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この数式があらわすものとは?

2013年に出版された『ユリイカ』の岡村靖幸特集号(何度もめくったので表紙が擦り切れてきた)でも、この数式への言及が何カ所かに見られる。全作品解説を担当したばるぼら氏はこの数式を「いちダースの狂気に少し足りないのが自分という意味か」と評した。

▲『ユリイカ』2013年7月臨時増刊号(伊沢私物)

実際、岡村はこの曲を「情けない同世代」への発破として書いたと証言している。飽食の時代に育った受動的な若者たちを、自分をも含める形で皮肉っているのだ。

そうした主題を考えると、「狂気不足」というのは納得感がある。12という数字を「ダース」、つまりまとまりと解釈するところが白眉である。「一ダースの狂気」と表現するとなんだかカッコいい。そこからの引き算にも意味が感じられるだろう。

とはいえ、マイナス3という、具体的な数字の意味が気になってくる。なぜわざわざ「3」を持ち出しているのかが、ダースに比べて不明瞭である。しかも、Crazyがどんな値なのかわからない。ベクトルなのかスカラーなのか、そもそもこれらの数字の単位は揃っているのか。数学的にはどうしてもこういうところが気になるのだ。宿題しなBabyである。

 

なぜこういった係数の置き方になったのか。まずは一旦数式を整理していきたい。

Crazy×12-3=me、たぶんだけど2変数の1次方程式である。なにはともあれ、ひとまずグラフにしたい。とりあえずグラフ書くの、とても大事。

▲傾きが12で切片が-3

縦軸にme、横軸にCrazyを取ると、Crazyになればなるほどmeがハイペースに増大していくことがわかる。

狂えば狂うほど、大きな自分になれる。

こう書くと、なんだか芯を食っている感じだ。虚飾にとらわれている主人公にもマッチするだろう。

とはいえ、この考え方もまた、なぜ3なのか、なぜ12なのかがわからない。そのあとのフレーズ「つらいんだけど 愚かだ」との関連性も微妙だ。Crazyな自分に対して「愚か」で「つらい」と評しているのだ。少なくとも「気持ちが大きくなっている」ような内容は文脈にそぐわないだろう。

Crazy×12−3(is) me
つらいんだけど 愚かだ

岡村靖幸『聖書』(作詞:岡村靖幸)

つらいんだけど 愚かだ」という言葉には、現状のつらさと、つらい思いをしているにもかかわらず実りのない行為であろうことの愚かさとが歌われているだろう。逆接にはこうしたニュアンスが乗っているはずだ。

 

かけられた「12」、引かれた「3」

もうすこし、数的性質に注目しよう。12や3である意義を考えないといけない。

Crazy×12-3=me。それぞれの数字の意味を捉える上では、実際に計算してみることが肝要だ。このままだと計算は難しいが、大事なのはやはり「me」、つまり自分がいまどのような状態か、ということだろうから、meを無理やりにでも求めたい。

となると今度は「Crazy」をどうにかしないといけない。計算可能な状態にしたいのだ。とはいえ、英単語であるCrazyだ、クレイジー、どうしよう、クレイジー、クレイジー……

902である。

く、れい、じーなのだ。ご承知おきください。

なにはともあれこれで計算可能になる。902×12-3=meのとき、me=10821である。

10821について、私が知っていることはなにもない。一見、意味はなさそうだ。こういうときは素因数分解してその性質を見てみるのが良いだろう。そういうもんなのだ。

10821=3×3607。

……3607!!!!! これはスーパームネアツナンバーである。

なにせ、3×3×3607×3803=123456789なのだ。きれいな並びの数字「123456789」の素因数に3と3607が含まれているのである。

つまり、123456789=10821×3×3803。123456789=me×11409。となると、完璧で美しい並びのためには、meと11409を掛け合わせればいいのだ。鍵はいよいよ11409に絞られた! この意味さえ見つけ出せればゴールだ!!

11409。

いい四駆……

いい弱気……

いい仕置き……

 

うむ、いったん代数の視点から考えるのはやめよう。流石に無理である。そもそも私の手に負えるような数学の範囲ならば、すでに解き明かされてそうだ。クイズの解答者にできることは、もうちょっとファジィにこの問題を捉えることである。

今一度基本にかえって、文脈や意味ベースで考えていきたい。

数式をもっと広くとらえてみる

数字の持つ意味や文脈。この視点に立った時、素晴らしい先例が存在する。

Prince(プリンス)だ。

▲US.コーチェラ公演(2008年4月) via Wikimedia Commons penner CC BY-SA 3.0(画像をトリミングしています)

こちらも天才的なミュージシャンであるプリンスは、ジャンルレスというよりはジャンルフルな多彩すぎるレパートリーを持ち、多くのミュージシャンに影響を与えた。そのひとりがほかならぬ岡村靖幸であり、彼はデビューからしばらく「和製プリンス」と呼ばれてもいた。

