インドにある世界遺産のタージ・マハルの屋根は、タマネギのような、特徴的な形をしています。
▲タージ・マハル
似たような形のオブジェは日本武道館の屋根の上にもあります。
▲日本武道館 / via Wikimedia Commons Wiiii CC BY-SA 3.0 , オブジェの画像 / via Wikimedia Commons Morio CC BY-SA 3.0
世界中の建築を見ていると、他にも同じような形をした屋根をもつ建築がたくさんあることに気がつきました。
これらには一体どんな意味や役割があるのでしょうか。
ということで、今回はタマネギの形の屋根のその意味や役割について、建築学科に所属している私、鞠乃がわかりやすく解説します!
タージ・マハルの屋根は、イスラム教由来
タージ・マハルをはじめとするイスラム教の建築では、タマネギのような形をしたドームを持つものが多いようです。
▲イスラム教のタマネギのような形をしたドームの建物
長い歴史の中にたくさんの事例があり、その意味や役割についても諸説あるようですが、今回はその一部について紹介します。
聖性の象徴
このタマネギの形の屋根は、モスク(礼拝堂)やお墓など、宗教に関連した建物によく見られます。その中でも先に使われたのが宗教に関連する人物の墓であったため、人々の間でそれが次第にドームの印象と結びついていき、いつしか聖性とリンクするようになったようです。
また、イスラム教徒が住む町から見える風景に浮かび上がるドームの姿も、何らかの聖性がそこにあることを人々に知らしめました。
高貴なものの象徴
モスクの貴賓席の天井や墓の屋根にドームが使われていたことから、高貴なものの象徴だったという説があります。最初に名前を挙げたタージ・マハルも、かつてのムガル帝国の皇帝が愛する王妃のために建てたお墓です。
大空を表現
ドームによって生み出された、高く、取り囲むように広がる空間は、訪れる人に大空を想像させました。
それ以上に、大空への憧れをドームの中に表現したのではないかともいわれています。
キリスト教でもタマネギ型が使われている!
世界には、キリスト教を由来とするタマネギの形の屋根もあるようです。世界遺産でいうと、ロシアのキジ島にある木造の教会(プレオブラジェンスカヤ教会)や、モスクワにある聖ワシリイ大聖堂がこれにあたります。
この2つはどちらもキリスト教の一派であるロシア正教会の建物で、ロシア正教会の建物ではタマネギの形のドームはよく用いられるようです。
▲ロシア正教会のタマネギのような形をしたドームの建物
このタマネギの形をしたドームにはクーポルという名前があります。
ロシア正教会の建物においても重要である、外から見た時にシンボリックな形をしている必要があるという外側の要素と、天空からの光を重要だと考えるという内側から見た要素を兼ね備えたのが、このクーポルです。
そのため、多くの場合では、空間の中央にあるクーポルから採光しているようです。
日本にもタマネギを見られる場所がある!?
日本国内でも、日本武道館の屋根以外で、このタマネギの形を見ることができます。それは、神社仏閣などにある橋の欄干 です。
▲擬宝珠
これは擬宝珠(ぎぼし、ぎぼうしゅ)というものです。
願いをすべて叶えてくれるということから仏教において大切にされている宝珠(ほうじゅ、ほうしゅ)を模しているという説や、ネギ独特の臭いが魔除けになると信じられ、使われるようになったという説があります。
また、橋の欄干においては、装飾の役割だけでなく、欄干の柱の頂部を守る役割も果たしています。
タマネギ型はただの飾りじゃなかった
ふと気になったことをきっかけにしてタマネギ型の屋根について調べてみましたが、このような意味があることに驚きました。
国内で見られるタマネギの形の「擬宝珠」は、次に神社仏閣に行ったときには探してみたいと思います。
身の回りでも、それがなぜその形になったのかについて調べてみると面白い発見があるかもしれません。
参考文献
- 『世界のイスラーム建築』深見奈緒子
- 『イスラーム建築の見かたー聖なる意匠の歴史』深見奈緒子
- 『木瓦と葱ぼうず ロシア・ノルウェー・フィンランドの木造建築』企画:INAXギャラリー企画委員会
- 『教会建築を読み解く クリスチャン建築の謎と鑑賞をきわめるポケットブック』デニス・R・マクナマラ
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