こんにちは。ライターの藤原です。
これまで書いた記事は10本に満たないのですが、これほど早く「東大生の本棚」を担当することになるとは思いませんでした。お達しを受けてからどの本にしようかと悩み、せっかくなので、まとまりのあるものをと思い、科学をテーマにしたものを集めてみることにしました。
『浜村渚の計算ノート』青柳碧人
少年犯罪の元凶として学校教育から数学が排斥された日本。それに憤る数学者、ドクター・ピタゴラスこと高木源一郎が結成した「黒い三角定規」がテロ予告を行う。対抗すべく警視庁に設置された「黒い三角定規・特別対策本部」に迎えられたのは女子中学生、浜村渚だった。
印象深いのは、なぜ0で割ってはいけないのかをテーマにした章です。0という数字がつけられた杖で毒ガス入りの容器を割ろうとするテロリストを、0で割ってはいけないという数学的な命題で渚が説き伏せます。
事件の解決と、数学的な納得の両方を同時に味わうことができるのが魅力です。
数学はかなり絡められていますが、本筋はミステリー小説なので、数学が全然わからなくても楽しめます。数学の知識があると、登場人物の名前の元ネタがわかったり、推理がより進んだりしてなお楽しいです。数学愛に溢れる渚の話を聞くと、自然と数学への興味が湧きます。
『数学ガール』結城浩
数学が趣味の高校2年生「僕」と同じく数学を趣味とするクラスメイトのミルカ、そして数学に興味を持ち始めた後輩のテトラ、「僕」の従妹の中学生ユーリの4人が高校数学の延長から過去の超難問まで様々な問題を解きながら数学の世界を旅していく。
上のシリーズに比べると、こちらはより数学に主眼が置かれたものになっており、ガロア理論、トポロジーなど難しい内容も扱われています。
助けになるのは、数学初心者の登場人物・テトラやユーリの存在です。ひとりで読んでいては読み飛ばしてしまいそうな疑問点を、彼女たちは拾いあげてくれます。「例示は理解の試金石」というよく出てくる言葉は、今でも科学を理解するときに目標とするものです。
同じ著者の、『数学ガールの秘密ノート』シリーズは内容が高校数学寄りになっていておすすめです。
『元素生活』寄藤文平
元素を紹介した本であるのに、よくある球のモデルはほぼ登場しません。登場するのは様々な個性を持った「元素」というキャラクター。私たちを囲む元素の基礎知識を、絵とキャラクターを通して、元素目線で見る。
元素の発見された年、状態、特性、現在の用途を人物の年齢、体型、服装、髪型などで表現しているので、本の中にはおじさんがたくさん並んでいます。無機的で覚えにくい元素の特徴を、人と仲良くなるように覚えることができる……かもしれません。クラスメイトが普通の周期表を使っているなかで、おじさんが並んだ周期表を使うのもなかなか楽しいです。
読んだ当時は、高々100種類くらいの元素でこの世界は説明できるのか、という感動か何かよくわからない気持ちになりました。数の限られた理論や物質で世界を説明しようとするところが、科学の魅力の1つだと思います。
以上3作品になります。大学の期末試験で心が荒んでいても、このような本を引っ張り出してくると、純粋に科学に興味を持ち始めた頃の気持ちを思い出せますね。もし何かの機会に触れてみて、数学や理科って面白いんだなあと思っていただけたらうれしいです。