人生最大の決断は「アニソンをやったこと」
人生最大の決断だったと思うことはありますか?
ああ……でもやっぱり、アニソンをやったことかな。
当時所属していた事務所のマネージャーさんが勝手にアニソンシンガーのオーディションに応募してて。急に電話がかかってきて、「第3次審査受かったから、つぎ仮歌をスタジオに録りにいくよ!」って言われたんです。
「何も聞いてないですけど……」って思いながら行ったら、いまユニット「OxT(オクト)」を一緒にやっているTom-H@ck(トム-ハック)がスタジオにいて。「ちょっと歌ってもらえますか」って言われて仮歌を歌ったら、その仮歌がそのまま採用されました。それが『ダイヤのA』の『Go EXCEED!!』ですね。
じゃあ、Tom-H@ckさんとは最初のデビューがきっかけで出会ってるんですか?
そうそう。
激アツな事実ですよ、みなさん。
そこが「人生の最大」って言ってます!
でも、アニソンをやることに対してのちょっとした後ろめたさも実はあって。
なんでかというと、僕今まで硬派なバンドとか硬派なソロシンガーとしてがんばってきたんです。
自分でギターを弾きながら歌を歌うのを自分のミュージシャンシップとしてのルールにしてたんです。アニソンシンガーになるってことは、カラオケ(音源)で歌を歌わなきゃいけないとか、そういうステージも増えていく。そこが、今まで培ってきた音楽人生を手放すことになるから、どうしようかなって思って……。
それで、名前を「オーイシマサヨシ」に変えました。
カタカナ名義にすることで、「カタカナのオーイシマサヨシは、アニソンとエンタメにステータスを振った存在ですよ」としたんです。「オーイシマサヨシ」と「大石昌良」は別の人物ですってことで……なんとかファンの方をちょろまかしてる。
バレてると思いますよ?(笑)
(笑) でも、立ち回りやすいですね。やっぱりひとつの手段として、名前を分けちゃうっていうのは、世渡りするための術としてはすごくいいなと思います。
もしかして……アニソンデビューするときに眼鏡もかけました?
正解!
これもスイッチにしたかったんです。変身できますよね。僕眼鏡かけてないときマジで無口ですし。
絶対嘘!!!
でも、眼鏡かけたら……?
こうなっちゃうんですよね〜。(笑)
歌手になって気付いた「結局、自分発信」
オーイシさんが歌手として働き始めてから感じた、「歌手」という職業のイメージに違いはありましたか?
めちゃくちゃありました。デビューしたらスター街道が待ってると思っていたら実はそうじゃなくて……どこまでも自営業なんだなって。
全部事務所がやってくれると思ってたら……確定申告も自分でやらなきゃいけないとか。アーティストとして歩いていく方針も、チームで決めるけど、結局自分発信。どこまでも自分で決めなきゃいけないんだなって思ったのがびっくりしましたね。
人生を変えた「恩師の一言」
いま「歌手」というお仕事をされていますが、いまの仕事に役立っている、高校・大学で学んだことはありますか?
高校の時に進路指導の先生で恩師がいて。
「絶対音楽家になるんだ!」っていう気持ちが先走っていて。僕、高校を卒業したら音楽の専門学校に行こうとしてたんですよ。
でも、進路指導の先生が「がんばって勉強してるから、4年制の大学にいったらどうや」「4年制にいったら、4年間準備期間があるぞ」と。なんか妙に納得して。で、4年制の大学に進学することになって、軽音楽部で入ったバンドがデビューするっていう運命の巡り合わせがあったんです。
別の世界線があったかもしれないですけど、今思っている正解は正解じゃなくなるかもしれない。別の正解が用意されている可能性もある。柔らかい脳みそでいなきゃいけないっていうことを学んだりしましたね。
歌手になりたいと思いながらも学校で勉強していた時、どういうモチベーションで勉強していたんですか?
