現在、日本には9,000を超える駅が存在しています。
そのなかには、1日に何十万人もの人が利用し、数え切れないほど列車がやってくる、巨大な駅も多くあります。
一方で、人里離れたところにあり、列車の本数・乗降客が極端に少ない駅も。このような駅は「秘境駅」と呼ばれ、全国各地の秘境駅を旅する愛好家もいます。
▲秘境駅のひとつ、北海道根室市の昆布盛駅(筆者撮影)
かくいう私も、小学生の頃から秘境駅に興味を持ち、これまでに50近い秘境駅を訪れてきました。
今回は、そんな「秘境駅マニア」の私が、「秘境駅非マニア」のライターを秘境駅に連れて行き、その魅力を伝えます。最後まで読んだら、きっとあなたも秘境駅に行ってみたくなりますよ!
秘境駅に連れて行こう!
秘境駅の魅力を伝えたいけれど、物理的にも、存在的にも、知られざるからこそ秘境駅。なかなか気軽に共感してもらえる機会はありません。
であれば、「秘境駅に興味がない人」を秘境駅に連れて行き、身をもってその魅力を感じてもらえばいいのではないでしょうか。そう思い、白羽の矢が立ったのはこの人。
▲とりあえず呼び出される枠の人(「二階から目薬をさしたい!絶対に……!!!」より)
広島県出身。秘境駅に行ったことがない都会育ちのライター。「二階から目薬検証」など、何かと人手がほしいときに特に説明がなくても来てくれる。
先入観なしで楽しんでもらいたいので、あえて何も伝えずに誘ってみました。
▲大宮駅集合と言ったけど、目的地が大宮とは言っていない
そして迎えた当日……
▲つまりこれがやりたかった
合流してさっそく疑問が止まらない和歩さん。到着までたっぷり時間があるので、道中で日本の代表的な秘境駅を紹介していきましょう。
KING OF 秘境駅「小幌駅」
まず押さえておきたいのが、「日本一の秘境駅」と名高い、北海道豊浦町の小幌駅です。
上の航空写真を見れば、小幌駅の立地のヤバさをわかっていただけるでしょうか。南側には海、北側には山が迫っており、2つのトンネルの間に挟まれた狭い空間に位置しています。そして、駅のすぐそばを国道が通っているにもかかわらず、駅から国道へ出るための道がありません。
つまり、この駅を訪れる手段は鉄道しかなく、駅から外界に出る手段が鉄道以外にないのです。これが、小幌駅が「日本一の秘境駅」と呼ばれる最大の理由でしょう。
▲小幌駅の全景 via Wikimedia Commons Japanbird CC BY-SA 4.0
2022年現在、小幌駅に停まる列車は、上り・下り合わせて1日6本しかありません。しっかり計画を立ててから行かないと、何時間も列車を待たされたり、次の日まで駅を脱出できなくなったりするので、くれぐれも気をつけて。
▲雪に包まれた、冬の小幌駅(筆者撮影)
ちなみに、小幌駅には駅舎や待合室がありません。私が冬に小幌駅を訪れたときには、気温が0℃を下回る極寒のなか、2時間以上列車を待ったので、手が凍えてしばらく荷物が持てませんでした。
何度でも訪れたい「糠南駅」
私の心をつかんで離さないのは、北海道幌延町にある糠南駅です。
旭川駅と稚内駅を結ぶ日本最北の鉄道路線・宗谷本線には秘境駅が多く、マニアにとってはまるで宝石箱のような路線なのですが、そのなかでも糠南駅は抜群のインパクトを誇っています。その全貌がこれだ!
▲夏の糠南駅(筆者撮影)
列車1両よりも短い木製のホーム。待合室になっているのは、赤い屋根の物置。周囲に広がるのは、一面の草原。「何もない」という言葉が、これ以上ないくらいぴったり似合う駅です。
▲糠南駅の時刻表(筆者撮影)。小幌駅と同じく、1日に6本しか列車が止まらない。これは2020年に撮ったものだが、2022年現在もほとんど変わっていない
私は、糠南駅が好きすぎて、これまでに5回ほど訪れています。季節によって全く違う表情を見せてくれるのも、糠南駅の大きな魅力です。
▲冬の糠南駅からの風景(筆者撮影)。辺り一面真っ白。ちなみにこの時の気温は-18℃
ちなみに、毎年12月には、全国の鉄道ファンが糠南駅に集まって「クリスマスパーティー」を開催するのが恒例になっています。2015年に初めて開催され、2019年には約80人もの参加者を集めました。気温が余裕で氷点下に達するのに、なぜか屋外で開催されるパーティー。いつか参加してみたいです。
▲新藤原駅
関東No.1秘境駅に到着!
