永岡です。動物園めぐりを趣味としているライターです。
▲筆者が訪れた動物園の数々
数々の動物園や水族館を訪れていると、気になることがあります。
「水族館」は水生動物をメインに、「動物園」は陸生動物をメインに飼育・展示している施設です。しかし、全国にはホワイトタイガーやカピバラが人気の水族館もあれば、海獣のマナティーが人気の動物園もあります。
すると、こんな疑問が浮かんできます。
動物の割合? 水槽や檻の数? 考えても答えは出ません。そこで「動物園」と「水族館」の法律上の定義や、実際の手続きに明確な違いがあるのか調査・取材しました。
法律上、定義は存在しない
まず前提として、文化庁によると「動物園」「水族館」はともに「博物館」の一部として分類されています。
ただし、博物館について規定する「博物館法」や、動物を取り扱う施設について定めた「動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護法)」などの法律では、「動物園」「水族館」の定義については一切言及されていません。
つまり、法律上で「動物園」「水族館」の定義や要件は存在しないということになります。
140以上の園館が加盟する団体に訊いてみた
そこで、実際の運営や手続きなど差異はあるのか専門機関に伺いました。公益社団法人日本動物園水族館協会(通称「JAZA」)は、日本の動物園・水族館からなる組織であり、2023年8月現在、90の動物園、51の水族館が加盟しています。
動物園においても魚類・水生生物の展示はあり、 水族館においても動物園で展示する動物を展示している施設もあります。
メインとする動物種が水族であれば水族館、それ以外のものは動物園としているケースが主であると思います。
加盟に際しての審査基準についても、動物園・水族館で共通。また管轄や運営上の違いについても両者に違いはないそうです。
つまり、動物園・水族館の違いは「施設の選択次第」ということになります。極端なことを言えば、理論上は飼育動物種が陸上動物ばかりでも「水族館」と名乗ること(その逆も然り)が可能とも言えます。
ちなみに、日本初の水族館は、1882年に上野動物園内に設けられた「観魚室(うをのぞき)」とされています。日本の水族館が動物園の一部から独立したものならば、「動物園」と「水族館」の厳密な区別は必要ないのかもしれません。
気になる名前「水族園」
「どう名乗ってもいい」ということがわかったところで、日本の動物園・水族館を見ていくとある水族館の名称が気になりました。
JAZAの加盟館のなかで、「水族園」と名のつくのは「神戸市立須磨海浜水族園(1987年開園、2023年5月リニューアルのため閉園)」と「葛西臨海水族園(1989年開園)」の2園です。この2園はJAZAの分類上では「水族館」に分類されています。
では、なぜ「水族園」というハイブリッドな名称なのか。より歴史のある「神戸市立須磨海浜水族園」を管轄する神戸市経済観光局に伺いました。
須磨海浜水族園は、本館のほか、世界のさかな館、ラッコ館、イルカライブ館などの複数の建物で構成されています。
入口から出口への一方通行ではなく、公園の中を散策するように自由に複数の建物を見てもらいたいとの思いから「水族館」ではなく「水族園」と命名されたと言われています。
「館」は建物で「園」は公園。たしかに「飼育する動物種」に限らず「施設の規模や形態」を考慮するならば「動物園」「水族館」だけでは分類できないのもうなずけます。
名前から施設のコンセプトを楽しもう
「動物園」と「水族館」の違いについて取材してきました。結論としては、法や協会規約上も差異はなく「施設のコンセプトに委ねられている」ことになります。動物園・水族館を問わず、それぞれの施設ごとに異なったコンセプトや魅力を、訪れたときには見つけて楽しめるかもしれません。
▲きっとこういう雰囲気で「動物園」か「水族館」か決めている
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