4人目:須貝駿貴
ラストに控えるのは須貝駿貴。東京大学の博士課程を卒業し「理科のお兄さん」として活躍する彼ですが、その知力は今回の企画にも生きるのでしょうか。ちなみに年齢的にも一番お兄さんなので、お酒との付き合いも長いはずです。
▲気合は十分
さて皆さん、金属物理学といえば誰を思い浮かべますか?
「誰を思い浮かべますか?」
目が怖いのよ。
まず金属物理学がわからないです。
僕は皆さんも大好きであろう、あの教科書も書いた偉人を再現しようと思っています。
あ、これ置いてかれるやつなんですね。
今日メインで使うお酒がこちら。あんずのお酒です。
▲全ての動作が得意気
「あんず」であることが大事なんですか?
そう! ちなみにあんずって、英語でなんというか知ってますか?
アプリコットですか?
そう! 正解です。アプリコットが大事な要素になるので覚えておいてくださいね。この偉人、主要な論文を発表したのは1958年と、偉人というには少し最近の人物です。彼は金属物理学にも多大な貢献をしておりますが、やはり注目したいのは超伝導についての業績でしょう。
やっぱり超伝導の関係なんですね。
超伝導:ある温度以下の低温で、金属・合金の電気抵抗がゼロになる現象のこと。
※須貝は超伝導に関する研究で博士号を取得している。
▲口も手も止まらない
そして超伝導につきものなのはそう、大量の寒剤!
▲ここで爆笑する理系陣
寒剤:低温度を得るために用いる物質のこと。液体ヘリウムや、液体窒素などが使われることが多い。
だから大量に氷があるんだ。
超伝導にはどう考えても足りないだろ。
※金属によって異なるが、多くの場合20K(-253℃)以下の低温が必要になる。
そう、0℃ってのは熱過ぎなんですけどね。今回は食品縛りということで妥協しました。本当はヘリウムを使いたかったんですが。
用意されなくてよかった。
こちらでガンガン冷やしていきましょう。でね、ほとんどもうこれで終わりよ。
カクテルって知ってる?
冷やしあんず酒だ。
でね、一旦こいつをこのまま混ぜます。
おお、いい……!
何がよ。
渦だ……!
ジャカジャカジャカジャカ
この状態こそが、完成なんです。
そんなことある?
渦が止まっちゃうと良くないんですか?
そう、この渦のまま提供したいんですよね。
でも、僕が欲しいのはただの渦じゃないんですよね。磁束渦なんです。というわけでこちら、磁石を用意しました。
▲チャンイケ「意外と普通の磁石だ」
彼の業績には磁場がつきものなんですよねェ……!
えっ、このテンションついていけてないの私だけですか?
一旦磁場をかけながらを渦を作りますね。磁石で渦、イイ……!
▲もう誰にも止められない
さて、ここで紹介すると今回僕がイメージするのはアブリコソフという偉人です。アブリコソフはソ連の科学者で、超伝導に磁場をかけるときに超伝導がどう壊れるか、ということについての研究をした人なんですね。
アブリコソフ:旧ソビエト連邦の物理学者。特に超伝導についての研究で知られ、2003年にはその業績からギンツブルク、レゲットと共にノーベル物理学賞も受賞している。
アブリコソフという名前には、ロシア語で「あんず」の意味もあるわけです。だからあんず酒を選んだんですよね。彼は超伝導が壊れるときに磁場の周りに渦が生まれる「超伝導磁束渦」の研究をしたことで――
なんとそれが格子状に並ぶことを予言したんですねェ!
▲あさぬま「磁束……渦……?」
???
あさぬまさん帰ってきて。
あっ、ごめんなさい! 格子じゃなくて一本になるときもちゃんと予言してましたよ。あのギンツブルグ・ランダウ方程式を使ってですよ! それでその後――
というわけで僕の専攻分野が超伝導磁束渦なわけですよ。もうこんなの尊敬するしかないんですって。でね、後にクライナーさんって人がいて、その方は三角格子を組んだ方が安定するんじゃないかって言ったんですよ。今ではこれは超常識の事項ですね。だからお酒のクライナーも入れます。
▲パリピ酒として名高い「クライナー」も投入
クライナー:ドイツの物理学者。アブリコソフの理論を計算し直し、多くの場合三角格子が安定であることを示した。お酒のKleinerと綴りが同じ。
それ混ぜると味はどうなるんですか?
わからないです。
味の話は今してないんで。
あ、はい。
アブリコソフとクライナー、この二人がいてこそ今の僕がいるわけです。彼らがいなければ僕の博士号はありませんでしたからね…… 。そして最後、仕上げに用意したのは塩です。塩は四角の結晶を組むことで知られていますよね。これをひとつまみ。
▲チャンイケ「そのパロディ久しぶりに見ましたよ」
そういうのいらないいらない。
ともあれ、これで僕のカクテルは完成です。
須貝駿貴の偉人カクテル
あれ、そういえばさっき格子は三角のほうが安定するって言ってなかったですか?
イイ質問ですね! 2011年のPRBに投稿されたカランらの研究によれば――
ヤバい、ほっといて早く飲もう。
試飲
自身の専門分野をひっさげ、他の参加者を圧倒した須貝。よどみのないプレゼンで駆け抜けましたが、味の方はいかがでしょうか。
まず動的な状態じゃないと完成しないカクテルってなんなんだ。
▲「全然いけるわ」
やべえ、普通においしくて腹立つんだけど。クライナーの香りもするんだけど、アブリコソフの方が強いのがわかる。
塩加減もいいな。バランスが取れてる……。
あんずがベースだから当たり前かもですけど、飲みやすいです。
尖った偉人のチョイスとそのプレゼンとは裏腹に、あんず酒をベースに軽いアクセントを加えた構成は味の面でも高い評価を得たようです。突き抜けたインテリジェンスは、偉人カクテルにおいては強烈な武器になることがわかりました。
味から業績の貢献度がわかる……これは偉人カクテルだわ。
あとは以下の教科書を読んでくれよな! 大学院生の御用達です。
高いハードルだ。
終幕
こうして、第2回偉人×カクテル選手権は終わりを迎えました。思えば、4人がそれぞれ全く異なるアプローチで攻める多様さがありました。
しかしながら最後は圧巻のインテリパワーで押し切られることとなった今回。参加者による厳正な協議の結果、コンセプトとプレゼンの鮮やかさから優勝者は須貝駿貴となりました。「熱量が高すぎてちょっと怖かった」「テンションと顔芸に負けた」との声もあります。
次回の開催は果たしてあるのでしょうか。
機会があったら、また次の選手権でお会いしましょう。それでは。
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