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著作権は「権利の束」

さて、ここまで長々と書いてきましたが、著作権というのは実はそれだけで1つの権利になっているわけではありません。
「コピーする権利(複製権)」「売る権利(頒布権)」など、細かい具体的な権利が集まって形作られているのが「著作権」なのです。
具体的にどのような権利がリストアップされているのかは、JASRACのホームページに掲載されているこの図が分かりやすいかと思います。
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著作権法に定める権利 / Via .jasrac.or.jp

音楽教室の件で問題になっているのはこの中の「演奏権」です。「公の場での演奏」は著作権の及ぶ範囲であるため、著作権料を支払わねばいけないのです。

「音楽教室」は「公の場」とは言えないようにも感じますが、ここで言う「公の場」は「不特定多数の人に聴かせる」ことを意味しているので、(お金を払えば)誰でも授業を受けられる音楽教室も「公の場」に当たる可能性があります。
実際、2004年には「社交ダンス教室でのCD使用には演奏権が適用される」、つまり著作権料を払わねばいけないという裁判判決が出ています。今回のJASRACの動きはこうした判断の延長線上にあるわけですね。

JASRACって?

JASRAC(日本音楽著作権協会)は、音楽に関する著作権を一括管理することを目的に設立されました。
意外かもしれませんがJASRACの母体が生まれたのは戦前の話です。当時の日本には「音楽は著作者の許可をもらって演奏するもの」という認識はなく、曲の無断使用は普通に行われていました。

そこにドイツ人のプラーゲ博士という人が「ヨーロッパの著作者の代理人」として現れ、著作権料を請求して回ったのです。
これに困った政府は、著作権を一元管理するために「大日本音楽著作権協会」を作り、これが現在のJASRACになっているのです。

こうした経緯があるため、音楽関係の著作権問題はJASRACに問い合わせてしかるべきお金を払えば、大体すべて解決するようになっています。
音楽は1曲だけでも作詞・作曲・編曲・出版……と多くの権利者が関わっています。これだけでも大変なのに、多くの曲を使おうと思ったらいくつの関係者に許可をもらわなければならないのか……そんな状況ではとてもスムーズな音楽利用はできません。
こうした状況をすっきりさせるため、JASRACが間に入って音楽利用者の手間を省いてくれているのです。

業界で独占的な地位にあるなど、もちろん批判されるべき部分は多くありますが、基本的にはJASRACは「便利にしてくれる」ところなのです。

おわりに

最後に個人的な考えを少しだけ言わせてもらえば、今回JASRACが音楽教室に踏み込んだのは妥当な行動だったように思われます。
法的には恐らく「演奏権」が認められる事案だと考えられ、また大手の音楽教室が利益を上げていることを見ても「非営利の利用」とは言いづらいでしょう。

しかし一方で、著作権制度自体がこういった現在のような状況で良いのか、ということは考え直さなければいけないと思います。
例えば、現在の著作権法では「替え歌」や「複数の曲のmix」といったことを作者の許可なしに発表することはできません。
しかし、こういった分野にも一定の文化が育つ余地があるはずであり、著作権法はある面で「文化の発展を阻害している」とも考えられるのです。

デジタルの時代に入って複製が簡単になった現在では、また新種の文化も育ちつつあるでしょう。西洋から輸入した著作権制度は、この辺りで一度、「文化の発展」のために何を保護すべきなのか、根本的に見直す必要に迫られているのではないでしょうか。

 

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この記事を書いた人

柳野とうふ

東大で美術史学を専攻している東京大学OBです。マンガとか専門の本とかを読んでるときに「知らない単語」に出会った感動を共有したいがためにクイズを作ってるところが多分にあります。絵は見るのも描くのも好きです。

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