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たぶん、「何か」と星を間違えたのでは?

空で星に間違えそうになるものは、意外とたくさんある。

飛行機や人工衛星、国際宇宙ステーションなどがそうだ。

飛行機については、多くの人が夜空でみかけているだろう。いくつかのまとまった光が、一部点滅しながら移動している、あれが飛行機だ。

何種類もの混ざった光は、それぞれに用途が異なる。右の翼には緑色、左の翼には赤色の「航空灯」、天井部分には赤く点滅する「衝突防止灯」……といった具合だ。

▲進行方向に対し右翼には緑、左翼には赤の航空灯がつけられている

ゆえに、夜空で固まったカラフルな点たちが一定速度で移動していたら、それは飛行機である。これはだいぶ星と見分けやすい。

一段レベルが上がるのが、国際宇宙ステーションだ。一等星より明るい光点が、点滅せずまっすぐに空を横切る。とても美しい速度で、空を割っていくその雄大な姿は必見である。

▲国際宇宙ステーションの軌跡

人工衛星もまた、地球から肉眼で確認できる。自ら明滅しない人工衛星だが、明け方や夕暮れの太陽が出ていない数時間に、人工衛星自体が太陽の光を反射して輝くことがある。

SpaceX社によるStarlink衛星打ち上げにより、ここ1年はずっと見頃を迎えていると言えるだろう。そもそも国際宇宙ステーションも人工衛星ではあるので、原理は同じだ。一定速度で動く光点である。点滅はしていないものの、しばらく見ていれば星とは異なるとわかるだろう。

結局のところ、空に浮かぶ人工物のほとんどは動いて見えているのだ。ここが、星とは明確な違いであろう。

もちろん、動く星もある。流れ星だ。

しかし、流れ星が見える時間は非常に短く、常に見えている人工衛星とは見え方が異なる。知識さえあれば誤認することはないのだ。

結局は、「知識さえあれば」に落ち着いてしまう。それすなわち、「知識がなければ」わからないということだ。「あれって星かな? 飛行機かな?」という疑問を抱いた事自体は、多くの人にあるはずだ。

だから、これでいいのだ。「それが星だって教えてくれた」のは、「星なのか、人工物なのか」がわからなかったからなのである。永遠に続くように思える星と、儚く散っていく人工物。美しい対比じゃないか! 見分けがつくといっても、完璧なんて存在しない。知らなかったわけじゃない、確認したかっただけなのだ!!!

……ただ、確認はしてほしかった。一言欲しかったのだ。

「見つめていた」と言われてしまうと、「黙ってみてたのかな……」となってしまう。黙ってみている人に「それは星だ」って教えるの、人工衛星との区別を前提としてたらだいぶ高度なコミュニケーションですよね……。ちょっとさすがにそれは誰かに繋ぐ魔法すぎる。

やはり文章を辿っていくだけでは、正解にたどり着けなさそうだ。もう少し妥当な線を、歌詞の外から探してみよう。

やっぱり「星」を知らなかったのでは?

そもそも、星を見たことがない、ということは、理論上は実現可能である。

簡単な話だ。つねに昼を移動し続ければよいのだから。世界には常に昼が存在するのだから。

とはいえ、実現はなかなかにハードルが高い。高速で移動し、絶えず夜から逃げる必要がある。

赤道上を飛ぶのであれば、時速約1700kmで飛行しないと昼をキープできない。音速超えである。燃料補給も大変だ。

しかしご安心を。地球は球体である。高緯度地域であれば、もう少し速度を落としてもいい。緯度60度線の長さは赤道の半分。ジェット機の速度である900km/hほどであれば、自転方向を考慮しなければ十分に昼を維持できるだろう

