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こんにちは、胡桃です。

私は心理学を研究しているのですが、脳について考えない日はほとんどありません。今回は、私が特におもしろいと感じる「脳の発達にまつわる少し意外なお話」をお届けします!

赤ちゃんはなんでも知覚できる!?

人間は赤ちゃんから大人になるにつれて賢くなる。

……と、当たり前に思っていませんか? 実は、赤ちゃんはある種の知覚能力おいて、大人をはるかに上回っています。

発達心理学の古典的な研究によると、生後6〜8カ月の乳児は、自分が育つ環境の言語にかかわらず母国語以外の言語に含まれる音韻を聞き分けることができます。しかし、生後10〜12カ月になると、その能力は著しく低下します。たとえば、大人の日本語話者がRとLの発音の違いを聞き取るのが苦手なのは有名な話ですが、赤ちゃんの頃のわたしたちは、そんな区別を軽々とこなしていたわけです。

顔の認識でも同様のことが起きています。大人は他の人種の顔を別しにくい傾向があり、これを他人種効果(other-race effect; ORE)といいます。乳児はそのような偏りなくあらゆる人種の顔を識別でき、さらにサルなど他の動物の顔さえも見分けられることが報告されています。

▲赤ちゃんの頃はあらゆる識別ができていた

では、なぜわたしたちはこの「有能さ」を失っていくのでしょうか

赤ちゃんの脳は次第に「退化」する!?

その鍵は、やはりにあります!

脳の神経細胞ニューロン)同士は、シナプスと呼ばれる接合部でつながっています。このシナプスの数は、生まれてから数カ月~数年でピークを迎えます。つまり、赤ちゃんの脳には大人よりも膨大な数のシナプスが存在しており、さまざまな感覚情報がたくさんの経路を通じて処理されているのです。これが、あらゆる音や顔を広く知覚できる理由のひとつだと考えられています。

しかし生後の時間経過とともに、使われる頻度の低いシナプスは積極的に取り除かれていきます。 これをシナプスの刈り込み(synaptic pruning)といいます。よく使われる神経回路は繰り返し使われることで強化・固定され、反対にほとんど使われない回路除去されていきます。

▲シナプスを刈り込む(減少させる)ことですっきり!

この過程によって、情報処理が効率化され、わたしたちはより速く、正確に自分の環境に適した認識ができるようになるのです。

つまり、「退化」しているように見えて、実はこれが脳の成長であるということです。

刈り込みが起きないと……?

刈り込まれるべき神経回路が残ることで生じると考えられている現象として、共感覚(synaesthesia)があります。共感覚とは、ある感覚刺激が別の感覚を自動的に呼び起こす現象で、「数字や音に色がついて見える・聞こえる」といった体験をする人がいます。

▲共感覚の例

新生児共感覚仮説(Neonatal Synaesthesia Hypothesis)によると、このような感覚のつながりは生まれた直後の乳児であれば誰にでも存在しうるものとされています。通常は刈り込みによって消えていくのに対し、一部の人では刈り込みが比較的少なかったために、その接続が維持されると考えられています。

また、この刈り込みが適切に行われないと発達に影響を与えることもあります。

まとめ

わたしたちの脳は、赤ちゃんのころのなんでも知覚できる状態をある意味「退化」させることで、今の効率的な知覚を手に入れました。

何かを失うことが、より高度な機能につながることがある。

脳の発達っておもしろいでしょう? 

参考文献
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この記事を書いた人

胡桃

慶應義塾大学大学院博士課程2年の胡桃です。心理学を学んでいます。心理学の面白さを伝えられる記事や、日常の中のふとした疑問を楽しみながら解決できる記事を書くことが目標です。写真撮影とディズニーが大好き。記事を通して一緒に楽しく学んでいきましょう!

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