こんにちは、鹿野です。
クイズ番組や漢字テストなどでは、漢字の部首に関する問題がよく出題されます。そのなかで、次のようなやりとりを見かけることがよくあります。
確かに、多くの漢字辞典では「耳」を部首としていて、かつ「耳」が意味を表す部分であると説明しています。
しかし実は、この2人はよくある勘違いをしてしまっています。
▲実は「2人とも」よくある勘違いをしてしまっている
一体、どこが間違っているのでしょうか?
目次
◎そもそも「部首」って何?
◎辞書によって部首は異なる
◎部首は漢字の意味を表すパーツではない
◎まとめ
◎クイズにおける注意点
そもそも「部首」って何?
「部首」という言葉について
漢字辞典では、配列・検索などの便宜上、同じ構成要素をもつ漢字どうしがひとつのグループにまとめられています。このグループのことを「部」といいます。
そして、それぞれの部の先頭(=首)にくる漢字のことを、(本来は)「部首」と呼びます。
▲「部」「部首」のイメージ図
なお「氵」や「亻」などは、それ自身が漢字ではないため(本来の意味では)部首ではありませんが、これらを部首として扱っている辞書もあります。
このように「部首」という言葉は、「部に含まれる漢字に共通するパーツ」という意味でも用いられることがあります(※1)。
部首は誰がどうやって決めた?
漢字辞典の「凡例」「この辞典の使い方」などを見ると、部首がどのように決められているのかがわかります。以下は、各漢字辞典の凡例のうち部首に関する部分を要約したものです。
▲各漢字辞典の部首の決め方
実はこのように、現代の漢字辞典において漢字の部首は、基本的には『康熙字典』(※2)に従いつつも、各漢字辞典がバラバラに、主に字形に基づいて(※3)決められています。どこかの偉い人が「漢字辞典を作るときは、○の部首は△にしなさい」と言っているわけではありません。
「それぞれの漢字辞典が勝手に部首を決めて、本当に良いの?」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし先程述べたように、部首はあくまで辞書における検索のツールです。
「聞」の部首を「門」としても、それはただ辞書における並び順やまとめ方、検索方法を変えていることに過ぎないので、全く問題はないのです。
また、新しい部を作ったり、2つ以上の部を1つに統合したりしても構いません。
辞書によって部首は異なる
部首はそれぞれの辞書が決めるものなので、辞書によって部首が異なる漢字が当然存在します。以下はその例です。
▲辞書による部首の違い
この他にも「営」「争」「内」「化」「冬」「百」「采」「爽」など、辞書によって部首が異なる漢字は意外と多くあります。
しつこいかもしれませんが、辞書によって部首が異なっていても、「〇〇辞典はあえて間違っている部首を載せている」「どの部首が正しいのか諸説ある」のではありません。部首は最初から漢字に備わっている性質ではなく、それぞれの辞書の中だけに存在する概念なので、そもそも「正しい部首」というものは存在しないのです。
ここまで読んでくださった方の多くは、「部首は辞書が原則として字形にもとづいて勝手に決めるものなので、漢字の意味とは関係ない」と納得していただけたと思います。
しかし、次のような疑問をもつ方もいるかもしれません。
そこでここからは、部首と意味の関係について解説していきます。
部首は漢字の意味を表すパーツではない
これを理解するためには、まず「意符」というものについて知る必要があります。
「意符」とは何か?
