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「他人の敷いたレールの上を行く」という言い回しがある。

せっかくの一度きりしかない(たぶん)人生なのだから、自分だけの道を選んで生きてゆきたいと多くの人が願うもの。だから、「他人のレール」なんて言葉にはちょっとネガティブなイメージが伴いがちだ。

他人の敷いたレールの上を行く(概念)

しかし、世の中には文字通り「他人の敷いたレールの上を行く」鉄道会社がある。そしてどのケースにおいても、その会社ならではの大切な事情があるのだ。

鉄道会社は3種類ある

そもそも日本における鉄道事業は、大きく第一種から第三種までの3つに分けられている。そのうち「他人の敷いたレールの上を行く」のは、第二種鉄道事業者と呼ばれる会社だ。

他人のレールの上を走る会社は「第二種」

※第三種鉄道事業者には、「第一種」の会社に譲渡するための線路を敷く事業も含まれる。

若干説明を端折っているところもあるので、ものすごく興味のある方向けに鉄道事業法の条文を載せておく(もちろん読み飛ばしていただいてもOK!)。3→2→4の順番に読むとわかりやすいはずだ。

第二条 
2 この法律において「第一種鉄道事業」とは、他人の需要に応じ、鉄道(軌道法(大正十年法律第七十六号)による軌道及び同法が準用される軌道に準ずべきものを除く。以下同じ。)による旅客又は貨物の運送を行う事業であつて、第二種鉄道事業以外のものをいう。
3 この法律において「第二種鉄道事業」とは、他人の需要に応じ、自らが敷設する鉄道線路(他人が敷設した鉄道線路であつて譲渡を受けたものを含む。)以外の鉄道線路を使用して鉄道による旅客又は貨物の運送を行う事業をいう。
4 この法律において「第三種鉄道事業」とは、鉄道線路を第一種鉄道事業を経営する者に譲渡する目的をもつて敷設する事業及び鉄道線路を敷設して当該鉄道線路を第二種鉄道事業を経営する者に専ら使用させる事業をいう。

鉄道事業法(一部抜粋)

「他人のレール」を行く それぞれの事情

そんな「他人の敷いたレールの上を行く」鉄道会社、探してみると意外とたくさんあったりする。

ケース①:全国を走る貨物列車

いちばんわかりやすいのが、北海道から九州まで貨物列車を運行しているJR貨物という会社だ。

私たちが普段利用するJRは、東日本・東海・西日本などエリア別に分かれているけれど、貨物列車については1社にまとめられている。JR貨物が自社で保有している路線はほとんどないため、多くの区間ではJR貨物が第二種鉄道事業者となり、他のJRなどから線路を借りて貨物列車を走らせている。

北海道のとある小さな駅にて(どの路線の何駅かわかったあなたは相当の鉄道マニア!)。貨物列車とローカル列車が同じ線路の上を走っている(筆者撮影)

一方で、他の会社から線路を借りて列車を運行しているからこその問題もあったりする。

たとえば、北海道を走る函館本線という路線の一部区間(長万部駅-新函館北斗駅)は、並行する北海道新幹線の開業に伴っての廃線が検討されている。しかし、この区間は北海道と本州を結ぶ貨物列車が数多く走る大動脈でもあって、もし完全に廃止されてしまうと我が国の重要な物流ルートがひとつなくなってしまうのだ。そのため、せめて貨物列車専用の路線としてでも残せないかという検討が進められている(2025年現在)。

ケース②:地域住民の足となっているローカル線

鉄道の事業を営む難しさのひとつに、駅や線路などのメンテナンスを自社で行わねばならないという点がある。例えばバス会社は国や自治体が整備した道路を基本的にはタダで利用できるし、航空会社や海運企業が空や海の使用料(?)を支払うなんてことはまずないのだが、鉄道会社は自力で線路などの整備・維持をしなければならない。このコストが、ローカル線などを運行する事業者にとっては大きな負担となっている。

そこで、「列車の実際の運行(上部)」と「線路などのメンテナンス(下部)」を別々の事業者が担う「上下分離」というスキームが近年導入されている。すなわち、沿線の自治体などが第三種鉄道事業者(貸し出す側)として鉄道インフラを保有し、既存の鉄道会社は第二種鉄道事業者(借りる側)として列車の運行に専念するのだ。もちろん、自治体による費用の負担が必要になるから、幅広い市民の同意が欠かせないことは間違いない。

余談ながら、上下分離とよく似た取り組みのひとつに「みなし上下分離」というものがある。これは、鉄道インフラなどは鉄道会社がこれまで通り保有しつつ、自治体がメンテナンスのための補助金を出すなどしてローカル線を維持してゆくスキームだ。

▲三重県の四日市あすなろう鉄道は、全国的にも珍しい線路幅762mmのミニ鉄道。線路などは自治体が保有している

ケース③:ライバル会社の競演

JR西日本と南海電鉄は、大阪府から和歌山県にかけてのエリアで乗客を奪い合うライバル関係にある。そんな2社の列車が、全く同じ線路の上を仲良く(?)走っている区間が1カ所だけある。海の上に建設された関西国際空港にアクセスするための、海上橋の区間(りんくうタウン駅-関西空港駅)だ。

▲関西空港線。左下のあたりを走る白い列車はJRの特急「はるか」だ
▲関西空港駅。手前が南海、奥がJRの車両

JRと南海の線路の幅は同じであるから、わざわざ鉄道橋を2つ建設するのはもったいない。そこで、空港の運営企業が第三種鉄道事業者として共用の線路を保有し、JRと南海がそれぞれ第二種鉄道事業者として列車を運行しているのだ。

激しい競争を繰り広げてきたライバルが、終着駅付近では同じ線路の上を走る……。考えようによっては、ちょっと胸アツなシーンなのかもしれない。アニメ『きかんしゃトーマス』だったら神回になること間違いなしだ。

次ページ:あの新幹線も「他人のレール」の上を走っていた!

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この記事を書いた人

富取 新太

大阪大学在学中。夜行列車と海峡と古書店が好きです。

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