たくさんの夢よりも、たくさんの人を
めぼしいのはやはり、テーマパークだ。多くの人が自動的に集まってくる。
昨年、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパンが東京ディズニーランド、シーを抜いて日本一の集客を誇るテーマパークとなった。その人数なんと年間1,235万人。8年働いていれば、1億の大台に乗る数字である。
▲ユニバーサル・スタジオ・ジャパン via Wikimedia Commons
そして、USJは入り口がほぼひとつ。ゲートの先で着ぐるみなどを着て待ち構えておけば、視力次第で全員を確認することが可能であろう。いますぐ此花区に駆けろ!
開園日はひたすらにゲート前で人を見定める日々を、来る日も来る日も8年間繰り返す……と、USJの言う「No Limit!」ってそういうことじゃないのだが、さらにもうひとつハードルがある。
リピーターの存在だ。リピート率が高ければ、当然同じ人が来るのでカウントは進められない。「一度でも来た人」を除いて考えるべきなのだ。
仮にリピーターが50%、1,235万人の中の半分が新規顧客だとしよう。毎年毎年600万人程度が新たにUSJデビューを飾るとしても、1億人見るのには16年以上かかる。USJのクルーになれるのは16歳からなので、最低でも32歳までは待つ必要がありそうだ。一般客として毎日通うにしても、義務教育を終えてからじゃないと厳しそうなので大差はない。
実際のリピーターの割合はもっと高いだろうから、現実的には20年を超える大仕事になるだろう。来る日も来る日もララライララライ。いかに苦労して君を見つけ出したかがわかる。
上辺を撫でずにやり遂げるために
もっと人が集まるところはないのだろうか。わざわざ赴くテーマパーク以上に、日常的に訪れてしまう場所のほうが集客力は強そうである。
思い浮かぶのは、駅だ。人混みに紛れる場所、としてもっとも連想しやすいところであろう。
日本一乗降客数が多い駅といえば新宿駅。JRと私鉄を合わせて、1日におよそ350万人もの人が出入りしている。これはギネス世界記録、つまりは世界一でもあるのだ。
▲世界レベルのチャンスがここに
仮にこの350万人で1億を目指すなら、こんなに簡単なことはない。1カ月もあれば1億人には到達できるだろう。
とはいえ、駅にいる全員に会うのはとても難しい。たくさんの出入り口があるし、「乗降」というくらいだから行って帰ったらダブルカウント。駅なので当然リピーターばっかりだ。かなり割り引いて考える必要があるだろう。
たくさんの改札がある中で、代表的なのが東口改札だ。歌舞伎町など繁華街に近く、近場の出口は『笑っていいとも!』の収録が行われていた新宿アルタに隣接している。
▲「アルタ前」でもおなじみ東口
スタジオアルタが出している推計によると、アルタ前の交通量は1日20万人とのこと。これだけでもすさまじい数字だが、ある程度リピーターもいるだろう。
観光客も通勤客も多い地域、ということを考えて仮にリピーターが8割だとしても、毎日4万人の新しい人に会える。稼働時間は2500日、約7年でいい。
これはかなり現実的だ。ビラ配りなどの仕事をしながら達成できるし、週に2日くらい休んだとしても10年で達成可能。いいともの収録に参加することもできる。万事ララライだ。
無理かなーと思って始めたこの計算、なんといい感じの解答に辿り着いてしまった。愛する人に「一億人から君を見つけた」と言うために、今からでもやってやれないことはない、最高の方法である。ついにこの連載で、検証成功のパターンが……!
さあ、あとは粉雪が降るのを待つだけだ。新宿の夜、しっかりとシフトを入れ、「こなぁ〜〜〜〜」したい。
が、ここで復習である。
▲伊沢拓司の低倍速プレイリスト第8回(東京事変『群青日和』で提唱されている「雨が降る原理」を検証したい)より
冬の新宿は、めったに雨が降らない。いわんや、雪をや、だ。
1億人が集まる絶好の立地は、粉雪を降らせるためには最悪の立地なのだ。
/ああぁ〜〜〜〜〜\
完璧かと思われた理論も、あまりに脆く崩れてしまう。
大事なのは裏付けじゃない。「一億人から選んだ、後悔はない」と言い切ることなのだろう。人混みで確認するまでもなく、ビビッと来る人は来るのだ。たぶん。
「伊沢拓司の低倍速プレイリスト」は伊沢に余程のことがない限り毎週木曜日に公開します。Twitterのハッシュタグ「#伊沢拓司の低倍速プレイリスト」で感想をお寄せください。次回もお楽しみに。
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