青松輝と「未来」
歌集を出して変わったこと
――第一歌集が出版されたということで、これからは「プロ」として認識されると思います。出版前後の心境の変化や、ステップアップしたことへの思いについて伺いたいです。
青松さん 心境の変化は本当に大きかったですね。何より、歌集をちゃんと形にして世に出せたこと、作家としてのキャリアの第一歩を踏み出せたことが嬉しかったです。小説家であれば、1年で1冊長編を書くこともできると思うんですけど、短歌の世界って歌集をすぐには出せないんです。一首作るのに膨大な時間がかかるので。毎年1冊ペースで歌集を出している作家はほとんどいません。どれだけ頑張っても2年はかかるし、第一歌集だったら10年かかることだってザラです。『4』も出版まで5年を要しました。
――成果が世に出ること、そしてその作品が評価されることは、クリエイターにとって嬉しいことですよね。反対に、予想外だったことはありますか。
青松さん そうですね、「いきなりプロの世界に放り出された」という感覚もあります。自分の短歌が本になる前は、心の中に「自分だけの短歌の世界」がありました。一番若くて一番斬新な、最先端の短歌を詠んでいるつもりで書いていたし、そういうものを作りたいと思ってきたわけですけど、『4』が出た途端に、この感覚が揺らぎました。「短歌の歴史のデータベース」に登録されてしまった気がしたんです。
青松さん その重圧を背負っていくために本にしたいという気持ちもあったので、悪いことではないんですけどね。図書館に自分の本が並んでいる事実に対する怖さはあります。今の世界では、「本が存在すること」がそのまま権威として働くので。自分は短歌の新しい側の立場で喋っていますけど、僕より下の世代が書いている短歌の中には、僕や同世代の歌人たちの影響下にある作品がたくさんあると思うんです。なんなら僕が権威に近い方として見られている可能性もあります。
――立場の逆転が起こったわけですね。
青松さん 「青松さんに憧れて、短歌を始めました」という人もいます。責任が急激に「0」から「1」になってしまったんです。 これからどういう形で短歌を詠んでいくのか、すごく真剣に考えていますね。『4』に載っている歌と同じような歌を作ったとしても、 最終的には比べられ、批評されてしまうわけじゃないですか。「ずっと同じような短歌を書き続けることへの不安」も感じています。
――これから新人として歌壇へ挑戦していく中で、どういうビジョンを描かれているのかをお聞きしたいです。
青松さん 自分の権威に甘えたり、先生面をすることなく、誰かにとって世界で一番いい歌を作りたいし、それをずっと続けていきたい。それが当面の目標です。具体的には、『4』を超える第二歌集を出したいです。何をもって超えるのかと言われると、難しいですけど。
――誰かにとって世界一というのは、 創作者の多くが目指すところでもありますよね。
青松さん 大衆性と芸術性のバランスを取るのも、一筋縄ではいかないです。「誰かにとって世界一」の範囲を増やすだけだと、ポップなものが一番ということになってしまうので、どこにターゲットを置くかは考えないといけません。いろいろと試行錯誤しながらやっていきたいです。それでいうと、年下にボコボコに叩かれてみたい。ここから10〜20年ぐらいは、短歌に詳しい人はみんな『4』に対して逆張ってる、くらいでもいい。「こいつの悪口を言っておけば逆にハイセンス」みたいな感じになりたいです。
思い描く「未来」について
――以前X(旧:Twitter)で「医者もやりたい、歌人もやりたい」とおっしゃっていて、「医師と歌人の二刀流」を目指されているのかなと考えているのですが。
青松さん YouTubeもやっていますし、何が当たるかはわからないので、現時点では何とも言えません。でも、医師免許は取るつもりです。わざわざ理三に入って卒業できないのも、なんか嫌じゃないですか? さすがに卒業して、医師免許は取りたいですけど、これからどうなるかは正直予測不可能なので、思い描いてもしょうがない。
青松さん 3年前はYouTubeも始めていなかったので。昔の自分が今の自分を見たら、驚くと思います。とりあえずは、目先のことをこなしていきたいですね。もちろん、文筆に関しては精一杯頑張ります。『4』の出版を通じて、短歌の世界における自分の戦闘力がわかったし、短歌の本がどれぐらい売れるかというのも掴めました。常に書き手としてのレベルを上げつつ、エッセイなども書いていくつもりです。もし短歌の世界で無双できたとしても、それだけは面白くないので。
――青松さんだからこそ目指せる世界ですね。
青松さん ステージを上げていかないと面白くないので。小説だったらたとえば「芥川賞」かもしれないですし。常に新しい挑戦を続けたいと思っています。『4』の出版によって、今後は他分野の依頼も増えるかもしれないですし。ひとつひとつ全力でこなして、やるからには、メジャーリーグを目指したいです。
――ファンとしては、青松さんの小説はぜひ読んでみたいと思います。
青松さん ありがとうございます(笑)。
青松さん もちろん最初に出会ったのは短歌なので、思い入れは当然ありますし、ずっとやっていきます。でも、そもそもジャンルにこだわりがあったら、ここまで手広い活動は行っていないので。
――様々なことに手を出されている青松さんに魅力を見出すファンの方も多いと思います。
青松さん 「東大理三に入ったこと」が人生のピークになったら嫌なんですよね。YouTube登録者数18万人とか、第一歌集の出版とか、いろいろ頑張ってはいるんですが、まだ理三合格の方が希少価値が高いんじゃないかと思う自分がいて。
――向上心が素晴らしいです。
青松さん 僕はある意味「レール」に乗る形で医学部に入ったのですが、「東大医学部」を超える成果を出したいし、出し続けたいと思いますね。いろいろ大変なことはありますが、やっぱりこういう活動が楽しいんです。絶対に今しかできないことなので。「医学部を卒業してからやればいい」と言われても、そのときにはまた違う感性になっているはずですし。
青松さん 今、このタイミングでしか書けないものを書き続けていきたいですね。
インタビューを通じて、青松さんの文芸に対する真摯な姿勢や、それを実現するためのひたむきな努力を感じました。医学を志す者として、文芸分野のクリエイターとして、そして何より、同じ「クイズに魅せられた人間」として、非常に
日夜世に放たれていく青松さんの物語を楽しみに、ひとまずは『4』の言葉を噛み締めようと思います。新作の歌集も楽しみです!
『4』は各種オンラインストアでお買い求め可能です。あなたもこれを機会に「短歌」へ触れてみませんか?