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みんなで推しを語り合いたい!」という千春の願望から化学系ライターたちが招集され始まった推し化合物プレゼン大会

1人1つ「推し」の化合物を語り合います!

※この記事には大量の専門用語と偏愛が含まれます。

改めて、化学愛あふれるプレゼンターたちはこちら!

▲熱い化学談義に花が咲きすぎてしまったため、本企画は4本に分けてお届けしています

ラストの今回は、ハルさんが「人生で一度は頭に被りたい!」という化合物のお話です。一体どういうことなのかは本編をお楽しみください!

ハルの推し化合物「クラウンエーテル」

はい、じゃあ最後に私の発表を始めます。

私の推し化合物として紹介するのは、このクラウンエーテルです。

いやいやこいつもクセ強いんだよなー(笑)。

この化合物に出会ったのは大学の有機化学の授業ですね。そのときいろいろ分子を扱ったんですけど、特に特徴的な形だったということで非常に印象に残っておりました。そして私が4年生になって有機合成の研究室に配属されていろいろと試薬をいじってるなかでこいつと再会しまして、「あのときの君じゃないか!※1」となったわけです。

※1:Yoshida回にて同じくだりがあった

(笑)。

このクラウンエーテル、いくつか種類があります。ここに出してるのは18-crown-6なんですけど、他にも12-crown-4とか、環の大きさによって種類が分かれます※2

※2:クラウンエーテルの名前は、最初の数字が環を構成する原子(酸素と炭素)の数、2番目の数字が酸素原子の数を示している。

なるほど。

これ、それぞれ相性のいい特定のイオンを捕まえることができます。というのは、真ん中に例えばリチウムイオンであったり、あるいは18-crown-6だったらカリウムイオンだったりと、ちょうどはまるサイズのイオンを捕まえられるという。

酸素がマイナスみを帯びてるからプラスのリチウムとかをくっつけるという、そういうイメージですね。

はい。その通りです。

この分子は1967年にペダーセン(Pedersen)らが発見した化合物なんですけど、元々この化合物作ろうとしてたんじゃなくて、別の化合物を作ろうとしてて、失敗してできたそうなんですね。

へ~。

いわゆる典型的なセレンディピティということで、そこにも非常に魅力を感じているところであります。ペダーセンらはこの業績によって20年後1987年にノーベル化学賞を受賞したという化合物でございます。

僕がそれ聞いてパッと思いついたのは導電性ポリアセチレンの話ですね。

あー、大量に試薬を……。

そうそう。触媒の量を間違えて1000倍にしたおかげでポリアセチレンができて、それが導電性を帯びていたという話。

あー! 聞いたことある。

結構とんでもないエピソードですよね。

すごい話だよね。触媒の量を1000倍にするっていうすごい間違え方をするんだけど、その間違いから「偶然に生まれた」って話。いいよね。

ここからクラウンエーテルの推しポイントです!

まずですね、名前がかっこいいです。

たしかに!

クラウンですからね。やっぱり名前は第一印象大事ですから。風格があって素晴らしいなと思います。

次がね、これがちょっと極端なんですけど、頭のサイズに応じた分子模型を作って被れるということなんですよ! ネックレスでもいいんですけど。

(笑)。

で、今回、僕はクラウンエーテルを家で作ってきました。これは僕の好きな18-Crown-6なんですけど、これを頭に乗せるといい感じで王冠みたいになるんですよね。これをつけてるだけで有機化学の王になった気分になれるので、クラウンエーテルは素晴らしいなと思っています。

▲クラウンエーテルを頭に被り、ご満悦なハルさん

何してんのマジで(笑)。

やりたくなっちゃったんですよ。人生で1回でいいからクラウンエーテルを頭に被ってみたいと思って。

一同:(笑)。

自分がね、自分が陽イオンの立場になってね。

そうです、そうです。実際に試薬ぶっかけるわけにはいかないんで。

そらそうよ(笑)。

なのでしょうがないので、分子模型で妥協して頭に被った次第です。

では推しポイント3つ目です。先ほども紹介したように、シンプルな構造なのに特定のイオンを捕まえられるのが素敵だなと思ってます。いろんなイオンがあるなかで1個だけを捕まえてくるってかなり工夫がいることなんですけど、よくもまあ、ただの輪っかでうまいこと捕まえてくるなと。

うんうん。

そして4つ目が一番重要なんですけど、自分が研究室で研究を進めるなかで、この子、クラウンエーテルを入れたら進まなかった反応が進んだんですよ! 教科書で理屈はわかっていたんですけど、知識として理解しているのと、実際に自分の手でやるのだとまた違うと思っていて。

実際に実験をやったときに、「あ、本当に反応が進んだ」っていうのを見て、ものすごく感動を覚えて、特にこの分子に思い入れがあるんです。

うんうん。なんか私もクラウンエーテルかぶりたくなっちゃったな。

(笑)。

ちなみに研究で反応に使ったというのは?

元々溶けないものを溶かすために、いわゆる相関移動触媒みたいな感じで。青酸カリか青酸ソーダを使ったのかな、そのときにクラウンエーテルを入れてあげると、混ざらなかったものが混ざって反応が進むようになったんですよ。

あー、そういうことか。

だからこういうのを見ると、自分が実験をやって反応がうまくいかなかったというときに、サンプルを捨てちゃうんじゃなくて、なんで失敗したんだろうというのも含めて追ってあげることが大事なんだなと思いました。

チャンイケさんのおっしゃっていた導電性ポリアセチレンの話もそうですし、失敗があるからこそ面白い発見に繋がってくるんだろうなというのは、化学をやる人間の姿勢として勉強になるなと思いますね。

見習っていきたい。

そうですね。見習って生きていきたいと思います。

さいごに

これでみんなの推し活は以上かな?

延々語れてしまいますね。卒業前にこのメンバーでやりたいと思ってたので、実現できてうれしいです。

みんなそれぞれ語れる引き出しが多いんだよな。めちゃくちゃ楽しかった。

やっぱり化学はすばらしい!

推し活終了後も、しばらく化学談義に花が咲いたのでした。

全4部にわたる長編でしたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました! 少し化学を好きになってくれたあなたの元には、きっと素敵な化合物がおとずれますよ。

【過去の回はこちら】

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この記事を書いた人

千春

東北大学大学院で化学を専攻しています。読書や料理が好き。 「日常的なことを化学的に」をモットーに、毎日がちょっとだけ楽しくなるような記事をお届けします!

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