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株式会社JERA

♪僕が総理大臣になったら

 日本国民一人ひとりから

 一円ずつだけもらって君と

 一億円の結婚式しよう

RADWIMPSの人気曲『マニフェスト』の歌い出しだ。もし「僕」が総理大臣になったら大好きな「君」のためにしてあげたいことを思いっきり詰め込んだ、とっても素敵なラブソングである。

歌詞を見ると、「一日を25時間にして~」やら「君の誕生日を祝日にしよう」やら、いくら総理大臣といえどもたぶん実現不可能な無茶を言いまくっている。とはいえ、序盤に出てくるこれくらいだったら意外と現実的じゃないだろうか?

君の家まで電車走らせよう

 終点は僕の家までにしよう

溢れるほどの愛の姿として格好いいなぁと思うし、自分の家の近くに駅があると普通に便利だ。それに「終点は僕の家」ということは、反対方向に向かう列車の始発駅になるから朝のラッシュでもたぶん座れるだろう。

▲始発駅なら座り放題

デートの帰り道にあの人と少しでも長く一緒にいたいあなたも、日々の通勤・通学をちょっと楽にしたいあなたも。権力と財力とコネがそこそこ濫用できると仮定して、「君の家経由、僕の家行き」の電車の走らせ方を本気で考えようじゃないか

「マニフェスト」を確認しよう

まず、今回の「公約」をきちんと言葉にしておこう。

「君の家まで電車走らせよう 終点は僕の家までにしよう」というのは、「君の家のすぐ近くの駅を経由して、僕の家のすぐ近くの駅が終着となる列車を運行させる」と解釈できる。始発駅は明示されていないので、ここではいったん都内のターミナル駅を起点とし、君と僕の家がだいたい同じ方向にあるとして考えてみよう。

▲「君僕線」とでも名付けよう

近所に線路がある場合

さて、「君」と「僕」の家の近くに、既に線路が通っている場合はラッキーだ。

ステップ1:駅を作ろう

「駅を作る」というのは基本的には鉄道会社の仕事なのだが、自治体などのリクエストによって新たな駅ができるケースも結構ある。ちょっとおもしろいのは2020年に東武鉄道東上線に開業した「みなみ寄居駅(埼玉県)」で、駅のすぐ近くに工場を構える本田技研工業(自動車メーカーのホンダ)が整備費用を全て拠出している。

▲副駅名はずばり<ホンダ寄居前>

もともと、ホンダの工場の従業員数が増えることが予想されていたが、皆がマイカーで通勤すると付近の道路でひどい渋滞が発生してしまう。そこで工場の近くを通る路線に新たな駅を設置することで、鉄道による通勤にシフトすることにした。自動車メーカーが鉄道をうまく活用した好例である。

というわけで、整備費用などのめどが立てば、鉄道会社に頼んで新しい駅を設置してもらうのも決して不可能ではない(といいなぁ)。

ちなみに、新駅の設置にかかるコストは駅の規模によってピンキリだ。たとえば、現在計画が進んでいる阪急電鉄神戸線の「武庫川新駅(仮称)」の整備費用はおよそ86億円とお高めだが、昨年(2025年)春に鹿児島市に開業した「仙巌園せんがんえん駅」の整備費用はおよそ4億円とリーズナブルである。これだって決して安い金額ではないけれど、総理のカリスマ性や人脈を活かして新駅設置の住民運動を主導すれば可能性は十分にあるだろう。どちらかというと、総理を辞めて市長や市議会議員になった方が夢の実現に近づくような気もするけど。

▲できたばかりの仙巌園駅

ステップ2:需要を作り出そう

さて、それが社会にとって望ましいかどうかは別として、「僕」と「君」の家の近くにうまく新駅を作れたとしよう。公約実現のためには、「僕駅」(と呼ぶことにする)が終着になる列車を鉄道会社に運行してもらう必要がある。

