政治家たち、線路を引く
「君僕線」を1から敷設する計画については、「僕」が生まれる時代がちょっと遅すぎたかもしれない。
明治から昭和にかけて鉄道が全国に延びていったころには、地元の大政治家の尽力によって鉄道が建設される、なんてケースがよくあった。たとえば関東地方と新潟県を結ぶ上越新幹線の建設にあたっては、新潟県生まれの田中角栄の意向が強く働いたとされている。
ちょっとユニークなのは東北地方を走る「大船渡線」で、地図を見ると路線が途中で北に謎の迂回をしている。大正時代、地元の政治家たちが鉄道のルート案に口出しをしまくった結果、路線がぐにゃぐにゃになったらしい。
こうした政治家による介入は、四字熟語の「我田引水」に準えて「我田引鉄」なんて呼ばれて批判されることもあった。とはいえ、地元に交通インフラがきちんと整備されるよう働きかけるのは政治家の役目であって、一概に良くないとも言えないのが難しいところだ(エゴ100%の「君僕線」はともかくとして)。
そんなわけで、時代によっては総理の権力を使って「君僕線」を建設させることができたかもしれないが、鉄道網がだいぶ整備された現代ではなかなか難しいはずだ。どちらかというと、赤字続きのローカル線を地域社会とともにどうやって維持してゆくかが、令和の政治家の腕の見せ所だろう。
「君僕線」建設プロジェクト
ということで、ここからは改めて自力で線路を引くことを考えよう。「君僕線」の総延長(ターミナル駅から君駅経由、僕駅まで)は、いったん短めに10kmくらいだと仮定する。

近年の鉄道路線の整備費用をもとに、「君僕線」のコストを大雑把に計算してみよう。建設費用は条件によって大幅に異なるので、あくまで参考程度にお考えいただきたい。
いろいろ調べてみると、茨城県の「ひたちなか海浜鉄道」が路線の延伸を計画していて、こちらは1.4kmの先行開業にかかる事業費がおよそ59億円なんだそうだ。この数字をものすごく単純に当てはめると、10kmの線路を敷くのにかかるコストは420億円。こちらは単線非電化のローカル線なので、建設費用も比較的リーズナブルだ。とはいえ総理の年収がだいたい4000万円くらいなので、「君僕線」を自腹で建設しようと思ったら総理の重責を1000年は担わなければならない。わが国の憲政史、いや世界史にも間違いなく名を残せそうだ。
おまけに、今から新たに線路を引くスペースが地上にあるとは限らない。「君僕線」を市街地に建設する場合は、コストをかけてでも地下に線路を建設しなければならないだろう。たとえば、2023年に博多駅まで延伸開業した福岡市営地下鉄七隈線の建設費は、1.4kmでおよそ587億円である。単純計算すると、10kmあたり4193億円! 流石に高すぎである。

もっとも、七隈線は市民の足になるための立派な地下鉄だから、「君と僕との専用地下鉄」だと割り切って工事をすれば建設費はもっと削減できそうである。駅は「ターミナル駅」と「君駅」と「僕駅」の3つのみ、線路も単線のトンネル1本だけにして、1両編成の小さな車両が往復するだけのミニ路線にしてしまおう。仮に半額で作れたとして、「君僕線」の整備費用は2000億円くらい。これならまだ現実的……なのかなぁ?
君の家までゴンドラ走らせよう
それにしても2000億円はちょっと高すぎる。「君僕線」のコスト、なんとかしてもう少し抑えられないだろうか?
いろいろ考えたのだが、都市型ロープウェイを導入するのが一案だと思う。
ロープウェイというと観光地の乗り物というイメージがあるかもしれないが、海外では市街地の交通手段として活用されているケースもある。たとえば南米ボリビアの首都・ラパスでは、街中にロープウェイ路線のネットワークが張り巡られている。地上に線路を敷く場合と比べると少ない土地があれば建設でき、また急な勾配にも簡単に対応できるといったメリットがあるようだ。

日本における都市型ロープウェイの事例としては、横浜のみなとみらい地区へとアクセスする「YOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマ・エア・キャビン)」という路線がある。
▲QuizKnockの動画でもメンバーが乗車していたので、ご存じの方もいるだろう
こちらのロープウェイは2駅間で630m、駅を含めた全体の整備費用はおよそ80億円と結構お高めだが、ケーブルと支柱さえ増やせば路線を比較的簡単に伸ばせるので、全長10kmのロープウェイを建設しても費用はそんなに高額にはならないはずである(たぶん)。トンネルの中を走る地下鉄とは異なり、ロープウェイであればゴンドラの中から街を見下ろしながらの空中散歩を楽しめることだろう。
ちなみに、宮城県の富谷市では、お隣の仙台市との間に都市型ロープウェイを建設する話が持ち上がっているそうだ。導入が目指されているのはZipparという新しいスタイルのロープウェイで、気になるお値段は3.5kmのルートで100億円(土地代を含まないそう)と比較的お手ごろである。
そんなわけで、「君僕ロープウェイ」も300億円くらいあれば作れるはずだ。財力があればポケットマネーで建設してもいいし、自治体の長としてロープウェイの導入を主導するのも一案であろう。
稲城市が新交通システム「Zippar」の導入検討で連携協定を締結しました。稲城市内の主要駅やよみうりランド周辺エリアを結ぶ次世代交通システムです→https://t.co/LRz6cujunR pic.twitter.com/JS9PaWnwoB
— 多摩ポン【公式】 (@tamapon2016) January 20, 2026
最大の懸念は、ロープウェイを「電車」と呼べるかどうかである。ロープウェイが「鉄道」に含まれるかはちょっと微妙なのだけど、どうやらZipparのゴンドラの上部にはモーター付きの台車が付いていて、ロープにぶら下がったまま自力で進むことができるらしい。これはもの凄く広い意味で「電車」であると言っていいのではないでしょうか……!
という言い訳でマニアの皆様はどうか許してください! これ以上は思いつかなかったんだ。
まとめ
ということで、「君の家まで電車を走らせる」にはロープウェイの建設をおすすめします! 決して安い金額ではないのだけど、日本国民一人ひとりから300円ずつくらい貰えばなんとかなるんじゃないでしょうか。何かの参考になれば幸いです。
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【画像出典(画像を一部加工しています)】
みなみ寄居駅:Kaze315 CC BY-SA 4.0
宝塚大劇場:DVMG CC BY 3.0
七隈線:paddynapper CC BY-SA 4.0
ラパスのロープウェイ:Adelina Herbas CC BY-SA 4.0











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