コジマです。
『名探偵コナン』の主人公・江戸川コナンは、正体を悟られることなく事件を解決に導くため、探偵の毛利小五郎を腕時計型の麻酔銃で眠らせ、蝶ネクタイ型変声機で小五郎の声に変えて推理を披露する。
小五郎のおっちゃんは毎度のごとく麻酔銃を首に受け、フラフラと眠りにつく。幾度となく見てきたシーンだが、よく考えると小五郎が心配になる。麻酔で眠ること自体身体に悪いだろうし、そもそも首に勢い良く針が刺さるのだ。
そこで、今回は今一度この麻酔銃に目を向けてみたいと思う。おっちゃんの身は大丈夫か?
腕時計型麻酔銃とは
コナンの持つ腕時計型麻酔銃は、麻酔針を命中させれば数秒で相手を眠らせることができる。ひと通り推理を披露してもしばらく眠っている描写があるから、麻酔が持続する時間は1~2時間だろう。
また、手術のときに打つ麻酔と異なり、静脈に確実に流し込むことができるとは限らないから、筋肉注射でも効力をもつ麻酔薬でなければならない。
現実では、麻酔銃は動物の捕獲用に使われることが多く(というか多分それだけ)、ケタミン(※)という麻酔薬がよく用いられる。
(※)ケタミンは麻薬として認定されており、取扱には免許や手続きが要る。もちろん事件の度にペチペチ撃つことはできない。
ケタミンはコナンの麻酔銃に使えるだろうか。撃てば即座に眠る点はよいが、手術用なので麻酔としての効力が強すぎ、持続時間も短い(手術の際は継続的に薬剤を投与し続けなければいけない)。また、呼吸を抑制する副作用のため、座って俯いた姿勢(いわゆる「眠りの小五郎」のポーズ)だと危険だ。
また、筋肉注射に必要な薬剤の体積は、人間に用いるなら50mL。だいたい市販の目薬4本分だ。 この量だと針に塗ったくらいでは足りないだろうから、注射器ごと飛ばす必要がありそうだ。腕時計に収めるには阿笠博士の手腕が問われる。
ちなみに、ケタミンは副作用が激しく、乱用すると依存性があるとの報告もある。う〜ん……。
適切な麻酔薬とは
このように、動物向けの麻酔銃を流用するのはあまり望ましくない。他の方法はないだろうか。
思うに、用いるべきは麻酔薬ではなく睡眠導入剤ではなかろうか。即効性では劣っても、一度刺せばしばらく眠ってくれるという特徴は、コナンの需要に合致する。
マイスリー(一般名:ゾルピデム)やハルシオン(一般名:トリアゾラム)といった超短時間型の睡眠薬であれば、投与から約1時間をピークに、2~4時間で効果が切れる。
ただし、これらの薬は副作用として健忘(記憶がなくなる)などが起きうる。小五郎がますます迷探偵に……。
何よりの問題は、睡眠導入剤は多くが口から摂取するタイプの薬であること。このままでは麻酔銃としては使えないので、度重なる臨床実験を行い筋肉注射で効く薬を開発する必要がある。阿笠博士、頑張ったんだろうなあ。
麻酔銃の中身:まとめ
まとめると、麻酔銃に用いられる薬は次の2説のいずれかだと思われる。
- 麻酔薬説
- (利点)即効性がある
- (問題点)効果が強すぎる、推理中に目覚めてしまう可能性がある、銃で撃つには量が多い
- 睡眠薬説
- (利点)程よく眠らせられる、推理中は眠っていてくれる
- (問題点)注射薬でない
また、銃の威力や針の構造はどうなっているのか。針を首に受けるおっちゃんが衝撃を受けている様子はないから、針はそれなりに軽いのだろう。細い針があの勢いで飛んだら結構深くまで刺さりそうだけど、首に撃って大丈夫コナンくん?
脳へのダメージは?
小五郎、脳震盪説
と、ここでまた一つ、新たな仮説が誕生する。
小五郎、麻酔が打ち込まれる衝撃で脳震盪(のうしんとう)になっているのでは?
速攻で眠る(というか気絶する)し、麻酔の量も問題ではない。額を狙った時はもちろん、首筋を狙ったときでも、首が動いて脳が揺れれば大丈夫だ(大丈夫ではない)。
どれくらいの力がかかれば脳震盪になるのか、というのは人によってまちまちだが、首の筋肉が弱いと脳が揺れて脳震盪になりやすくなる。
青山剛昌先生曰く「麻酔銃の針は地球にやさしい素材で作られていて、後から消える」とのことだったので、素材自体の重さや硬さは期待できない。この点は射出スピードでなんとかするしかないだろう。麻酔と同じスケールだとして、50gの物体なら行けそうな気もする。
と、力学的な難しさはあるものの、小五郎が置かれている状態を説明するには良いフィット感のように思う。麻酔ですらないけど。
しかし、この方法にも問題点がある。継続使用すると、実は薬よりも小五郎へのダメージは大きいのだ。
脳震盪のダメージ
たとえば、日本ラグビーフットボール協会では、一度競技中に脳震盪になった選手は3週間競技に復帰してはならないとされている。これは、短期間で複数回脳震盪になると、セカンドインパクト症候群と呼ばれる、深刻な後遺症が残る可能性が高い状態になるからだ。
コナンくんは未だに進級していないので、今までの事件は全て365日以内に起きているとされる。現在漫画『名探偵コナン』は1000話を超えており、かなり低めに見積もって10話に1回眠らされているとしても、小五郎が安全に脳震盪を起こしている(?)としたら最低300週間、つまり約6年必要になる。
逆に言えば、話のペースから考えると小五郎は最低でも4日に1回は脳震盪になっているのだ。もうやめて!
脳震盪説:まとめ
- 脳震盪説
- (利点)即効性があり、程よく眠らせられる
- (問題点)強い外的な力が必要、小五郎のボディがもたない
たとえ麻酔薬であったとしても5日に1回はけっこうヤバいと思うが、脳震盪のダメージはよりダイレクトで深刻だ。首を鍛えていないことが大前提なのに、脳震盪のセカンドインパクトに耐えるというのはかなり無茶があった。ふつうならもう廃人である。
軽い針に薬剤を仕込み、高速で射出して、ターゲットに当たれば特製の薬剤を流し込む……という、阿笠博士製の超テクノロジーの賜物が、この腕時計型麻酔銃ということか。
真実はいつもひとつだが、それを見つけ出すのは難しいのだ。