「勉強はそれなりにやってるけど、音楽もがんばってんねん!」みたいな感じですかね。親とか友達とか先生に対する、バンド活動をやるための免罪符じゃないけど……。
なるほど! 要は、自分の好きなことをやるために勉強もがんばっておかないとということですよね。
うんうん。今もそうなんですけど、自分が作るものに対してあまりストレスを感じたくないんですね。で、「環境を整えるのは自分だ」って思ってるんで、当時は誰も口出しができないように、「勉強はちゃんとして、それで音楽をストレスフリーでやろう」みたいなことだったと思うんです。
曲はどうやって作っているの?
曲を書くぞ! っていう時は、一気に書くんですか?
いや、わりとじっくり書くかも。アニソンって面白くて、まずテレビサイズから作るんです。
1分半でしたっけ?
いや、厳密には89秒。
89秒!? どの曲も89秒なんですか!?
例外はあるけど、だいたい89秒フォーマットです。
編集部注:アニメのオープニング曲やエンディング曲に与えられる時間は概ね90秒だが、曲のはじめと終わりに0.5秒の無音が挿入されるため、実質的な曲の長さは「89秒」となる。
89秒をまず提出してからそれでOKいただいたら、そこからフルコーラス作る。大体アニソンクリエイターはそんな作り方をしています。
そうなんだ! じゃあ、アニメだけ見てるとあんまり聴かない3番みたいなのは後から作ってるんですか?
あれはほぼ後付けですね。
カラオケ行ったらいつも歌えなくて困るんだよな(笑)。
知らんよこれ! みたいなね。何このDメロ! ってなる。
音楽の理論は「ショートカットキー」?
オーイシさんといえばロジカルに分析して語る印象があります。
音楽の世界って、センス頼みに僕には見えてるんですけど、作詞・作曲をする時に理論的な学びはどれくらい重要なんでしょう? どういうところを意識されていますか?
「音楽は文系か理系か」って話に似てて……両方なんですよね。 で、僕の場合は、いつの間にかできている。もちろん誰かに書いてもらってるとかではなく……(笑)
(笑)
僕は原作原理主義みたいなところがあるので、原作をとにかく読みあさる。で、調べてたら、ぽつぽつとフレーズが浮かんでくる。それをつじつまを合わせるように、クロスワード的に穴埋めをしていく。そしたらいつの間にか1曲の歌詞になってるパターンがすごく多くて。
そこに「ロジカルな何かがあるか」と言われると、ブレない形で世界観を落とし込むのはロジカルな部分かもしれないんですけど。でも、できあがっていくさまはめちゃくちゃ感覚的なところがあるので。
ロジカルに考えすぎると、誰でも作れちゃう歌になる。理論の先は、何回もトライアンドエラーをして、深淵に迫っていくっていうオリジナリティーの作り方をしてるかな。
それは、「音楽のことを全く勉強してなくて適当にやってる」ってわけではなくて、理論は知った上で外したり……ってことですよね?
そうですね。アニソンで特に最近、ロジックで説明できないような、「これは感覚で作ったな」ってわかる転調があるんですけど。
そういう「ロジックだけじゃない何か」を感じた時に歌詞を思いついたりするので、そこに到達するために毎回時間かけてやってるという感じですかね。ただ、やっぱロジックとか理論っていうのはそのいろんなものを省略できるんで、僕はショートカットキーぐらいに思っています。
アニソン最後の「激アツな転調」を考えるためには、この理論知ってたら早い! みたいなことですよね。
そうですね。クリエーターってやっぱり時短を求められるので、そのために理論を使うっていうのは結構あるかもしれないです。その時短をすると、時間配分が楽になったりする。
理論を使ってカットできたぶんは、オリジナリティを出すための「感覚」の部分を考える時間にもあてられるってことですね!
みなさんへメッセージ
最後に、進路に悩むみなさんへのメッセージをお願いします!
自分が正解と思っていることは、意外と将来的に別の選択肢があるパターンがめちゃくちゃ多くて。理想に届かなかったりするシチュエーションがあったとしても、落ち込みすぎない方がいいかなと思います。別の手段ってごまんとある。
逆に落ち込んでる時間のほうがもったいなかったりする。人生の選択肢を探すことを楽しめるぐらい、人生を謳歌していただけたらなと思うので、がんばってください!
ありがとうございました!
オーイシさんのトークは動画でも!