の思考全体の縮図のような感じがしますね。逆にいうと、私たちが何気なく遊んでいるクイズって、結構すごいことのようにも思えてきます。

▲クイズを研究すれば、人の知性を解き明かせる

「自分しかやっていない」ことは、不安でもあり楽しみ

――白砂さんのほかに、クイズと認知科学を結びつけた研究をされている方はいらっしゃるんでしょうか?

白砂さん 僕が把握している限りだと、いないですね。自力で新しい分野を切り開かないといけない立場です。

――そうなんですね。やはり不安もありますか?

白砂さん 正直、めちゃめちゃ不安です。でも最近は電子版のクイズ問題集が増えたりして、データがどんどん充実してきていますし、「こんなふうに分析すれば、クイズの『あるある』を定量的に示せる」と考えているところもあります。競技クイズに慣れ親しんでいる人にとっては当たり前のことを、データを使って誰にでもわかるように説明できるんじゃないかなと。

▲「クイズプレイヤーあるある」を数値化できるかもしれない

――クイズの「あるある」を定量的に示す、というのは、具体的にはどんなことでしょうか?

白砂さん 前提として、競技クイズで使われる問題は、最後まで聞けば答えが1つに定まるようになっています。そして問題文の中には、知識量や状況に応じて個人差こそありますが「ここまで聞けば答えがわかるだろう」とおおよそ判断できるポイントがあります。そのポイントと、実際にクイズをした時にボタンが押されたポイントとの距離の差を見ることで、「挑戦して早く押したのか、それとも慎重に押したのか」……つまり、クイズプレイヤーの「プレースタイル」を定量化できます

白砂さん 試しに、「牡丹、桜、伊勢などの種類がある食材は何?」(答え:エビ)というクイズを例に考えてみましょう。赤色が「ここまで聞けばおおよそ答えが1つに決まる」と思われるポイント、青が早押しボタンが押されたポイントだとします。解釈としては、赤の文字数から青の文字数を引いた値が大きいほど、攻めたボタンの押し方をしたということですね。「不確実性が高い押しをした」と言い換えることもできます。

▲「大胆な押し」と「慎重な押し」の比較

白砂さん 早押しクイズに正解したいなら、当然ながら問題文を最後まで聞くのが一番合理的です。なるべく不確実性が低い状態で押すのが、一番いいはずですよね。
でも、当然ながら、早押しクイズってみんなそうしない。
時には明らかに答えが決まりそうもないところで押す場合もあります。

――でないと「早押し」クイズとは言えないですしね。

白砂さん クイズプレイヤーが、この「不確実性」をどうコントロールしながらプレーしているかを突き詰めたいわけですね。

実際のクイズ大会でデータを取ってみる

白砂さん 先ほどの指標を用いて、2020年に行われた「abc」の決勝戦を分析してみました。

abc:「新世代による基本問題実力No.1決定戦」をコンセプトとする、大学生以下を対象とした日本最大規模のクイズ大会。2020年当時の決勝ルールは、7問正解でセット獲得となるゲームを、それぞれ誤答のリスクが異なるルールで最大7セット行うというもの。詳細はこちら


白砂さん すると、特に1回の誤答で即失格になってしまうルールの時は、どの選手も不確実性の低い押しをしていることがわかりました

――誤答の猶予が2回以上あるルールと比べると、より慎重にプレーしているということですね。

▲abcの決勝戦の様子

白砂さん abcの決勝に残るようなプレイヤーは、全国のトップ中のトップで、知識量もほとんど差がないはずです。そんななかでもこのような傾向が見えている。クイズプレイヤーの感覚では「誤答に厳しい場面では確実なプレーをする」というのは当たり前かもしれませんが、それをデータとして示せたことには価値があるのではないかと思っています。

――今後データが蓄積されていったら、ルールによって「押し方の傾向」がよりはっきり見えてくるかもしれませんね。

白砂さん そう思います。早押しクイズに関する研究は今年から始めましたが、この新しい研究に取り組んでいくためにも、研究に協力してくれている小坂健太くん(関西外国語大学修士2年)とともにクラウドファンディングを始めました。応援してくださる方の中にはクイズ関係者の方も多く、「面白そう」という声をいただいています。

▲今年の国内学会にて。「この研究を広めて、“ガチ研究”と思ってもらいたい」

白砂さん これからは、心理系、認知系のアカデミックな方々にも「クイズって、学術研究としても面白いよ」とアピールできたらなと思っていますね。
クイズに関しては、クイズプレーヤー、クイズサプライヤー(問題を作成し、出題する人)など役回りが色々あると思うんですが、クイズの研究者……クイズリサーチャーというのがあってもいいかなと思っています。自分はクイズリサーチャーになりたいですね。

「早押しクイズはデータ勝負」の時代が来る?

――白砂さんが考える、「研究のゴール」はどこにあるんでしょうか?

白砂さん やりたいことは色々ありますね。僕は、クイズは一種のスポーツに近いと思っていて。たとえば、クイズもデータ勝負になる時代が来るかもしれません

――クイズがデータ勝負? どういうことでしょうか?

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この記事を書いた人

あさぬま

好きなひらがなは「ぬ」。普段はQuizKnock編集部で記事の編集をしています。人の話を聞くことが大好きです。

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