スラッグが2度目に登場したエンドロール後の教室のシーン、ここで黒板に驚くべきことが書いてあったのです。
それが……
こいつ、夏休みまでかかってんじゃん!!
たしかに、清掃員も「今年度」って言ってましたね。つまりスラッグは、9月頭の入学日に登校を始め、来年の夏までの期間全てを登校に費やしていたことになります。
アメリカの大学の夏休みはだいたい6月に始まりますので、スラッグは校門から教室まで 9カ月間かけて移動したことになります。お前、本当にそれでよかったのか……?
彼の登校に対する異常な執念を確認できたところで、実際のスラッグの速さの算出に移りましょう。
速さの計算
9カ月間で200 mを進んだとしますので、1カ月を30日とするとスラッグの移動が移動する速さはずばり
時速0.00003086 km
となります。
真面目に計算してそうなっちゃったんだから、仕方ないですね。
え? あまりにも遅すぎて実感が湧かないって? じゃあ、もう少しわかりやすく説明しますね。
時速0.00003086 kmを秒速に換算すると、秒速0.0086 mmになります。一般的な料理用ラップの厚さが0.01 mmなので、1秒間にラップの厚さぐらい進みます。めちゃくちゃわかりやすいですね!
体にある大部分の細胞の大きさでさえ0.02 mm前後といわれています。つまりスラッグは人間大の生物でありながら、1秒間の運動距離を細胞レベル以下にまで抑えることができているのです。逆にすごい。
想像以上の数値が叩き出されましたね。では、この遅さをさらにわかりやすくするために、現実世界のナメクジの速さと比べていきましょう!
現実のナメクジとの比較
とはいえ、ぶっちゃけ現実のナメクジの速さもよくわかりません。そこで今回は、極めて原始的な手法によって身近なナメクジの速さを算出します。
そう、実測です!
まず、ナメクジを捕まえるために、以下のような捕獲セットを用意しました。
ナメクジは草食性で、ビールの酵母臭を好むという習性があります。そこで今回は、レタスにビールを少量振りかけたものを虫かごにいれ、庭の草むらに放置しました。
すると、3時間ほどでめちゃくちゃ寄ってきてくれました! こいつらを割り箸で捕獲し、紙の上で走らせて速さを求めたところ……
秒速約2 mm
という結果が出ました! なんと、スラッグの200倍の速さで移動しています!! はっっっや!!!
実際のところ、現実のナメクジでも遅すぎて速さを測るのにめちゃくちゃ苦労しました。その1/200の遅さとなると、動いているのを目で確認するのも難しいでしょうね。
「200倍の隔たり」というのはめちゃくちゃ大きいです。人間の走る速さを時速20 kmとすると、その200倍は時速4000 km……マッハ3以上ですね、戦闘機のレベルです。
人間にとっての戦闘機は、スラッグにとってのナメクジなわけです。
しかも、スラッグはナメクジよりも体がずっと大きいにもかかわらず、速さで200倍もの差をつけられているのです。スラッグの身長を1.5 mとすると、せいぜい5 cmほどであるナメクジと比べて30倍の大きさ。
単純計算だと、見かけの速さ差は200×30=6000倍になります。
もう、生物として別次元に位置する遅さといってもいいでしょう。ゾウリムシだって時速7 mぐらいなんですし。
ここまでくると、スラッグにはこの遅さを誇って欲しいですね。現実のナメクジみたいな中途半端な遅さはデメリットになり得ますが、スラッグレベルになるともう才能です。
全生物における「トップ・オブ・スロー」として胸を張っていい!
日常生活は可能か?
と、勝手に盛り上がりましたが、ここで新たな疑問が浮かび上がってきます。
それは……
なんてったって「モンスターズ」シリーズの世界は多種多様なモンスターが暮らしているにもかかわらず、根っこのシステムや街の景観は人間界と大差ありません。
ビルよりも大きなモンスターや、体がゲル状だから側溝に落ちてしまうモンスターもいるにも関わらず、こういったモンスターたちへの援助が大してなさそうなのは、正気の沙汰と思えません。
もちろんスラッグもこのあおりをモロに受けるため、「微生物より遅いやつが現実世界と同じスケールの環境で生活する」という無理が発生します。
しかし、大学に入学できているということは、入試に合格したということ。スラッグの速さで試験会場にたどり着けるわけがありませんので、何らかの方法で移動をしていたはずです。
そこまで考えて、僕はスラッグの大きな武器に思い当たりました。それが……
何度も書いているとおりスラッグの足は抜群に遅いです。しかし彼は、走るときに手を普通のスピードで振っているのです。
これでしたら、アクセル・ブレーキの位置が調整された車なら運転可能ですし、電動くるまイスのような器具も何不自由なく操作できます。手も口も普通のスピードで動かせるため、入試やその他の手続きも問題ありません。
周りの人が補助してくれさえすれば、何ら問題なく生活が可能なのです。
入試当日も、家族や大学スタッフに付き添ってもらう形で移動していたのでしょう。電車やバスなどの交通機関を利用したセンはございません。彼の遅さでは乗降車に半日かかるので。
どうして入学初日にかぎって徒歩で登校していたのかについては定かではありませんが、おそらく校門まで車で送ってもらって「せっかくだから自分の足でキャンパスを歩きたい」なんて言っちゃったんじゃないでしょうか。そうとでも考えないと、自宅から数年かけて歩いてきた可能性すら考慮しないといけなくなりますからね……!
さらに僕は、彼がたとえ乗り物をはく奪されたとしても自由に移動できる方法も、ちゃんと思いついたんですよ。
そう、逆立ちです。
腕は人間と遜色ないスピードで動かせる彼の場合、逆立ちするだけで超スピードアップできます。逆立ちに向いていない体型ではありますが、最悪手で這って進むだけでも、十分足より速くなります。
彼がこの歩き方を実践しなかったのはプライドによるものか、はたまた発想力不足か……。
どちらにしろ、あえて「足」でMUの門をくぐったスラッグの気概は賞賛に値しますし、彼を受け入れたMUの器の大きさも素晴らしいですね。
「猛烈な遅さ」という個性を携え「怖がらせ」の道に進む孤高のモンスター・スラッグ。
彼が歩む人生は、マイクやサリーなんかよりもずっと険しい道のりになるでしょう。しかし、機転と発想を駆使して、じっくりゆっくりと困難を乗り越えていってほしいですね。
スラッグの未来に、幸あれ。
ではお次は、「くしゃみで新聞紙が焼けるあのモンスターって、存在が消防法に引っかからないの!?」でお会いしましょう!
さよなら!
【あわせて読みたい】