第4発表者・田村正資
「なんでこのメンツでトリが僕なんですか?」とボヤきつつも「勝ちに行きます」と宣言する田村氏。独特な発想と場数には定評があるが、いかに……。
僕は新しい漢字を考えるにあたって、よくあるシチュエーションを漢字に落とし込むことでSNSで拡散されることを想定しました。「草」みたいな感覚で端的に意思疎通できるような。
僕が考えてきた漢字はこちらです。
あれ? ちょっとなんか違う。
なんか混ざってるな〜
パッと見「素人」かと思ったけど、「玄人」もいる。
▲何かをひらめいたとむ
もしかして、この漢字の読み、長いですか?
あー、長いですね。ただ、思ってる読み方とは違うかもしれないです。
▲含みのある言い方をする田村
要するに「素人の中に玄人が紛れている」っていう状況ですよね
やはり初見で良い漢字ということを汲み取ってもらえているんじゃないかと。
まず音読みは「キョウジュ」。
▲一同爆笑
そうだと思った!
音読みなんだ。
まさかの2音節。
それで、訓読みは要出典でまだ確かめられてないのですが……
「ちょうしゅうのなかからきゅうにてをあげてはっぴょうしゃをびびらせるときにはっするこえ」です。
「閄」の既視感がすごいある。
だから「人」がにんべんとかじゃないんだ(笑)。
このメンバーならご存知だと思いますが、「コク」と読むアイツをイメージしました。
▲いずれの字義(漢字の意味)も訓読みとして誤解されている
はいはいはい。
「素人の皮をかぶった玄人」と出会うシチュエーションってたくさんあると思うんですよね。
例えば学会に行って自分が発表したとき、明らかに自分よりキャリアがあるだろうみたいな教授が……
「すみません、この分野専門外ですが」「素人質問で恐縮ですが」みたいに質問してくる。
インターネットでよく聞く話だ。
素人の皮をかぶった玄人が虎視眈々とこちらを狙っているというね。そういう状況に出会ったときに、Twitterとかで「この前の学会、まじキョウジュだったんだけど〜」みたいに使ってほしい。
▲「草」みたいな感覚でコレを使うことでこういうやりとりができる
というバズ狙いでね。
この状況は実際に経験したことがあるんですか?
経験したという意味では、やられたこともやったこともある。
▲やったことあるんかい
それまじキョウジュじゃん。
キョウジュやな〜
誤解がないように補足すると、学会には「発表者へのリスペクトをもって質問する」という文化があるんです。
「発表者が一番その分野に詳しい」という前提があるので、質問者は「自分はまだ見識が浅いのですが」という低い姿勢で訊くのが自然な振る舞いとなっています。
なるほどリスペクトの言葉だったんですね。
だけれども、それが結果として煽りっぽく聞こえるときはある。
そこなのよ。
たとえば、僕みたいな大学院生ではなく、ガチの教授がやったりすると……
お? 学会発表始まったな!というテンションにはなる。
これからの大学院生活が一気に不安になりました。
訓読みはちょっと、要出典ですね。訓読みなのか字義(漢字の意味)なのか。
そこ大事ですね。
議論の余地があります。「ものかげから〜」もそうであるように。
もし適切なソースが見つかったら、読み最長の漢字になるんじゃないかな。
ソースて。これのソースって、何?
用例がいっぱいあったらOKってことね。
まず訓読みに対する誠実さが素晴らしかったです。
訓読みと字義の境界ってかなり曖昧で区別が難しいんですよね。基本的に用例がたくさんあれば訓読みとして認められるんですが、そこに言及しているのが良かったと思います。
きちんとは分けられないからね。
『大漢和辞典』で「閄」をひいても「急にとびだして〜」が最初に太字で書いてあるんですけど、実は訓読みとは一言も言ってないんですよ。
そもそも訓読みとして載せてないんだっけ。
そうそう、そもそも凡例に「訓読み」「字訓(漢字の日本語としての読み)」という言葉は一切出てこない。
「キョウ-ジュ」と音読みが2音節なのは珍しいですね。2音節の(音)読みをもつ漢字は歴史的になくはないんですけど、中国では廃れちゃったんですよ。
へー
「国字の音読み」の定義によるかもしれませんが、「きょうじゅ」は訓読みがよかったかもしれないです。漢語を(訓)読みとしてもつ国字はいくつかあるので。
「圕(としょかん)」とかはありますけど。
そうそう。でもアレを作ったのは中国の人です。
え、そうなの!
約100年前に杜定友って人が作った漢字です。
それ即答できるのやば……。
あと「バズりやすい」という視点もよくて、「ものかげから〜」もただ1人が辞書ひらいて誤解しただけじゃなくて「読みが長いぞ!」というキャッチーさでSNSで広まったと思うんです。
それに加えて「素人質問で恐縮ですが〜」ってネタも定番なので相性がいいですね。
なんなら「ものかげから〜」よりも「素人質問で恐縮ですが〜」のほうが絶対バズるポテンシャルあるじゃないですか。
まあたしかに(笑)
あと「文字コードが大事」という話をしたんですけど、個人が作った漢字でも文字コードが振られる例があって。
例えば、宮沢賢治が作った「鏡×4」の字とかはUnicodeに登録されています。だから有名になればワンチャン……。
▲宮沢賢治の詩集『春と修羅』に収録された『岩手軽便鉄道の一月』のなかで使われている。
「キョウジュ」を使った有名な小説とかを田村さんが書けば……!
そう、それでUnicode追加の提案をすれば使えるようになるかもしれないです。
あるいは、いったん「素人」で代用していただくってのもアリだね。
IDS表記を使ってもらうのもアリですね。スペース使っちゃうけど。
IDS:要素と位置関係で漢字を表す記法。詳しくはこちらの動画。
鹿野による運命の総評
4つのオリジナル漢字が出揃いました。ズバリ、鹿野さんに本日の最優秀漢字をお伺いしたいと思います。
難しいですね……。正直、何かの評価軸で見ればみんな何かしら1位に食い込んでます。
そのうえで、「みんなが今日から使いたくなる漢字」ということなので……
田村さん!
やはり「広まりやすい」という観点に重きを置くと1位でした。
理由としては、実は最近作られた漢字が広まったという例はあまりなくて、そう考えると読み方が長いとか突飛な漢字がやはり広まりやすいかなと。
いやー、たいへん身に余る光栄をいただきました。
バズを狙いにいった結果、学会の経験値と奇跡の発見が功を奏してよかったです。
「今日から使える」を利便性と捉えるとしたら、とむさんが1位でした。山本さんと長野さんの漢字も位相文字としてクイズ界隈で生き残ったり広まったりする可能性も十分にあると思います。
まずは小さいコミュニティでね、コツコツと。それにしても講評が的確で……
……(鹿野が)こんな漢字に詳しくなっちゃって、という感慨深さがありました。
鬼胎を抱いていたんですけど、期待通りのことができてよかったです。
いやー! 漢字の楽しさをいっぱい知ることができてよかったです。みんなが全然違う漢字の作り方をしてるってことは、まだまだ知らない漢字の良さがあるってことだと思います!
いい意見ももらえたし、自分で作るのもみんなの切り口を聞くのも楽しかったし
みんなで流行らせましょう!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ささやかな特典として、4人のオリジナル漢字の素材を差し上げます。「何という?」で終わるクイズを出したり、サブスクの話をしたり、良い「押し」をしたり、学会に行ったりしたときはぜひお使いください。そして、皆様が考えた「新しい漢字」もお待ちしています!
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撮影:めーあ
編集:野口みな子
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