皆さんは「たちつてと」をローマ字で表す際、どのように書くでしょうか?
この答えは大きく2パターンに分かれることでしょう。"tatituteto"と"tachitsuteto"の2つです。そして公の場では、単純な"tatituteto"ではなく、複雑な"tachitsuteto"が使われることが多いですね。
では、この2パターンはいったい、どのような違いがあるのでしょうか? また、何故"tachitsuteto"のような複雑な表記が生まれたのでしょうか?
流入したローマ字、定められたローマ字
当然、日本にはもともとローマ字はありませんでした。江戸時代にオランダ語が、幕末に英語が入ってきたことにより、日本にもローマ字という文化が流入しました。
1886年、アメリカ人宣教師ジェームス・カーティス・ヘボンが日本初の和英辞典『和英語林集成』を著しました。ここに使われたローマ字はヘボン式と呼ばれひろく広まります。これが、「たちつてと」を"tachitsuteto"と表すパターンです。現在一般に使われているものですね。
一方で、日本語の五十音表に従った表記であるべきだ、つまり「たちつてと」は"tatituteto"とシンプルに表すべきだ、という意見もありました。
そして1937年には内閣によって、このシンプルなパターンが公的なものと定められました。これは訓令式ローマ字と呼ばれ、現在まで使われていますが、どちらかといえば少数派となっています。
英語の発音に忠実な表現
では、ヘボン式ローマ字ではどうして"tachitsuteto"と複雑な表記をするのでしょうか? それは、英語の発音に忠実につづったからです。
そもそも日本語の「た行」は、音声の観点で見ると不思議です。何故なら、3種類の子音がまとめられているからです。
「た」と同じ発音で口を「い」にすると、「てぃ」になるはずです。では「ち」と同じ発音で口を「あ」にすると? 「ちゃ」になりますよね。
これは「つ」にも同じことが言えます。つまり「た行」には、「たてぃとぅてと」と「ちゃちちゅちぇちょ」と「つぁつぃつつぇつぉ」が混ざっているのです。
この発音の違いを正確に表した結果が、ヘボン式ローマ字なのです。一見複雑に見えるこの表記も、外国人、特に英語話者にとっては分かりやすいことから、現在ひろく使われるまでになったんですね。
◇参考文献
- 沖森卓也編著(2010)『日本語概説』朝倉書店
- 沖森卓也編著(2010)『日本語史概説』朝倉書店