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歴史を揺るがした監禁事件

フィリップ4世は、13世紀から14世紀のフランスで王権を強化した、世界史上の大人物である。

なぜ、彼か。その疑問は、囚われの身である主人公を明らかにすることと同義である。

それすなわち、ときのローマ教皇・ボニファティウス8世だ。

個人名が複数出てきたので簡潔に説明しよう。フィリップ4世は政治の長、ボニファティウス8世は宗教の長。両者は聖職者への課税権をめぐって激しく対立していた。

そして1303年、前者が後者を3日にわたり監禁するという「アナーニ事件」が発生。教皇は救出されたものの、直後に急死した。フィリップ4世は権力闘争に勝利したといえる。

▲アルフォンス・マリー・アドルフ=ドヌー『教皇ボニファティウス8世の捕縛』

テストに出るのはここまでです

ボニファティウス8世は、さぞ街を抜け出したかっただろう。幽閉されていたのだから、扉を壊してほしいのは当然のことだ

相手となるフィリップ4世は美しい顔立ちから「端麗たんれい」と呼ばれた人物。こしゃくなエクボくらいは持っていたはずである。かねてよりの対立では「本気で教皇を叱っていた」だろう。離れた地域にいたのだから「瞳を見る」こともできないし、「知らない台詞ことば」を話してもいたに違いない。

何よりも、この曲のタイトルは「気まぐれロマンティック」。

Romanticというのは当然、「ローマ人の」という意味の英語である。ローマ郊外の出身で奔放な性格で知られたボニファティウス8世は、まさに「気まぐれロマンティック」であった。

▲我々は「ロマンティック」というときに、ローマに思いを馳せなければならない

一点だけ気になるとしたら、「恋のアンテナ」という歌詞だろうか。

ロマンティック 恋のアンテナは 嵐で何処かへ飛んでいった

いきものがかり『気まぐれロマンティック』(作詞:水野良樹)

アンテナ、は問題ない。ラテン語で昆虫の触角のことを「antennae」と呼んでいたのだから、恋を感じ取る器官の比喩としては適切だ。

問題は「」である。激しく対立した両者の間に、恋など芽生えるはずもないではないか。さすがにMy Sweet Sweet Darlingと呼ぶことは出来ないだろう。

▲今日は「アナーニ事件」だけでも覚えて帰ってください

わずかなほころびでも、見逃す訳にはいかない。しっくり来すぎる人選だっただけに残念だが、この説はボツにしよう

思えば遠くまで来たものだ

改めて、主人公はどのような状況にいるのか

考えるうちに、大事な可能性を見逃していたことに気づいた。

自分で自分を閉じ込め、いつのまにか出られなくなってしまったパターンだ。よく夕方のニュースで流れてくる、穴に挟まっちゃった犬みたいな感じである。

はて、自分を閉じ込めてしまうというのはどんな状況だろうか。

扉というのは、閉じてしまえば自分を守る盾になる。何かから身を守る必要にかられたが、時間を置いてみたら出られない……という状況なのだろう。

……そして、そんなシチュエーションが、やはり歌詞の中にあった。

だ。

ロマンティック 恋のアンテナは で何処かへ飛んでいった

いきものがかり『気まぐれロマンティック』(作詞:水野良樹)

アンテナがどこかに飛んでいくほどの嵐。身の危険を感じるのは当然だ

風が強いのだから、窓際から離れ、窓がない柱のしっかりしたスペース、たとえばトイレなどに避難したくなるかもしれない。

そしてこの行為には、柱の歪みや鍵の破損が起こると扉が開かなくなる、というリスクもある。

 

そう、扉を壊すしかないのだ

 

もちろんこれは比喩。壊すべきは「心の扉」であるので、嵐のような出来事をしのぐために閉じ込めた思いを解き放してほしい、という気持ちがサビの歌詞に表れているのだろう。

一度閉じこめてしまった気持ちは、自分でもなかなか解放することが出来ない。それこそ外側から無理矢理に開いてもらわないとダメだ。

キュートな歌詞のなかにあって、存在感を放つ超越的な“嵐”の力。自然はまさしく気まぐれで、すべてのものを薙ぎ払うのだ。ちっともこしゃくではない

海面温度の上昇が、嵐の脅威を一層のものとしている昨今。心の扉だけでなく、我々の蒼い空まで壊されないように、今できることから始めたい

 

 

 

 

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この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

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