しかも、南極や北極に近い高緯度地域には「白夜」がある。北半球は6月、南半球は12月ごろに夜がなくなるのだ。そしてその前後も昼の時間は長い。

つまり、昼が長い地域に滞在し、飛行機でグルグルと夜から逃げ続け、時折降りて燃料補給すれば、理論上「夜を知らない」ことは成立しうる。踊っていようがなかろうがそもそも「夜」そのものを知らないのだ。ヒルループである。

確かに、「記憶を辿るたび 蘇るよ 君がいつだってそこに居てくれること」って、だいたい飛行機だからそりゃそうだろう。「肩並べる」のも、機内なら割と簡単だ。映画見るくらいしかやることがないだろうから泣いたり笑ったりもしやすそうである。

▲思ってたのとだいぶ違う

ただ、やっぱり気になるのはお金だ。

東京ニューヨーク間をチャーター便で往復すると、1回で6000万円かかるらしい。それと同じようなことを毎日やるわけで、占めて年間200億円の出費である。約束なんてしなくてもアナタ十分輝いてますよ……。

等身大のラブソングは、富豪には似合わない。もう少し、庶民的なサイズで物事を考えよう。

星、知らざるを得ない

なかなかに「星を知らない」でいることは難しい。人は夜から逃げられないのだ。

ならどうするか。

夜を、そもそも明るくすれば良いのではないだろうか。星が見えないくらいに、夜を感じられないくらいに、明るい夜を作れば良いのだ。

そう、ベテルギウスの力で。

近年、ベテルギウスの寿命は近いのではないかと注目されてきた。赤色超巨星は、最期には超新星爆発を起こし、凄まじい光を放って散る。その明かりは、遠くの宇宙、すなわち地球まで届きうるのだ。

▲超新星爆発の残骸(NASA/ESA/JHU/R.Sankrit & W.Blair)

となると、だ。その強烈な明かりで、「ベテルギウスしか見えない状態」、すなわち「星というものを見たことはないが、光の正体がベテルギウスのものだとは知っている状態」を作ることはできるのではないだろうか。

……というシミュレーションを、した人が、すでにいる。人類ってスゲえ。

東京大学のチームのシミュレーションによると、たしかにベテルギウスが爆発した直後はかなり明るいものの、明るさは満月の100倍。昼間でも見えるくらいには明るいが、周囲の星々を見えなくするくらいではない。しかも、4カ月後にはだいぶ収まってしまうようである。うーん、さすがにそんなもんか。

これでは、しばらくしたら星を知ることになってしまう。ずっと真っ昼間でいいのに。

いやでも、この曲の舞台は地球って決まった訳では無いし、ベテルギウスの近くの星であるならばあるいは……とも思ったが、それだけ近いと超新星爆発のあおりを受けて永遠に存在が消えてしまいそうである。ここまでいくとやりすぎだ。

大変に困った。「星を知らない」なんて、そんなことはこの曲にあってはならない。生まれたてのロボットみたいな「コレ、ホシ……ヌクモリ……」状態ではラブに入り込めないではないか。どうしよう、どうしたらいいんだ。

そんなことにずっと頭を悩ませながら過ごすこと数日。朝起きて、私は突如思いついた。

夜の間、ずっと寝てれば良いのだ。

日本人の睡眠は世界的に見てもかなり足りないと言われている。これくらい模範的な姿勢で、夜を過ごしてみてはいかがだろうか。ほら、星なんて知らなくたって、世界がクリアに見えるはずだ。健康第一。


伊沢拓司の低倍速プレイリスト」は伊沢に余程のことがない限り毎週木曜日に公開します。Twitterのハッシュタグ「#伊沢拓司の低倍速プレイリスト」で感想をお寄せください。次回もお楽しみに。

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この記事を書いた人

伊沢拓司

QuizKnockCEO、発起人/東大経済学部卒、大学院中退。「クイズで知った面白い事」「クイズで出会った面白い人」をもっと広げたい! と思いスタートしました。高校生クイズ2連覇という肩書で、有難いことにテレビ等への出演機会を頂いてます。記事は「丁寧でカルトだが親しめる」が目標です。

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