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こんにちは、服部です。

先日の衆議院議員総選挙には投票しましたか?

政局ばかりが注目を集める一方、各党のマニフェストにもしっかり特色がありましたね。中でも話題になったのが、希望の党が掲げた「12のゼロ」政策。待機児童、満員電車、ブラック企業など、社会問題になっているものをなくそう、という内容でした。

今回の記事では、特に「電柱ゼロ」にフォーカス。今年6月には東京都議会で「無電柱化推進条例」が可決されていて、それを全国にも広げようということでしょう。

いま、先進国では電柱の間に電線を通すのではなく、地中に電線を埋める方法が主流となっています。「電柱ナシ」と言ったらこの「電線地中化」を指しています。

オリンピックを前に、「早急に電柱ゼロを目指すべき」とか「実現は難しすぎる」など様々な論がありますが、実際のところどうなのでしょうか。

目次

電柱の何が問題か?

そもそもなぜ電柱があると良くないのでしょうか。

1.景観の悪化

電柱や電線は視界を遮り、景観を悪くしているという考え方があります。

もちろん、夕焼けなどを写真に収めたときに雰囲気を添えてくれる電柱もあります。Twitterなどでもそうした写真は「いいね」をたくさん集めています。しかし、メインの被写体が歴史的な名所・名物であったり、車窓から見ようというときには、電柱は邪魔になります。

2.災害時の倒壊リスク

地震などで電柱が倒れることが非常によくあります。倒れること自体も危険ですが、倒れた電柱が道路をふさぐことで、二次被害が拡大します。

阪神淡路大震災では、倒れた電柱や電線が道路をふさぎ、消防車や救急車の通行を妨げました。これによって、火事の鎮火や救護、物資の輸送が遅れたことが大きな問題になりました。

地中化しておけば、倒れることなく、こうした二次被害の拡大を抑えることができます。

3.交通安全

災害のとき以外でも、電柱が交通の妨げになっていることがあります。

歩道や路肩をふさぐように立っている電柱があると、歩行者や自転車にとって危険です。電柱を避けようとして車と接触したり、電柱と車体に挟まれたりする事故が起きています。

また車から見ても、狭い交差点などにある電柱は視界の妨げになったり、車体をこすったりして危険です。

以上のような問題があるため、無電柱化は以前からの課題でした。

海外・日本の状況

必要に迫られながら、なぜ無電柱化が進まないのでしょうか。電柱をめぐるここまでの状況を見てみましょう。

海外ではどうなっている?

そもそも、海外の電柱事情はどうなっているのでしょうか。

国土交通省が発表しているデータでは、欧州やシンガポールではほぼ100%無電柱化されていて、街中に電柱はありません。

国土交通省 / Via .mlit.go.jp

ヨーロッパの多くの大都市では、電柱をあとから地中化したのではなく、はじめから地中に電線を敷設していきました。また、ニューヨークでは、電線の被覆がなく裸だった時代に、人々が感電する事故が多発し、地中化を進め、今では80%ほどまで無電柱化されています。

他のアジアなどの大都市はもともと電柱による架空線を採用していましたが、近年急速に地中化を進めています。

日本の電柱事情の歴史

日本でも、電線の地中化の流れは戦前からあり、東京都文京区などで整備が進みました。また、満州の植民地で日本軍が建設した都市でも、電線は地中化されました。

太平洋戦争を経て、アメリカ軍による空襲で都市は焼け野原になります。戦争のショックから素早く復興するために、「一時的に」という名目で電柱を立てていきました。電線の地中への埋設は、架空線をかけるのよりも高い費用がかかりました。とりあえずは電柱で電気を送り、もっと余裕が出てきてから地中化しよう、ということになったのです。

ところが、その後の日本は高度経済成長期に突入。電気や電話の需要がどんどん高まり、電柱を次々立てて対応しなければなりませんでした。本来は「一時的」のはずだった電柱が、いつの間にか当たり前になって今に至ります。

無電柱化の課題

いまだに電柱がなくならないということは、何かしらの問題があるということ。無電柱化を阻む障壁や、無電柱化のデメリットを検討しましょう。

費用

上の歴史で書いたように、電線を地中に敷設することは、電柱を立てて架けるのよりも費用がかかります。

既に埋まっているガス管・水道管との兼ね合いや、場所による方式の違いもあり一概には言えませんが、架線式の3倍~10倍、1kmあたりで1億円~5億円程度。東京都の道路延長は2万kmを超え、無電柱化率は7%なので、3億円/1kmで単純計算すると6兆円かかります。

この費用を、国・地方自治体・事業者(電力会社など)が3分の1ずつ負担する方式が主流です。しかし、行政が多額の税金を使って地中化を補助するのに対して反対する意見が出ています。 逆に、地中化が加速すれば、大量発注をしたり、技術開発が進んで、部材などが安くなる、という見立てもあるようです。

工事へ向かう難しさ

「電柱をなくして地中に埋める」という工事に取り組むうえで、困難な側面もあります。

まず、工事をする前に周辺の関係者の同意を得なければなりませんが、電柱に関する権利関係は非常に複雑です。電柱1本でも、架けられている電線によっては、電力会社や電話会社、ケーブルテレビなどの事業者が所有者として関わります。また、単に道路といっても、国道、都道府県道、市区町村道など管理者の異なるものが入り組んでいます。

さらに、それらの監督官庁(経済産業省、国土交通省、総務省など)や、周辺の商店・住民など、多くの人々・団体の足並みが揃わなければ工事は進みません。

ディベロッパーや地域行政が負担して区画を地中化した例はあります。しかし、より広い地域で地中化を進めるには、様々な関係者の協力が必要なのです。

地中化すると災害に強いのか?

電柱が倒れると危険で邪魔なのはすぐにわかるでしょうが、地中化すると災害に強くなるのでしょうか。

阪神淡路大震災のときのデータでは、震度7地域の架空線は10%、地中線は4.7%に被害があり、電柱による架空線のほうが被害が大きくなっています。これは、電柱自体が倒れるのではなく、周辺の建物が倒壊して、電線や電柱を巻き込んだものも含んでいます。

これを見ると地中線のほうが災害に強そうですが、復旧が早いのは架空線です。地上にある線は、断線している箇所をすぐに見つけて修復できます。しかし、地中線は断線している箇所がわかりづらく、掘り返して作業をしないと復旧できません。

また、阪神淡路大震災でも、地中線被害の多くは液状化によるものでした。つまり、河川の沿岸や埋め立て地、干拓地などでは、地中化よりも、電柱による架線のほうがよいことがあります。

「とにかく地中化」ではなく、場所に応じた最善手を打っていく必要があるといえます。

◇参考文献
小池百合子・松原隆一郎(2015)『無電柱革命』PHP新書

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この記事を書いた人

Kosuke Hattori

東大経済学部を卒業しました。各記事が学びと発見への新たな入口になればと思います。よろしくお願いいたします。

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