多くの漢字は意符(意味を表すパーツ)と音符(音読みを表すパーツ)からできています。例えば「河」において、意符は「氵(=水)」、音符は「
意符と部首を混同している方は多くいますが、以下のような相違点があります。
▲部首と意符の相違点
なお、意符と部首が一致することは非常によくあります。例えば「河」の場合、同じく「氵」が意味を表す漢字が他にもたくさんあってわかりやすいので、わざわざ「氵(水)」以外の部に分類して配列するメリットはあまりありませんよね。
しかしあくまでも、「部首」と「意符」は別の概念です。配列・検索の便宜上分類した結果として、意符と部首が一致することが多いというだけです。
意符と部首が異なる例
意符と部首が異なる漢字の例として、以下のようなものがあります。
▲意符と部首が異なる例。他にもたくさんある
例えば「輝」という漢字は、「光」の部分が意味を、「軍」が音読みを表します(「揮」「暉」のように、「軍」を含む漢字は「キ」と読むことがあります)。しかし『康熙字典』では、意符である「光」ではなく、音符の一部である「車」が部首となっています(※4)。
また「上」「丈」「世」「丘」などの漢字は漢数字の「一」と意味上の関係はありませんが、『康熙字典』において部首はすべて「一」となっています。
つまり、『康熙字典』から変更が加えられ部首と意符が一致しなくなってしまった漢字は確かに存在しますが、そもそも『康熙字典』の時点で部首と意符が異なる字はあったということです。
ちなみに、漢字のなかには成り立ちが不明な字や、意符が1つも存在しない字などもあります。したがって、そもそも意符と部首を完全に一致させることは現実的ではないのです。
まとめ
◎部首は、辞書における配列・検索のために存在する。
◎『康熙字典』に則ることが多いが、原則として各漢字辞典が字形をもとに部首を決めている。
◎部首は辞書によって異なり、「正しい部首」は存在しない。
◎意符と部首が結果として一致することは多いが、異なる概念である。「部首」=「意味を表すパーツ」ではない。
おわりに:部首に関するクイズで気をつけていること
最後になりますが、部首に関するクイズを出題するうえで、筆者が普段気をつけていることを述べておきます。あくまで個人の見解なのでご了承ください。
筆者が出題しないクイズの例
多くの辞書は「開」「関」「間」などの部首を「門」、「聞」の部首を「耳」としています。意外性があるためクイズに出したくなりますが、このような「意外な部首」は辞書によって異なることが多いので、「「聞」の部首は何?」だけでは問題が成立しません。
もちろん「〇〇辞典における部首は何?」とすれば答えは一意に定まりますが、こうなると「漢字クイズ」というより「辞書クイズ」になってしまう気がするので、基本的には出題を控えています。
筆者が出題するクイズの例
一般に部首は辞書によって異なります。しかし「
なお「共通する意符は何でしょう?」という問題文にすれば、辞書によって答えが異なるということはなくなりますが、「意符」という言葉は伝わりにくいので、この形式のクイズでは慣例に従って「部首」という言葉を用いるようにしています。
ほとんどの人は、「署」「置」「罪」の部首は「罒」だと考えているはずです。 また、仮に「罪」の部首が「非」であると考えている人がいたとしても、この形式のクイズにおいて不利になることはあまり無いはずなので、(どの辞書の部首を用いたか明記したうえで)出題することがあります。
※1^この意味で「部首」という言葉を使って良いのかは意見が分かれるかもしれませんが、この記事において本質的な話題ではないので深入りしません。
※2^『康熙字典』は1716年に中国(清)で作られた字書ですが、今もなお漢字辞典の権威として知られています。ただし『康熙字典』で初めて部首という概念が作られたというわけではありません。
※3^実は『漢字源』などの一部辞書では、凡例に「漢字の成り立ちから判断して他の部首のところに移動させた漢字もある」などと書かれています。しかしあくまでも「移動させた漢字もある」だけであり、「字形からして2種類以上の部に分類できそうなときは、漢字の意味により関係がありそうなほうを部首としたものもある」程度に捉えたほうが良いと個人的には考えています。
※4^ちなみに『龍龕手鑑』などでは「輝」「耀」は光部にあります。
【参考書籍】
宇野茂彥ほか編(2023)『旺文社漢字典』第四版,旺文社.
小川環樹ほか編(2017)『角川新字源』改訂新版,KADOKAWA.
公益財団法人日本漢字能力検定協会編(2019)『漢検 漢字辞典』第二版.
佐藤進ほか編(2017)『全訳 漢辞海』第四版,三省堂.
長澤規矩也ほか編(1990)『新明解漢和辞典』第四版,三省堂.
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