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この記事には、映画『アナと雪の女王』(第1作)の超特大ネタバレが含まれます!

ぜひ本編を鑑賞のうえお読みください。

ディズニー映画『アナと雪の女王』をご覧になったことがあるだろうか。日本では2014年に大ヒット、その後も「金曜ロードショー」で何度か放送されており、世代を問わず親しまれている作品と言えるだろう。

▲劇中歌もおなじみだろう

筆者も先日久しぶりに「アナ雪」を観る機会があり、子どものころに観たときと同様に壮大な映像と音楽に圧倒された。それと同時に、大人になったいま改めて観たからこそ、ストーリーにおいて気になる点もいくつか見つかった。

そこで今回は、「アナ雪」の物語とも大きく関わる世界史の知識を絡めつつ、作品世界をちょっと真面目に考察してみたいと思う。ファンタジーにリアルを持ち込むなんて野暮だなぁと思いながらご笑覧いただけたら幸いでございます。

あらすじ(ネタバレ注意!)

まずは、映画のあらすじをおさらいしよう。

物語の舞台となるアレンデール王国には、エルサアナという王女姉妹がいる。姉のエルサは自らの氷の魔法で妹のアナを傷つけてしまって以来、長らく他者との関わりをほとんど絶つ生活を送っていた。姉妹の両親である国王夫妻が海難事故で亡くなった3年後、アレンデール王国ではエルサの戴冠式が行われる。アナは他国の王子であるハンスと出会って恋に落ち、その日のうちに婚約までしてしまう。一方エルサは、パーティの最中自らの氷の魔法を暴走させてしまい、王国は氷と雪で閉ざされてしまう。アナは王国をハンスに委ね、山男のクリストフと一緒にエルサを追いかけるが……

ようやくエルサのいる氷の城に辿り着いたアナ。しかし、エルサが放った氷の魔法がアナの胸に直撃してしまう。凍り付いた心を溶かすためには「真実の愛」が必要だと知ったアナは、婚約者のハンスにキスを求めるが、ハンスは拒絶。実はハンスはアナのことを愛しておらず、アナへのプロポーズはアレンデールの国王となるための陰謀の一環に過ぎなかったのだ……!

第一の疑問:ハンスの陰謀はうまくいくのか?

さて、筆者がいちばん気になったのはハンスの陰謀である。

当初ハンスが立てたアレンデール乗っ取り計画は、アナと結婚したのちに女王のエルサを事故死に見せかけて始末し、(おそらくは)アナも排除したのちに自分が王座に就くというものだった。

ハンスにはどうやら上の兄が12人もいるらしいので、母国で国王になる可能性はほぼゼロだろう。というわけで、他国の王室に婿入りして国王になろうというのはわからないでもないのだが、果たしてそんなにうまくいくのだろうか。

▲これではなかなか王位が回ってこない(イラスト:加納

世界史を紐解くと、政略結婚によって他国を乗っ取った事例は数多く存在する。もっとも有名なケースの一つは、長きにわたってヨーロッパに君臨したハプスブルク家だ。例えば15世紀末に神聖ローマ帝国の皇帝に即位したマクシミリアン1世は、自らの息子と娘をそれぞれスペインの王女・王子と結婚させ、最終的にスペインをハプスブルク家の領土に加えた。のちに「太陽の沈まぬ国」と称される豊かなスペイン帝国を築いたフェリペ2世は、マクシミリアンのひ孫にあたる。

▲マクシミリアン1世。自らの孫2人をそれぞれハンガリーの王子・王女と結婚させ(以下略)みたいなこともやっている

もっとパワフルに乗っ取りを成し遂げた例だと、18世紀後半のロシアの女帝・エカチェリーナ2世が挙げられよう。ドイツ出身の彼女は若くしてロシア皇帝・ピョートル3世と結婚するが、反ピョートル派の貴族たちと協力してクーデターを決行。夫を追い落として皇帝に即位した。

なるほど、やりようによっては乗っ取りも意外とうまくいくのかもしれない。ハンス王子もきっと、陰謀を企てる前に過去の事例を研究したことだろう。

他国生まれの君主たち

ハンス王子にとってラッキーなのは、アレンデール王国にはアナとエルサ以外に存命の王族がいなそうな点だ。この2人さえなんとか排除できれば、最終的にハンスが王様になる可能性は十分にありそうだ。実際に「アナ雪」の作中でも、アレンデールの大臣っぽい人物から「アレンデールが頼れるのはあなた(ハンス)だけ」みたいなことを言われている。

それに、王家の系譜が途絶えたときなどに他国から新たな王様を招くケースは決して珍しくない。例えば、1905年にノルウェーがスウェーデンから独立した際には、隣国のデンマークの王子がホーコン7世として新たに迎え入れられている。

▲ノルウェー国王・ホーコン7世(左)。真ん中にいるのはオラフ(オーラヴ)王太子

他にも、イギリス王室の遠い親戚だという理由でドイツから招かれて英国王に即位したジョージ1世(どうやら英語が話せなかったらしい)や、フランスで軍人をしていたらスウェーデン国王にならないかとスカウトされたカール14世ヨハンなど、思いもよらぬ運命を辿って即位した君主は大勢いる。この点でいえば、アレンデール王国出身ではないハンスにもそれなりにチャンスがありそうだ。

ハンスの弱点

ところで、ハンスの陰謀を考えるに気がかりな点がひとつある。ハンスのことを支えてくれる腹心の部下っぽい人物が誰一人としていないことだ。普通、王子が他国の戴冠式に出席しようものならお付きの人が同行しそうなものだが、映画を見る限り一人も見当たらない。終盤でハンスがアレンデール王国から追放されるシーンのやり取りを見るに、彼は母国にも無許可でアレンデールの乗っ取りを企てている可能性すらある

▲たった一人で突き進むハンス

これ、仮にハンスがうまく王様になれたとしても、その後は結構困ることになると思う。大臣や部下たちがほぼ全員アレンデール出身という完全アウェーな雰囲気の中で、あのハンスは本当に君主としてうまくやっていけるものだろうか。劇中のハンスはアレンデールの人々に対して好青年っぽく振る舞っていたが、時間が経つにつれてメッキが徐々に剥がれてゆくに違いない。

これでアナとの偽装結婚でも発覚しようものなら大変だ。まずいぞハンス、このままだと国外追放や革命は避けられまい!

次ページ:ハンスが野望を叶えるカギは「〇〇に専念する」こと

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この記事を書いた人

富取 新太

大阪大学在学中。夜行列車と海峡と古書店が好きです。

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