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その「もしも」は近づいてきている

――ここまでは「もしも鳥が世界から消えたら」という仮定の話をしてきましたが、実際の世界では鳥の数はどうなっているんでしょう?

種類にもよるのですが、日本の全体的な鳥の数は減ってきているといえます。

この数十年だけでも、鳥の姿が見られなくなったり減ってしまったりしている場所が全国にありますね。

――どんな理由で鳥の数が減ってしまっているんでしょうか?

森や湿地など鳥が住みやすい環境がなくなってきていることも大きいでしょうね。日本では明治以降に草地面積の90%以上が消失していて、草原風景はほとんどなくなってしまいました。

また、日本では戦後復興のために、国策として広葉樹の森を伐採して、スギやヒノキなどの木材となる針葉樹をたくさん植えました

ところが、木材の輸入が自由化され安い値段で木材が手に入れられるようになると、こうした人工林は放置され、荒れていってしまったんです。

――とはいえ、木がたくさん植えられているのであれば問題はないのではないでしょうか?

ただ木があるだけではダメなんです。食べ物がなる木、虫が集まる木、寝床になる木などいろんな種類の木が生えていることが理想的です。

私自身、冬のカラマツ林を1日調査しても、鳥に1羽も出会えないなんてことがありました。

人工林は密集していることも多いですし、太陽の光を遮ってしまい森の中は真っ暗です。日が当たる場所がないことも、小動物が住みつかない原因になりえます。

鳥が暮らしやすい環境を作るために、こうした森には人間による手入れが必要なんですよ。

――自然って「そのまま」を大事にすることだと思っていましたが、適切な環境が失われつつあるいま、人間が積極的に関わっていくことが大事なんですね。

人間は生態系をつくる自然の一部でもあるんです。たとえば、日本の環境の変化に影響を受けている鳥のひとつに、ツバメがいます。

ツバメは「どこにでも当たり前にいる鳥」という印象があると思いますが、実はかなり数を減らしているんですよ

――ツバメ、めちゃくちゃいる鳥だと思ってました。

その理由のひとつは、農業の衰退や農薬の使用で、餌となる虫が少なくなっていることも大きいでしょうね。

そしてもうひとつは、日本の家が西洋風になってきたのも大きいですね。

――なぜ家が関係あるんですか?

ツバメは人間の住居の軒下に巣を作って、人間の近くに暮らすことで天敵から身を守っているんです。だけど、最近の家には軒下がないものが多いんですよね。

実はツバメって、ホモ・サピエンスとともに生息地を広げてきた鳥といわれていて、古くから人間と共生関係にあるんですよ。

▲ツバメが巣作りができる住居が減っている

――人間の生活環境の変化が、そんな風に鳥に影響を与えているとは知りませんでした。

人間のライフスタイルの変化によって、これまで長い時間をかけて築いてきた関係も失われていっているということなんです。
私たちにとって「当たり前」のツバメでさえも、実は守っていかなければどんどん減っていってしまうんです。

先ほどは「世界から突然鳥がいなくなったら」という話でしたが、たった1種であっても、その鳥が数を減らすことで、環境のバランスに影響を与えていきます

「もしも」の世界にしないため、できることとは?

――なるほど。鳥の多様性を守っていくためには、どのような取り組みが必要なんでしょうか?

絶滅が危惧されるような鳥を守るために重要なのは、鳥たちが住むことができるような環境の再生と、数を増やしていくための繁殖技術の確立です。これらは実際に絶滅に瀕してしまってから始めようとしても遅いんです。

▲出典:サントリー天然水の森愛鳥活動

たとえば、日本では一度絶滅してしまったトキは、繁殖技術が間に合わなかったんです。

手遅れになる前にどうにかしなくちゃいけないということで、弊社では今「サントリー世界愛鳥基金」を通じてライチョウの繁殖技術の確立を支援しています。

▲出典:サントリーnote公式アカウント

サントリー世界愛鳥基金:野鳥保護を通じて地球環境保全を推進するため、国内外の鳥類保護活動の活動資金を助成するサントリーの基金。1990年〜2023年度までにのべ494団体に6億6,250万円の助成を実施した。

――飲料メーカーであるサントリーさんが愛鳥活動をしているのが意外でした。そもそもなぜこうした取り組みを行っているんですか?

