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2023年を語るうえで、避けては通れない話題

ウクライナへのロシアの侵攻、ナゴルノ・カラバフ問題、イスラエルとパレスチナの紛争。SNSのフェイクすら駆使される別次元の情報戦が、戦争を語ることを格段に難しくした。

「わからない」ということは興味を失わせる。無関心は戦争の味方にしかならない行為だが、刺激的な映像の数々と複雑な戦況が拒否反応を呼び起こすのはごく自然なことだろう。私自身、コメンテーターをしているにもかかわらず、だいぶ情報を遠ざけていた時期があった。

それに対し、今年亡くなったミュージシャンたちは(もちろん他のミュージシャンも、なのだろうけれど)、戦争に向き合い、自分の言葉で語ることが多かったように思う。ミュージシャンに限らず、人は世界とつながり、政治の中で生きているのだから、政治的でないことなど起こり得ない(良いか悪いかは別として)。それを、音楽で体現する人が、多かったように感じる。

頻繁に引用されるところでは、やはりTHEE MICHELLE GUN ELEPHANT・チバユウスケが書いた『世界の終わり』の歌詞が挙げられるだろう。過度に予言のように扱うことは気が引けるのだが、どうしてもこのフレーズを思い出すことの多い一年だった。

ちょっとゆるやかに だいぶやわらかに
かなり確実に 違ってゆくだろう
崩れてゆくのが わかってたんだろ
どこか変だなと 思ってたんだろ

THEE MICHELLE GUN ELEPHANT『世界の終わり』(作詞:チバユウスケ)

だけど、続けなければならない「日常」もある

そんな世界を生きていく中で、しかし我々はミクロな領域の雑事とも向き合っていかなければならない。眼の前に数多ある仕事を片付ける中で、自分にどうしようもない世界の変化にまで気を割くことはとても大きな負担だ。

世界の中に生きる一人の個人として「理想的」であることは、正直とてもむずかしい。もしも我が身に、我が家族の身に、なにかあったら。異国の人を思う気持ちが、いつのまにか身近なところまで降りてきて、不安は増幅していく。

名曲『世界でいちばん好きな人』には、『愛は勝つ』で知られるKANが、『愛は勝つ』以上にストレートかつ等身大の愛を、世界との関係性の中で歌った素晴らしい詩が載っている。

ぼくは誰とも争わないし 誰を憎む根拠もない
ただ落ち着きを取り戻すため ちらつくテレビを消そう

KAN『世界でいちばん好きな人』(作詞:KAN)

同じくKANが歌った桜井和寿作詞『安息』にも、同じく身の丈の愛が歌われている。併せて読むことで、より意義深さを感じられるだろう。

陽が翳る頃
静かに鍵が開く音
君の帰りを確かめたなら
一瞬で安息に包まれんだ

KAN『安息』(作詞:桜井和寿)

なによりも大切なのは、自分自身だ。気が引けたとしても、自分や自分の世界を守るために、情報を遠ざけざるを得ないことも、多くあった一年だっただろう。そしてそれは、何も間違っていないと私は思う。

そうした態度は認められるべきという前提のもと、それでもなお心になにか割く余裕があるのであれば、できれば世界のことに目を向けつづけたい。これもまた、私の思いだ。

いずれは自分ごとになる出来事に対して、今はまだ平和を享受している我々にできることは、せめて前を向いて考え続けることだからだ。全員がそうしろとは思わない。でも、現実を直視する人間が多ければ多いほどに、平和への歩みは有利に進むはずであろう。

平和なんか一人のバカがぶっこわす
(中略)
俺は暴力が怖くて眠れねえ

真心ブラザーズ『人間はもう終わりだ!』(作詞:YO-KING)

「今年亡くなったミュージシャン」ではないが、真心ブラザーズの歌う『人間はもう終わりだ!』が、何度も思い出される一年だった。

オイ、人間 もう終わりか?

真心ブラザーズ『人間はもう終わりだ!』(作詞:YO-KING)

06/12/22、リキッドルームでのライブ版。クリスマスシーズンということもあったろうが、この魂の叫びに続いて、ギターソロが奏でたのは『もろびとこぞりて』の旋律であった。

主は来ませり 主は来ませり。救いは訪れるだろうが、それは現実的には、人間自身が諦めなかった場合のみだろう。

私はまだ、終わりだとは思いたくない。ゆるやかな終わりに抗うため、来年も、時折心を休ませながら、考えることだけは辞めたくないなと思う。


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この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

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