日本語や英語など、世界にはさまざまな「言語」があります。
それらの多くは長い歴史を重ね、人から人へと受け継がれてきたもの。しかし全く異なるアプローチで、たったひとりで「オリジナルの言語」を作ってしまった人がいます。
▲鶴崎修功(左)の盟友・Ziphil
QuizKnockでエンジニアとして働くZiphilは、高校時代から10年以上かけて「シャレイア語」という人工言語を開発してきました。その結果、言語の分析能力を競う大会「言語学オリンピック」にも取り上げられるまでに。自然に生まれた言語が出題の大半を占めるなか、人工的に作られた独自の言語が採用されるのは異例のことだったといいます。
▲QuizKnockの動画でも紹介された
そんな言語制作者・Ziphilに話を聞いていくと、「日本語だけで生活するのはもったいない」と思わされるほど、「言語」に対する見方がガラッと変わってしまいました。目からウロコの「人工言語」の世界、ぜひお楽しみください。
大学の友人・鶴崎修功の誘いを受け、QuizKnockの開発部門に加わる。
クイズ大会「WHAT 2023」公式サイトの制作や、クイズゲーム「Mondo」のメイン開発を担当。
構成・執筆:編集部 カタヤマ
目次
◎ 「言語を作りたい」って、どういうこと?
◎ 驚きの仕掛けが続々「シャレイア語」ってどんなもの?
◎ 「全然真似できない」日本語のスゴさとは
◎ 創作のこだわり「単語を1000個作ったのに、全部消した」
◎ 伝わりづらいけど面白い「言語の魅力」を伝えるために
「言語を作りたい」って、どういうこと?
――はじめに、Ziphilさんのプロフィールを聞かせてください。
Ziphil 鶴崎と数学科の同期だった縁でQuizKnockに入り、エンジニアの仕事をしています。高校生の時から11年間、趣味として「シャレイア語」という人工言語の制作に取り組んできました。
▲シャレイア語の入門書。Amazonで取り扱い中
Ziphil 普段は公式サイトでシャレイア語の文法解説や辞書を更新したり、YouTubeで制作過程をライブ配信したりしています。2018年には入門用の教科書も自費出版しました。
――そもそも「人工言語」とは何なのか、簡単に教えてもらえますか?
Ziphil 日本語・英語のように、人の営みのなかで自然にでき上がったもの(自然言語)に対して、人間が意図的に作り上げた言語を「人工言語」といいます。
人工言語には大きく分けて2種類……国際的に通じる共通語を目指して設計された 「国際補助語」 と、小説などの雰囲気作りや、制作行為そのものを楽しむために作られる「芸術言語」とがあり、私は特に後者に思い入れがあります。
――なるほど。Ziphilさんは何がきっかけで人工言語に興味を持ったんでしょう?
Ziphil 実はもともと言語には全然興味がなくて、英語も得意じゃないくらいだったんですけど、趣味のプログラミングが高じてゲームを作っていたんです。「ファンタジーな世界があって、最後にボスをやっつける」みたいな王道のRPGを。
▲人工言語との出会いは「ゲーム」
Ziphil そこでふと、「ファンタジーの世界なのに、登場人物が日本語しゃべってるのはおかしくない?」と思ったんです。「プレイヤーが理解しやすいように翻訳されている」という解釈もできそうですが、だとしたら本当に話している言語は何なんだろうと。
気になって調べていくうちに、ゲームや小説の世界観作りのためにオリジナルの言語を作っている人の存在を知って、じゃあ自分もやってみようと思いました。
Ziphil 人工言語の世界はとんでもなく多様で、100個ちょっとの単語だけで会話できる言語※1があったり、逆に1文字に意味をたくさん詰め込む超複雑な言語※2が発明されていたりするんですよ。
※1)「トキポナ」。シンプルなコミュニケーションを目指して14音素・約120語だけが定義されており、30時間で習得可能とされる。ちなみに、日本語の辞書『日本国語大辞典』の収録語数は約50万語。
※2)「イスクイル」。45年かけて生み出され、現在も開発中の実験的な言語。これを使えば、一般的な自然言語話者の5倍早く思考できるともいわれている。
――そして、10年以上「シャレイア語」の制作を続けているんですね。
Ziphil 言語を作るのって、Minecraft※3みたいなものだと思っていて。自由に、自分だけの世界を作れるんですよ。
▲「言語を作るのはマイクラみたいなもの」
※3)Minecraft:自由にブロックを積み上げ、建築や冒険を楽しめる大ヒットゲーム
Ziphil 言語って、その裏にある世界や文化が反映されているものです。たとえば、お米文化の日本では「米」「稲」「ご飯」という微妙な言葉の違いがあるのに対して、英語圏は小麦がメインだからか、全部“rice”で通じますよね。
逆に考えると、自分で言語を作ってしまえば「自分が世界をどう見ているか」を表現できるんじゃないかと思ったんです。
「シャレイア語」ってどんなもの?
――シャレイア語の「シャレイア」って、どんな意味があるんですか?
Ziphil 特別な意味があるわけではなくて、響き重視で決めています。シャレイアの「シャ」の部分に「光、明るい」という良いイメージの音象徴※4があって。
※4)音象徴:言語上の音が、特定のイメージを与える事象のこと。
――綺麗な響きですよね、さーっと陽が射してくるみたいで。
▲「シャレイア」は綺麗な響きを考えて生まれた
――シャレイア語は独自の文字「シャレイア文字」を使うんですね。面白い形をしていますが……。
Ziphil 25個あるシャレイア文字のうち、発音が似ていてペアになるものが20個(10組)あるんです。多くは単体だといわゆる清音、右側に「かっことじ」のような線がつくと濁音、という組になっています。
▲「sとz」「tとd」など、音の近い字がペアになっている(タップで拡大)
Ziphil このペアと、数字の0から9が対応しています。便宜上0を省いて、1から9までの数字をシャレイア語で読んだときの頭文字を並べると、こうなります。
――おお〜! 対称になってて美しいです。
Ziphil ところでこの「8、3、4……」という数字の並び、どこかで見覚えありませんか?
▲「見覚えありませんか?」
――もしかして、……?