毎年、お盆と年末の2回開催される同人誌即売会「コミックマーケット」、通称コミケ。
そんなコミケに、参加者の間である種の「伝説」とされている現象がある。
多くの参加者の熱気によって会場にできる「もや」、いわゆる「コミケ雲」である。
常に熱く(暑く)、夏は毎年熱中症が発生するほどのコミケだが、コミケ雲が発生するのは「特に暑く」「特に混んでいる」ときだけ。
コミケは
・暑いとつらい
・人が多いとつらい
から、コミケ雲は「つらいコミケ」の証ともいえる。
コミケ以外でも、ライブの熱狂などによって湿気がたまり、似たような状況になることはある。しかし、東京ビッグサイト(コミケの会場)レベルの広く風通しがある空間で雲ができるのは尋常ではない。
真夏のコミケでは何が起きているのか。数字で見てみる。
人が集まって雲ができるのは、人から出る(汗などの)水分が空間の湿度を上げるから。
しかし、単に湿度が高ければ雲ができるという訳でもない。加湿器を置いた部屋に霧がかかったら大変だ。
白く見える雲や霧の正体は、空気が冷えて水蒸気(水が完全に気化した状態)を含みきれなくなり、細かい液体(≠水蒸気)に戻ったもの。
実は、コミケ雲のでき方も自然の雲とかなり似ている。
会場の下の方では湿度が上がる一方、会場の上部は空調により空気が冷やされている。湿った空気が上部に上って冷やされ、空気が含みきれなくなった水蒸気が液体になったとき、コミケ雲として白く表れるのだ。
さて、具体的にどれだけ混んでいれば雲が発生するのか計算してみる。
(熱力学とか気象学とかを知らないなりの考察なので、その方面の方で興味があれば正しく計算してください)
ここでは、1平方メートル分の床を切り取って考える。コミケの主要会場である東京ビッグサイト・東展示ホールの天井高は、最も高いところで31mという。
この空間が水蒸気をどの程度保持できるのか考えよう。
人が密集した床付近は暑いが、天井付近は空調の冷気があるとする。床の温度を34℃、天井の温度を20℃としよう。
湿度については、どれだけの人が汗をダラダラかいていてもせいぜい80%(雨の日でも湿度は80~90%にしかならないという)だろう。これが天井に向かうにつれ冷やされ、湿度が上昇すると考え、天井の湿度が100%になるとする。
温度と湿度は一定の割合で変化するとした。この条件で空間に含まれる水蒸気量を計算すると746g。
空気中に1立方メートル当たり数gの水滴が浮かぶと濃い霧になるというから、750g水蒸気を出せば、その差が雲になるはずである。
さて、何人の汗かきがいればこれだけの水蒸気が出るのか。
調べると、じっとしている状態で人間は1時間に約25gの水分を放出しているという。蒸し暑い中で活動すればもっと増えるだろう。
図に示すとおり、1平方メートルに入れるのは8人くらいだろうから、1人100g水蒸気を放出していれば1時間で750gを超えることになる。
……何とも微妙なラインだ。本当にそんなに水出るかな。
ポカリスエットのwebサイトによると、サッカーを1時間半プレイすると約2000mlの汗をかくそうだ。意外と多い。 この面積で全員がサッカーばりに動くのは無理そうだが、通勤でも27℃の下で1時間に約200mlの水分を放出するとのこと。 これなら、島から島を移動する間に達成できそうな分量だ。会場にいる人間のうち半分が動き続けていれば、1人100gは放出できるだろう。
ただ、
・汗がめちゃくちゃ出るくらい暑い
・人がぎっしりいる
この両者が成立しないとコミケ雲は出ないと分かった。
想像してみてほしい。気温34℃湿度80%の会場でする押しくらまんじゅうを……。つらい。
それでもオタクは宝を求め、コミケに赴く。
参考文献