弊社が作っている天然水もウイスキーもビールも、自然の恵みがないと成り立たないんですよね。しかも、この活動を始めた当時、日本は高度経済成長期で環境破壊が問題視されていました。

そんな時代背景もあり、私たちが自然を守るために何ができるのかと考えたときに、藤井さんの師匠である柳澤紀夫さんに「鳥は環境のバロメーターである」ということを教えてもらったんですね。

――先ほども藤井さんがおっしゃっていた、鳥が健全に暮らしていることが「豊かな環境」のものさしになるということですね。

そうなんです。それで1973年に、新聞広告で愛鳥を訴えるキャンペーンを始めたのがきっかけです。

▲1973年に掲載された新聞広告。商品を訴求しない異例の広告だった(出典:サントリーの愛鳥活動

私もあの新聞広告はよく覚えています。それくらいインパクトの強いものでしたね。
だけど、実際に鳥の保護に取り組んでいる団体を見ていくと、資金がなくて活動を続けるのが難しい状況が続いていたんですよ。

現場で活動をしてくれている人たちを応援したいということで、1989年に愛鳥活動団体を助成するサントリー世界愛鳥基金を立ち上げました。

――愛鳥活動を始めて50年、世界愛鳥基金も30年以上続けてきたんですね。

絶滅宣言まで出されたアホウドリの復活

――愛鳥基金ではライチョウのほかに、これまでどんな活動を支援されてきたのでしょうか?

たとえば山階やましな鳥類研究所が進めているアホウドリの復活ですね。

アホウドリは、明治以前、伊豆諸島の鳥島をはじめ北太平洋に多く生息していましたが、乱獲によって戦後には絶滅宣言が出されていました。

▲出典:サントリー「日本の鳥百科」

しかし、わずかに生き残っていることがわかり、繁殖の成功率が高まる、環境条件がよい場所にアホウドリを呼び寄せる計画を山階鳥類研究所が始めたんです。

――少なくなってしまった鳥の数を、より確実に増やせるようにしたんですね。

アホウドリは集団で繁殖する習性があるので、たくさんのデコイ(実物大の模型)を対象地に設置することで、仲間と認識して集まってくるようになりました。

ほかにも人工飼育したヒナの放鳥も行われていて、いまでは7,000羽近くにまで復活しています。

――絶滅宣言まで出された鳥がそこまで復活するのはすごいですね。

数羽しか見られなかった鳥が大群に

昭和初期までは宮城県の仙台周辺で大群が越冬していたシジュウカラガンも、繁殖地の千島列島に天敵のキツネが数千頭放し飼いされるようになったことで、一時は日本で数羽しか見られないほど数を減らしました。

▲シジュウカラガンの群れ(撮影:池内俊雄)

でも、世界愛鳥基金で助成した「日本雁を保護する会」の皆さんの活動によって、現在では1万羽ほどの群れがよみがえりました。

▲共同通信YouTubeチャンネルより

また最近では、日本だけではなく、海外の保護団体にも助成していますよ。特に渡り鳥は、繁殖地だけでなく、越冬地や中継地も守られていないと意味がないですからね。

なぜ「サントリー」がここまでやるのか

――海外まで……! 活動の内容をうかがっていくと、一企業としての取り組みの域を超えているようにも感じます。

今、世界中がネイチャーポジティブに舵を切り始めています。

正直、自然環境のための取り組みをしていない企業は世界から取り残されるというリスクもあるんです。その点で、弊社は日本の企業としてはかなり先を走っていると自負しています。