そんなことを話しているうちに、本日の目的地・男鹿高原駅に到着しました。
男鹿高原駅は、「秘境駅」の名付け親とされる牛山隆信氏が公開している「秘境駅ランキング」で、関東の駅ではトップとなる16位に位置しています(ちなみに、1位は先ほど紹介した小幌駅)。
▲去り行く列車を見送る和歩
▲なんもない
▲時刻表はこんな感じ。この日は15:41の列車で駅に降り立った
▲駅前
男鹿高原駅は、標高約750mの山の中にあります。周辺には、緊急用のヘリポートと変電所以外、何もありません。コンビニなんて、あるはずがありません。
▲どんどん山道っぽくなっていく。電車で来た場所とは思えない。秘境駅は自然とセットなのだ
秘境駅の周辺を楽しもう!
駅から少し歩いたところで、大きな通り(国道121号線)にたどり着きました。
▲とはいえ圧倒的な緑
▲駅の看板さえ、自然にのみこまれつつある
▲16:06を逃したら、次は19:49だ……
▲わけもわからず、虫にも怯えながら、今さっき来た道を戻る和歩
▲さらば男鹿高原駅
滞在時間は約30分。なんとか帰りの列車に間に合い、無事帰路につくことができました。
秘境駅への訪問が「応援」になる
2020年の統計によると、男鹿高原駅の1日あたり乗降客数は約0.24人だそうです(コロナ禍の影響もあってか、前年よりも人数の落ち込みがみられます)。
今回は、私たち2人の他にもう1人、鉄道ファンと思われる方が降りていたので、この日は約12.5日分相当の乗客が利用したことになります。
秘境駅のなかには、日常的な利用者が少ないことから廃止されてしまうものも少なくありません。2021年3月には、北海道で18もの駅が一挙に廃止され、路線図から姿を消しました。
▲2021年3月に廃止された、宗谷本線の北星駅(筆者撮影)
今回紹介した小幌駅と糠南駅には、いずれも「JRから廃止を打診されたものの、観光資源と位置づけられているため廃止を免れた」という過去があります。そう、観光客がたくさん訪れることで、秘境駅が廃止の危機から救われるかもしれないのです。
秘境駅はまだまだある!気軽に行ける駅たち
和歩さんをはじめ、秘境駅の魅力に少しだけ気づいたみなさんへ。ここからは、都市部から気軽に行ける秘境駅を紹介します。「秘境駅に行ってみたい! でも、北海道とかは遠いしなぁ……」と思ったあなたにオススメです。
新宿からの好アクセス! 白丸駅(東京都)
白丸駅は、東京都奥多摩町にあるJR青梅線の駅です。
▲白丸駅 via Wikimedia Commons Mister0124 CC BY-SA 4.0
東京都心の新宿駅から約2時間で行くことができる無人駅です。駅周辺は山々に囲まれ、新宿駅と同じ東京都にあるとは思えない秘境度を誇っています。
日中は30〜40分に1本のペースで列車が来るため、何時間も列車を待たされる心配はありません。駅の近くには多摩川が流れているので、帰りの列車を待つ間に川沿いを散歩するのもいいですね。
鉄橋の上にある! 保津峡駅(京都府)
保津峡駅は、京都府京都市と亀岡市の境にある、JR嵯峨野線の駅です。
▲保津峡駅 via Wikimedia Commons Saigen Jiro CC0 1.0
この駅の大きな特徴は、ホームが鉄橋の上にあることです。列車を降りてすぐ、駅名にもなっている峡谷・保津峡の景観を楽しむことができます。
この保津峡駅、なんと京都駅から20分ほどで行くことができます。京都観光のついでに、気軽に訪れられますね。
今回紹介した駅以外にも、日本には魅力的な秘境駅がたくさんあります。ぜひみなさんもお気に入りの「秘境駅」を見つけて、訪れてみてください。
▲みなさん、秘境駅で会いましょう!(糠南駅にて)
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