連載「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」
音楽好きの伊沢拓司が、さまざまな楽曲の「ある一部分」に着目してあれこれ言うエッセイ。倍速視聴が浸透しているいま、あえて“ゆっくり”考察と妄想を広げていきます。
小中高と男子校で過ごしたものだから、大学入学当初、女子と行くカラオケで何を歌えばいいかで長らく悩んだ。
高校生のころはLUNA SEAか聖飢魔II、興が乗ったら『肉体関係part2 逆featuring クレイジーケンバンド』を流麗に歌い上げたものだが、そのままではダメなことは流石に分かっていた。
大学入学後、私は「見」に回り、様々なことを学んだ。
アジカンかBUMPあたりが無難なこと。LINKIN PARKは上手くても引かれること。みんなが疲れたら『Butter-fly』で回復できること。そして、ほとんどの女の子が『気まぐれロマンティック』を歌えることだ。
多くの男子共を蝋人形にしてきた自分にとって、この曲はあまりにも縁遠かった。可愛らしい雰囲気と覚えやすいダンス、何故か踊れるクラスメイトたちに面食らったものだ。
大学デビューとは、『気まぐれロマンティック』を踊れることと見つけたり。
コンタクトの着脱に慣れてきた頃には、私もサビを待ち構えて踊れるようになっていた。
ロマンティックに染まりきれない伊沢拓司
しかし、ダンスは上手く踊れても、心までごまかすことは出来ない。
みんなとぴょこぴょこ踊る中、自分の心を捉えて離さない一節があった。
ダーリン ダーリン 心の扉を 壊してよ
いきものがかり『気まぐれロマンティック』(作詞:水野良樹)
ん? やけに物騒なことを言ってはいないか?
扉をわざわざ「壊し」ているのである。
▲後から怒られないだろうか
そもそもここ、私はよく歌い間違っていた。2番の「心の扉を叩いてよ」とクロスしてしまうのだ。
自分を閉じ込める見栄と乙女心から解き放たれたい、という趣旨であろうが、ほかがキュートなだけに「叩く」くらいの強度がマッチしてるように思える。
なんてったって、人は普通、扉を壊さない。
扉というものはたいてい、ノブだったり引き手がついており、意図を持って鍵をかけない限りは平和裏に開くものだ。つまり、壊すとなるとそれは大概「何者かに閉じ込められた」時である。
▲ならば話が変わってくる
けしからんではないか。逮捕・監禁罪の法定刑は3月以上7年以内の懲役である。
心の話とはいえ、何者かによって閉じ込められた主人公は「飽き飽き」するほどの時間、極限状態だ。なんならリアルな監禁によって心まで縛られた可能性もある。
「知らない台詞で解き放して」と言うくらいだから、犯行現場は日本の法治から離れた外国かもしれない。この曲がメッセージであるならば、一刻も早く助けに行くべきだ。
そんな行為をはたらいている、犯人は誰か?
歌詞の中の状況証拠から、私はあるひとりの人物にたどり着いた。
それは、フランス王・フィリップ4世である。