ネイチャーポジティブ:自然生態系を「維持する」だけではなく、負の影響を抑え「回復させる」ことを目指す概念。近年、SDGs(持続可能な開発目標)の達成のためにも非常に重要な考え方として注目されている。

本音を言うと自然保護の取り組みは僕の趣味みたいなところもあるんですけどね(笑)

でも、その分かなり本気でやっています。本当にいい取り組みをやって初めて、ブランド価値につながると思っているので。
自然保護の活動って、特に日本では利益につながりにくいんですよ。

アホウドリのデコイを作るにも、シジュウカラガンの調査をするにも、何をやるにもお金がかかる。「自然を守りたい」という純粋な気持ちだけではダメで、活動に参加していく人たちもお金がないと生きていけないですよね。

そういう意味でサントリーさんが助成をしていなかったら、アホウドリもガンも復活が遅れていたんじゃないでしょうか。

そこまで大げさには言いたくないですよ。やっぱりそれは、愛鳥家の皆さんのお力ですよ。
でも、先ほどの新聞広告もそうですし、ネットで公開している「日本の鳥百科」もそうで、愛鳥活動を伝えるうえでもとても大きな役割を担ってくださっていると思います。

「日本の自然保護」という広い視点で見ても、「もしもサントリーがなかったら」と考えたら、もっと遅れていたと思うんですよ。

私たちにできることってなんだろう?

――鳥をめぐる環境の現状やサントリーさんの取り組みについて伺ってきましたが、私たち個人が鳥のためにできることはあるのでしょうか?

一番簡単なところでいうと「身近なところにも鳥がいる」ということを認識してもらうことですかね。

私たちの活動の大きな目的は、将来を担っている子どもたちに鳥は「守るべき命」であることを感じてもらうことなんです。

でもそれって、表面的に知識として知っただけでは続かないし、結局人間に何かあれば鳥のことを考えられなくなっちゃうんですよ。私たちも鳥から利益を得ていて、共生関係にあるということを実感してもらわないといけない。
なのでまずはスタート地点として、鳥の存在を感じてほしい。ぜひ外に出て自然を感じてもらいたいですね。そこから鳥を「かわいい」「大切だ」って思っていただけたら。

▲かわいく、かっこいい鳥は日本にもたくさん(左:シマエナガ、右:オオワシ)

おもしろいことに、弊社で愛鳥活動に関わるようになった人が「山田さん、最近鳥増えました?」って言うんですよ。

それは鳥が増えたんじゃなくて、あなたが意識するようになっただけなんですけどね。鳥って意識すれば生活の周りにたくさんいるんですよ。

本当にそうですよね。意識すると、本当に多様な世界が広がっていますよ。

――最後に、山田さんからはいかがでしょうか?

大事なことはほとんど藤井さんに言っていただいたので(笑)、僕が言えることとしては、自然を大切にしている会社の商品を選んでくださいということです。

企業が経済的に安定していないと続けられない活動でもあるので、商品を選ぶとき、弊社のことを思い出してもらえたらうれしいですね。

世界から鳥が消えてしまったら」という「もしも」の世界。しかし、鳥をめぐる環境の変化を知ると、必ずしも現実とかけ離れたものではありませんでした。

私たちが当たり前だと思っているこの生活は、さまざまな生き物や植物が複雑なパズルのように関わり合って成り立っています。その1ピースを欠けさせないための第一歩は、生活のなかにある自然に目を向けることです。

サントリーの愛鳥活動のサイトでは、これまでの活動や50年の歩みが紹介されています。たくさんの鳥の写真とともに鳴き声も聞けちゃう「日本の鳥百科」もおすすめです。あなたのお気に入りの鳥を見つけてみませんか?

QuizKnockのYouTubeチャンネルでは、メンバーが「日本の鳥百科」に登場する鳥を100羽覚えるチャレンジをしています。

また、QuizKnockと学ぼうチャンネルでは、メンバーがバードウォッチングに挑戦しています。こちらもぜひご覧ください。

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