♪君の家まで電車走らせよう 終点は僕の家までにしよう

そのためには、総理になるまでに培ったコネなんかを思いっきり濫用して、テーマパークなど大きな需要がある施設を駅の近くに誘致すると良いだろう。そうすると、都心のターミナル駅とテーマパークの最寄り駅をシャトルするような列車が設定されるだろうから、結果的に「僕駅」行きの列車が実現するはずだ。

▲「僕駅」の近くにテーマパークを誘致しよう

わざわざ鉄道の需要を作り出すために施設を作るというとちょっと不思議な感じがするが、沿線の観光地の開発に力を入れることで鉄道の利用者数を増やすのは、各地の私鉄が長らく行ってきた施策でもある(小田急の箱根、近鉄の伊勢志摩など)。

ちなみに、(大雑把に言うと)関西の大手私鉄・阪急電鉄が宝塚歌劇団の設立に携わったのも同じ理屈である。宝塚市にある専用劇場に通うお客様の多くは行き帰りに阪急の電車を利用してくれるはずだ、なんて狙いがあったんだとか。

▲宝塚歌劇団の大劇場。すぐ隣を阪急電鉄の線路が通っている

さらに理想を言えば、「君駅」の近くにも似たような旅客需要を作り出したい

今回の目標は、「都心のターミナル駅発、君駅経由、僕駅行き」の列車を走らせることだ。もし「ターミナル-僕」間のみならず、「ターミナル-君」間や「君-僕」の間にも人々が行き来する需要を作り出すことができたら、鉄道会社もこの3つの駅に停車する列車を運行してくれるはずだ。字面だけ見ると三角関係みたいになっているが気にしないでいただきたい。

たとえば、「君駅」と「僕駅」を巡る超・大人気の謎解きイベント(いわゆる「周遊謎」)を1年中実施できれば、大きな移動需要を1から作り出せそうだ。あるいは、「君駅」と「僕駅」のあたりが舞台となる自作のアニメや映画などを大ヒットさせれば、アニメなどのファンによる「聖地巡礼」の需要を作り出せるはずだ

政治家としての権力を好き勝手に使ってよければ(良い子はマネしないでね!)、国策として移動需要を作り出すことも可能だろう。例えば、大きな博覧会などのイベントを日本に誘致して、「君駅」と「僕駅」の近くにそれぞれ会場を作ってみるのはどうだろう? 1日で2会場を回れる割引チケットを販売すれば、この2駅を行き来する人々の大きな需要ができるはずだ。

最終手段:「物言う株主」作戦

もしこれらのメソッドがうまくいかなかったときの最終手段として、鉄道会社の株式を買いまくり、ダイヤの策定に介入するという方法がある。現在のJR東日本やJR東海の時価総額はおよそ4兆5000億円、大手私鉄各社は5000億円から1兆円くらい。完全に買収するのは難しくとも、発行済み株式の20%くらいを握れば大株主として経営陣に(不当な)圧力をかけられそうだ。「僕駅」行きの列車を走らせるくらいの要求なら、なんとか押し通せるのでは?

▲こんな株主は嫌だ

一応書いておくが、こんな無茶を平気でするような「私」のことを「君」が気に入ってくれるかは全く別の議論である。一途な愛の表れと見るか、それともシンプルに自分勝手な奴とみなされるか。

ここまでしても無理だったらたぶん、どうしようもあるまい。幸い、多くの鉄道会社はきちんと頼めば貸切列車の運行を受け付けてくれるだろうから、デートの日だけ特別に列車を運行してもらえば良いんじゃないかなぁ。

1から線路を引く場合

さて、ここまでは「君」と「僕」の家の近くを通る線路が通っているラッキーなケースを考えてきた。ここからは、他の鉄道会社が敷いたレールなんかに頼ることなく、線路を自分で1から用意する場合について考えていこうと思う。

次ページ:「君僕線」自力で全部つくるには何億円かかる?

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この記事を書いた人

富取 新太

大阪大学在学中。夜行列車と海峡と古書店が好きです。

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