その「もしも」は近づいてきている
――ここまでは「もしも鳥が世界から消えたら」という仮定の話をしてきましたが、実際の世界では鳥の数はどうなっているんでしょう?
この数十年だけでも、鳥の姿が見られなくなったり減ってしまったりしている場所が全国にありますね。
――どんな理由で鳥の数が減ってしまっているんでしょうか?
ところが、木材の輸入が自由化され安い値段で木材が手に入れられるようになると、こうした人工林は放置され、荒れていってしまったんです。
――とはいえ、木がたくさん植えられているのであれば問題はないのではないでしょうか?
私自身、冬のカラマツ林を1日調査しても、鳥に1羽も出会えないなんてことがありました。
鳥が暮らしやすい環境を作るために、こうした森には人間による手入れが必要なんですよ。
――自然って「そのまま」を大事にすることだと思っていましたが、適切な環境が失われつつあるいま、人間が積極的に関わっていくことが大事なんですね。
ツバメは「どこにでも当たり前にいる鳥」という印象があると思いますが、実はかなり数を減らしているんですよ。
――ツバメ、めちゃくちゃいる鳥だと思ってました。
そしてもうひとつは、日本の家が西洋風になってきたのも大きいですね。
――なぜ家が関係あるんですか?
実はツバメって、ホモ・サピエンスとともに生息地を広げてきた鳥といわれていて、古くから人間と共生関係にあるんですよ。
▲ツバメが巣作りができる住居が減っている
――人間の生活環境の変化が、そんな風に鳥に影響を与えているとは知りませんでした。
先ほどは「世界から突然鳥がいなくなったら」という話でしたが、たった1種であっても、その鳥が数を減らすことで、環境のバランスに影響を与えていきます。
「もしも」の世界にしないため、できることとは?
――なるほど。鳥の多様性を守っていくためには、どのような取り組みが必要なんでしょうか?
手遅れになる前にどうにかしなくちゃいけないということで、弊社では今「サントリー世界愛鳥基金」を通じてライチョウの繁殖技術の確立を支援しています。
▲出典:サントリーnote公式アカウント
サントリー世界愛鳥基金:野鳥保護を通じて地球環境保全を推進するため、国内外の鳥類保護活動の活動資金を助成するサントリーの基金。1990年〜2023年度までにのべ494団体に6億6,250万円の助成を実施した。
――飲料メーカーであるサントリーさんが愛鳥活動をしているのが意外でした。そもそもなぜこうした取り組みを行っているんですか?
そんな時代背景もあり、私たちが自然を守るために何ができるのかと考えたときに、藤井さんの師匠である柳澤紀夫さんに「鳥は環境のバロメーターである」ということを教えてもらったんですね。
――先ほども藤井さんがおっしゃっていた、鳥が健全に暮らしていることが「豊かな環境」のものさしになるということですね。
▲1973年に掲載された新聞広告。商品を訴求しない異例の広告だった(出典:サントリーの愛鳥活動)
現場で活動をしてくれている人たちを応援したいということで、1989年に愛鳥活動団体を助成するサントリー世界愛鳥基金を立ち上げました。
――愛鳥活動を始めて50年、世界愛鳥基金も30年以上続けてきたんですね。
絶滅宣言まで出されたアホウドリの復活
――愛鳥基金ではライチョウのほかに、これまでどんな活動を支援されてきたのでしょうか?
アホウドリは、明治以前、伊豆諸島の鳥島をはじめ北太平洋に多く生息していましたが、乱獲によって戦後には絶滅宣言が出されていました。
▲出典:サントリー「日本の鳥百科」
――少なくなってしまった鳥の数を、より確実に増やせるようにしたんですね。
ほかにも人工飼育したヒナの放鳥も行われていて、いまでは7,000羽近くにまで復活しています。
――絶滅宣言まで出された鳥がそこまで復活するのはすごいですね。
数羽しか見られなかった鳥が大群に
▲シジュウカラガンの群れ(撮影:池内俊雄)
▲共同通信YouTubeチャンネルより
なぜ「サントリー」がここまでやるのか
――海外まで……! 活動の内容をうかがっていくと、一企業としての取り組みの域を超えているようにも感じます。
正直、自然環境のための取り組みをしていない企業は世界から取り残されるというリスクもあるんです。その点で、弊社は日本の企業としてはかなり先を走っていると自負しています。
ネイチャーポジティブ:自然生態系を「維持する」だけではなく、負の影響を抑え「回復させる」ことを目指す概念。近年、SDGs(持続可能な開発目標)の達成のためにも非常に重要な考え方として注目されている。
でも、その分かなり本気でやっています。本当にいい取り組みをやって初めて、ブランド価値につながると思っているので。
アホウドリのデコイを作るにも、シジュウカラガンの調査をするにも、何をやるにもお金がかかる。「自然を守りたい」という純粋な気持ちだけではダメで、活動に参加していく人たちもお金がないと生きていけないですよね。
そういう意味でサントリーさんが助成をしていなかったら、アホウドリもガンも復活が遅れていたんじゃないでしょうか。
「日本の自然保護」という広い視点で見ても、「もしもサントリーがなかったら」と考えたら、もっと遅れていたと思うんですよ。
私たちにできることってなんだろう?
――鳥をめぐる環境の現状やサントリーさんの取り組みについて伺ってきましたが、私たち個人が鳥のためにできることはあるのでしょうか?
私たちの活動の大きな目的は、将来を担っている子どもたちに鳥は「守るべき命」であることを感じてもらうことなんです。
▲かわいく、かっこいい鳥は日本にもたくさん(左:シマエナガ、右:オオワシ)
それは鳥が増えたんじゃなくて、あなたが意識するようになっただけなんですけどね。鳥って意識すれば生活の周りにたくさんいるんですよ。
――最後に、山田さんからはいかがでしょうか?
企業が経済的に安定していないと続けられない活動でもあるので、商品を選ぶとき、弊社のことを思い出してもらえたらうれしいですね。
「世界から鳥が消えてしまったら」という「もしも」の世界。しかし、鳥をめぐる環境の変化を知ると、必ずしも現実とかけ離れたものではありませんでした。
私たちが当たり前だと思っているこの生活は、さまざまな生き物や植物が複雑なパズルのように関わり合って成り立っています。その1ピースを欠けさせないための第一歩は、生活のなかにある自然に目を向けることです。
サントリーの愛鳥活動のサイトでは、これまでの活動や50年の歩みが紹介されています。たくさんの鳥の写真とともに鳴き声も聞けちゃう「日本の鳥百科」もおすすめです。あなたのお気に入りの鳥を見つけてみませんか?
QuizKnockのYouTubeチャンネルでは、メンバーが「日本の鳥百科」に登場する鳥を100羽覚えるチャレンジをしています。
また、QuizKnockと学ぼうチャンネルでは、メンバーがバードウォッチングに挑戦しています。こちらもぜひご覧ください。
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