プリンスの詩作における特徴の一つが、オリジナリティあふれる「表記」である。今ではより一般的になってはいるが、プリンスは歌詞において英語の「to」を「2」、「for」を「4」などと表記してきたのだ。『Nothing Compares 2 U』『I Would Die 4 U』などが好例だ。「数字を言葉として読み替える」、これがヒントになる。

同じことが、この数式にも言えるのではないか。数字の発音を、意味としてとらえるのだ。そもそも「じゅうに」や「さん」と「minus」「is」「me」などが混在している以上は、数字だけでなくその発音にもヒントがあるはずである。

まず「じゅうに」。これはもう、「じゆうに」と読み替えられるだろう。Crazyで自由、なんかそれっぽいじゃないか。

つづいて「さん」。「スリー」ではなく「さん」だ。……これは、まあ、もちろん、「sun」のことだろう。太陽だ。

Crazy×自由に-sun=me

クレイジーで自由な状態から、太陽を引く。これはどういうことか。

太陽は、やはり明るい存在。この曲がもつジメジメ感とは対局の位置にあるだろう。クレイジーで自由だけど、そこに明るさがない。これはかなり困ったやつだ。ジメジメとした雰囲気で自由にやられたら、だいぶ迷惑である。

手の届かない相手、悶々とした状況、やりたい放題まくしたてるが、そこに並ぶのは勝手で暗い言葉ばかり。そんなことを、この数式は言っているんじゃなかろうか。なんだかそんな気がしたな……よし、999、5963!

 

というわけにはいかないか。いかないな。どうしてもしっくりこないことがあるからな。

「自由に」はだいぶ「Crazy」と被っている。しかも、あんまり「自由さ」は感じない。むしろ価値観に縛られ、状況に縛られ、思うように行かない様が描かれている。まくしたてる様こそ自由であるが、それはむしろ不自由であるがゆえの心の叫びだ。

もはや手詰まり……しかし

数的性質にも、数字の読みにも、答えは見いだせなかった。残る手札はそんなに多くない。

もう、こうなったら奥の手を切るしかないだろう。

ずっと保留していたあの謎が、おそらくこの数式のヒントになる。

それは『聖書』という謎めいたタイトルだ。主にキリスト教の聖典を指す「聖書」という言葉がなぜタイトルに使われているのか。これが、この数字の謎と繋がってくるのである!!!

 

実は、聖書における「数字」の意味合いというのは長らく研究の対象になってきた。聖書には繰り返し登場する、特徴的な数字がいくつかあるからだ。

そして、「3」も「12」もそれらのうちのひとつなのである。

聖書における「12」は、イエスの12人の弟子などのように、完璧であることを表す数字として登場する。現在の暦が12ヶ月なのもキリスト教的背景に基づくものだ。Crazy×12=完璧にクレイジーなのだ。

▲レオナルド・ダ・ヴィンチ『最後の晩餐』にはイエス・キリストと12人の弟子が描かれている

そして「3」は「三位一体」に通じ、神に近い数字だ。キリストも死から3日で蘇る。

 

この12と3の意味を数式に投影するならば、「完璧にクレイジーだけどそこに神聖さがない存在、それこそが私」というメッセージが浮かび上がる。ただただ狂うだけで成果のない凡庸な己を表した式、と解釈できるのだ!!

 

……できるのか?

 

Crazy×12から30くらい引いて、一度冷静になってみる。それっぽいことを言っていても、他ならぬ自分が納得できていないじゃないか。どのアイディアも60点くらいのスッキリしないものばかり。バカげたプライドから早く抜け出すべきだ。

もう自分をごまかすのはやめよう。「聖書」というタイトルも、高身長とか踊りが上手だとか、「マニュアル」を聖書のように崇め、価値観に踊らされている自らを皮肉るニュアンスの言葉だ。 

そもそも、『赤裸々なほどやましく』で岡村ちゃんは「3+6 みたいに 10 から 1 引きゃ 9 になるから」と歌っている。もうこれはいよいよ意味がわからん。おそらく、具体的な数字より、足すとか引くとかいった演算にこそ意味を見出しているのだろう。

具体的な数字は、おそらくゴロの良さ以上の意味はあまり持たない。それで11のだ。もっと12、気持ちいい56で、気持ち49歌い上げればそれで11のだ。

うむ、俺2はこれ9らい4か出来な1。改め10、こんなことしか思いつかない己の凡庸さを思1知6。1031的な数式を生み出すべく、まずはバイブルに頼らない発想を身に着けたいところだ。うむ、今後も頑張ります。

……

「Siri オチの付け方教えて。」


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この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

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