QuizKnock

アプリで記事をもっと見やすく

インストールする

カテゴリ

ログイン
PR
日本甜菜製糖株式会社

もっと! 知識で楽しめる短歌

知識でより深く楽しめる短歌がある、ということがお分かりいただけたところで、同じように、背景を知ることによってより豊かな読み方ができる作品を紹介していく。

ただ一言ثلجサルジュと呼ばれる

アラビアに雪降らぬゆえただ一言ثلجサルジュと呼ばれる雪も氷も

千種創一『砂丘律』(筑摩書房)

中東のレバノンに在住経験のある歌人によって詠まれた歌だ。

アラビア半島は主に砂漠気候に属し、雪がめったに降らない地域が多い。それゆえ、「雪」と「氷」との概念が分かたれておらず、一様に「ثلج」という語で表される。

ちなみに一部の研究によれば、「雪」を表す言葉が最も多いのは、イヌイットの話す言語だと言われている。カナダ北部の氷雪地帯で生活するイヌイットは、日々のほとんどを雪の中で過ごすため、様々な種類の雪を、私たちが使う日本語よりもずっと細かく区別して呼び分けているとされるのだ。

気候や文化などの背景が違えば、言葉による世界の切り取り方も変わる。私たちは今、日本語で短歌を楽しんでいるが、もしかすると、別の言語圏で暮らす人の目には、私たちには認識しえないものが映っているかもしれない……と想像が膨らむ一首だ。

石を投げまくる人

「石を投げなさい」のところしか聞いていなくて石を投げまくる人

宇野なずき『願ったり叶わなかったり』(短歌研究社)

『ヨハネによる福音書』に記されたキリストの有名な逸話から取られた歌だ。

キリストは、石打ちの刑に処されそうな女性を前に、群衆に対して「罪のない者がまず石を投げよ」と言った。すると人々は誰も石を投げることができず、みな立ち去ってしまった、という結末が待つ。

しかしこの歌の中では、そんな教訓あふれるエピソードは度外視だ。キリストの言葉のうち、都合のいい部分だけを切り取って、自分の罪を省みることなく、目の前の罪人へ石を投げる人。

人の言うことに耳を傾けなかったり、ネットの「炎上」に便乗して渦中の人を攻撃したりという、現代社会の在り様を示唆するような一首となっている。

さあ、現代短歌を楽しもう!

短歌は、ごく短い言葉からなる文学だ。しかし、多くの歌には、作者の思いや意図が、言葉にはならない奥行きとして存在している。

私たちは、歌が詠まれた背景に思いをはせることで、より豊かに作品を楽しむことができる。そのとき、「知識」が大きな翼となるのだ。

三十一文字みそひともじという短さは、読者へ提示できる情報量を制限するが、しかしそれゆえに、読者の知識、経験、想像力によって果てしない広がりを見せる。
短歌とは、無限の可能性に満ちた文学なのだ。

ぜひ、書店や図書館で、あなたのお気に入りの一首を見つけてほしい(おすすめとして、筆者が寒い季節に読みたくなる歌集は安田茜結晶質だ)。それはきっと、あなたに寄り添ってくれたり、新しい視点をくれたり、思い出の中の人にまた会わせてくれたりする。


【あわせて読みたい】

2
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。

関連記事

この記事を書いた人

波戸なお

早稲田大学で社会学を学んでいます。小説や短歌、絵画など、様々な芸術に触れるのが好き。推しはチェンジではなく増やす派です。私の記事を皆さんの新しい「推し」に加えていただけるよう頑張ります。

波戸なおの記事一覧へ