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コジマです。

門松。
門松。
門松。

正月が近づくと飾る門松。地域によって細かな違いはあるようだが、多くの人が想像するのはこういう図だろう。中央に竹が立ち、周囲を松やその他の飾りが彩る。

門松という名でありながら、まるで松は引き立て役かのような扱いである。それでいいのか、松?

門松がこの形となった経緯を辿りながら、松の立ち位置について考えてみる。

神を迎えるため……ではない?

門松について、民俗学の第一人者である折口信夫しのぶが随筆を残している。ここから門松の由来を読み取ってみよう。

文中で折口はまず、松(あるいは樒【シキミ】や榊【サカキ】)が正月の神を迎えるための招き代(※)であるとも考えられる、と述べている。

しかしながら、「正月の神」とは何だろう?何が「正月の神」なのか実ははっきりしないのだ。そこで折口は、「正月」に実際に行われていた風習や儀式に注目して、「何のための門松なのか」について考えを進めていく。

※招き代:神が人間界に降り立ったときに憑依するもの。依り代。

それなら、何故榊を立てるかゞ問題になるのですが、かうした信仰は、時代によつて幾らも変つてをりますから、一概に言ふ事は出来ませんが、正月の神を迎へるシロであつたかとも見られます。さういふ考へも成り立たなくはないのです。しかしこゝには、まう少し正月に即した考へを立てゝ見ませう

山人からの贈り物

昔は山の神に(いわば住み込みで)仕える神人(=山人)がいて、正月になると里に降りて山の土産物を里のものと交易したという。その土産物の中には「削りかけ」「削り花」と呼ばれるような木を削って作った飾りもあり、里の人はそれらを家の内外に飾ったのだ。

ここから、門松もそのような山人がもたらしたものである、と折口は述べている。

とにかく、此信仰には、現実との結びつきがありました。さうした山の神に仕へる神人があつて、暮・初春には、里へ祝福に降りて来たので、その時には、いろ/\な土産ものを持つて来て、里のものと交易して行つたのです。
(中略)
山人が持つて来た土産には、寄生木・羊歯の葉、その他いろ/\なものがあつたので、今も正月の飾りものになつてゐますが、削りかけ・削り花なども、その一種だつたのです。太宰府その他で行はれる鷽替への神事は、その交易の形を残したのでせう。鷽も、削りかけの一種と見られるからです。里の人達は、これらのものを山人から受けて、これを、山人の祓ひをうけたしるしとして家の内外に飾つたのでした。

これから考へて見ますと、門松も、やはり山人のもつて来た山づとの一種であつたに相違ないのですが、其木は必しも一種ではなかつたかと思ひます。

聖霊棚が形を変えて残ったものだった

竹と松の関係について、折口はとある地方の初春の行事にその答えを見出した。

その地方の門松は、門神柱と言われる栗や楢などの柱を2本立て、しめ縄をはり、その下に松を立てる。これがお盆の聖霊棚によく似ていることから、かつては初春にも行われていたが失われた、先祖への祀り事の名残が門松なのではないか、というのが折口の考え方のようだ。

私は、此数年間、毎年正月になると、三河・遠江・信濃の国境に近い奥山家へ、初春の行事を採訪に出かけましたが、こゝの門松は、また形が違つてゐるのです。門神柱、或は男木などゝと言はれる、栗・楢などの柱が二本立てられ、これに注連をはり、その下に松が立てられるので、その松の枝には、やすと言ふ、藁で作つた、つとを半分にした様なものが掛けられ、その中には、餅・などが入れられるのです。此形は、盆の聖霊棚に非常に近いと思はれます。

これに則って考えれば、柱に当たる竹が霊の宿松が霊の乗り物ということになる。これなら竹が目立つのも納得だ。

だから、松を迎へる事は、分霊を迎へる事で、松は即、その霊ののりものだつたのです。

まとめると、門松は「先祖を祭るための門神柱が、柱が竹になってしめ縄などが取れたもの」と考えられる。……ここまでの話だと「門竹」でもいいような気がしてくるが、伝承を繰り返して由来が曖昧になった結果なのだろう。


風習は全国各地で偶発的に生まれるものであり、その成り立ちを特定することは簡単ではない。ここで紹介したのもあくまで折口信夫による一説である、とは断っておく。

現代では門松を置かない家も多いが、良い風習は後世まで伝えていきたいものだ。

参考文献

  • 折口信夫,『門松のはなし』(「花の名随筆1 一月の花」,中央公論社 収録)(青空文庫)
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この記事を書いた人

コジマ

京都大学大学院情報学研究科卒(2020年3月)※現在、新規の執筆は行っていません/Twitter→@KojimaQK

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