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人におごってもらう焼肉が一番おいしい。東京大学法学部に所属している、ライターのイデです。

▲こんなやりとり、したことありませんか?

何かをおごったり、おごってもらったりするとき、上のように「出世払いで」と言うことがあります。この出世払いとは、将来出世をしたら、その分をお返ししてほしいという約束です。

冗談交じりに言われるこの「出世払い」ですが、実は「おごられた人はその後支払いをするべきかどうか」が裁判で争われた有名な例があります。「出世払い」は法的にはどう解釈されるのでしょうか?

出世しなくても払わなければいけないという判例がある

結論からいうと、裁判では「出世しないことがわかったら、そのタイミングで出世払いを返さなくてはいけない」という判決が出ています。

▲まさに泣きっ面に蜂だが、そういう判例があるのだ

この裁判は大正4年に、現在の最高裁にあたる大審院で行われたもので、「出世払いで」とお金を貸した貸主が、出世が見込めなくなった借主に対して金銭の返還を求めることができるかどうかが争われました。

この大審院では、借主に対して金銭の返還を求めた鳥取地方裁判所の判決に対する借主の上告によって裁判が開かれました。実際の判決文(抜粋)がこちら。

本件上告ハ之ヲ棄却ス

つまり、大審院が鳥取地方裁判所の判決を支持し、借主に金銭の返還を求めたということです。

このことから「出世払い」として結ばれた金銭の貸借契約では、借主が出世しないとわかった段階で借りた分を返す義務(債務)を果たさなくてはいけないということがわかります。

一般に「出世払いでいいよ」という口約束であっても、法的にはれっきとした「契約」として成立します。

しかし、出世するかどうかもわからない一見あやふやなこの約束において、どうして今回のような判決がくだされたのでしょうか。

「出世したら」は期限だから

ここで問題になるのが出世払いの「出世したら」という部分です。

法的には「〇〇したら」には2パターンの解釈があります。

ひとつは、「2030年になったら」のように確実に起こる事象で、これを法的には「期限」と言います。もうひとつは、「宝くじが当たったら」のように起こることが約束されていない事象で、これを法的には「条件」と言います。

「〇〇したら」の2つのパターンのどちらかによって、「債務が発生するタイミング」が異なります。

判決原文には判決理由としてこのように書かれています。

債務者ノ出世ノ時履行スヘキ旨ヲ定メタル債務ハ停止條件附債務ニ非スシテ不確定期限附ノ債務ナリトス

出世払いの契約は停止条件付債務ではなく、不確定期限付債務であるとしています。

つまり大審院は、出世払いの「出世したら」を「もし出世したら金銭を返してほしい」という条件ではなく、「出世するまでは金銭を返さなくてよい」という期限であると解釈しました。

出世払いの口約束をした時点で、期限での契約の効力発生が約束されており、出世しないことがわかった時点でその期限は到来したと考え、お金を借りた人に対して契約の履行(お金の返還)を求めたのです。

▲つまりこういうことだった

日常生活には法律があふれている

一見単純そうに見える「出世払い」の約束についても、大審院(当時の最高裁)まで争われるほど法的には難しい約束です。同じ「出世払い」であっても、契約の内容次第では期限でなく条件と解される場合もあります。

春からの新生活にも、不動産の賃貸借契約や企業との雇用契約、家電を購入する際の売買契約などさまざまな契約があります。現代社会において、契約を結ばずに終える日というのはほぼありません

法律は難しく捉えられがちですが、私たちにとって身近な存在なのです。皆さんが少しでも興味を持ってくれたらうれしいです。

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この記事を書いた人

イデマサト

東京大学法学部OBのイデマサトです。日常でふと感じた疑問を記事にしています。

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