2024年2月某日、ある1本の論文が掲載されました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bnmnszool/50/1/50_33/_article/-char/ja/
ジャーナル「国立科学博物館研究報告A類(動物学)」に掲載されたこちらの論文は、世界的に見ても数体しかいないニホンオオカミの新たな剥製を発見したという内容です。主著者は当時中学1年生の小森日菜子さん。
小森さんは論文発表以前からも絶滅動物の“博士ちゃん”としてメディアに出演し、絶滅動物の魅力をアピールしていました。この記事では、インタビューを通じて研究者の卵である小森さんの飽くなき探究心の源流に迫ります。
『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日)に「絶滅動物」の博士ちゃんとして出演するなど。ニホンオオカミが好きで、このたびニホンオオカミの剥製に関する論文を発表。13歳(記事公開現在)。
オオカミマニア。機械学習と動物の社会性を研究する大学院生(当時)。小森さんとはクイズ番組『99人の壁』(フジテレビ)で共演。
※オオカミ好きゆえに、ときどき私情が挟まりますがご容赦ください。
目次
絶滅動物にハマるきっかけ
3歳から図鑑を読んで……研究の始まりは「ニホンカワウソ」から
――このたびは論文の掲載おめでとうございます。小森さんはこれまでニホンオオカミをはじめ、さまざまな絶滅動物に関する勉強や研究をしてきたと思いますが、そもそも絶滅動物に関心を寄せるきっかけは何だったのでしょう?
小森さん ありがとうございます! そもそものきっかけは、3歳のときにYouTubeで絶滅動物に関する動画を観ていたら興味をもって、絶滅動物の図鑑を購入してもらったことですね。そのときすでに動物全般は好きでしたが、なかでも絶滅動物にハマっていきました。
――物心ついたときから絶滅動物にハマるのは渋いですね。動物の中でも、特に絶滅動物に惹かれた理由はありますか?
小森さん 単純だと思ってるんですけど、絶滅動物は現生の生物からは考えられないくらい奇抜な形態を持っているのが魅力的ですね。例えば、ブルーバックというウシの仲間は毛が青っぽいんですよ。それが綺麗で、かなり好きな時期がありました。
――たしかに、我々からしたら規格外と思えるような生き物はたくさんいますね。
小森さん 家が国立科学博物館(科博)の近所にあって、よく親に連れて行ってもらっていました。図鑑を片手に標本と見比べながら、絶滅動物が生きている姿を想像したりしてました。
小森さん あとは調べたり絵を描いたりするのが好きで、幼稚園生の頃にはオリジナルの絶滅動物の図鑑を作ったりしてましたね。
――オリジナルの図鑑まで。すごいですね。「自分で調べたことを形にする」という点では今回発表した論文と通ずるところがありますが、たとえば学校の自由研究などでも動物について調べたりしていましたか?
小森さん そうですね。小学1年生のときには「ニホンカワウソ」の調べ学習をしていました。
――数ある絶滅動物の中でニホンカワウソを選んだのは?
小森さん 「ニホンカワウソってまだいるんじゃないか?」って思ったのがきっかけです。「絶滅」の定義って、国際的には「最後の目撃から50年以上の生息情報がない」ことなんですが、ニホンカワウソは1979年を最後に目撃が途絶えて、それから約30年後の2012年に絶滅宣言が出されたんです。定義よりも早く絶滅宣言が出たことに疑問を持ちました。
――小学1年生でそんな疑問を持つとは、着眼点がシャープですね。
小森さん あとは、ニホンカワウソは近所の隅田川にも昔は生息していたらしくて、「あ、こんなところにもカワウソいたんだ〜」と親近感を持ちました。
ニホンオオカミの魅力は「ミステリアス」
小森さん 小学2年生からはニホンオオカミに興味を持って自由研究をしてました。少し前に秩父(埼玉県)で「ニホンオオカミの目撃情報がある」というのを聞いて、会ってみたいなと思って調べ始めたのがきっかけですね。
――この時期からニホンオオカミに傾倒していくのですね。ニホンオオカミは先ほど言っていた「姿の奇抜さ」は薄いように思いますが、どんなところに惹かれたのですか?
小森さん ミステリアスなところですね。ニホンオオカミって身近な存在だったはずなのに、実はわかっていないことが多いんです。最後に捕獲されたのが1905年なんですけど、こんなに最近まで生きてたのに……って(笑)
――何十億年と続く長〜い生物史に比べたら、100年なんてごく最近ですもんね。それこそ、秩父の三峯神社のように狼を眷属とする神社もありますし、今もそこらじゅうにニホンオオカミがいた足跡は残っているのに、その生態はまだまだ謎が多いです。
小森さん そうですね。科博をはじめ、日本に保存されているニホンオオカミの剥製を生で見学したことがあるのですが、何というか、ほかのイヌ科動物みたいですごく衝撃を受けたんです。
――現存するニホンオオカミの剥製は言葉を選ばずに言うと、あまり状態や出来が良くない、と言いますよね。オオカミらしくないというか、イヌのように見える、というか。
小森さん そうです。そのときに、「実際はどんな姿をしているんだろう?」って思いが強くなりました。
――ニホンオオカミについての情報の乏しさともつながってくるかと思いますが、それが逆に「謎多き魅力的な動物」となって小森さんを離さなかったわけですね。
小森さん 自分もニホンオオカミの手がかりがないかと思って、秩父や東吉野村(最後にニホンオオカミが捕獲された奈良県の村)とゆかりのある地に行って思いを馳せることはありますね。オオカミの鳴き真似とかしたりして。
――聖地巡礼のような感覚ですね。ひょんなことから遠吠えが帰ってこないかなと期待するのは、自分もオオカミ好きとしてよくわかります。
小森さん よかった(笑) 嬉しいです。そこからは絶滅動物全般というより、特にニホンオオカミのことを突き詰めたいと興味が変わっていきましたね。周りにも絶滅動物やニホンオオカミのことを話しすぎるものだから「ああ、小森がまたやってる」みたいな反応をされるようになりましたね(笑)